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一般社団法人 社会構想デザイン機構

食料自給率38%の構造 — グローバル化時代の「食の安全保障」を問い直す

ヨコタナオヤ(横田直也)
約7分で読めます

農林水産省は同じ日に、カロリーベース38%、生産額ベース64%、摂取熱量ベース46%という三つの自給率を公表した。38%は輸入飼料で育てた畜産物を除いた数字で、除かない「食料国産率」は47%。この9ポイントが「国産」表示の裏側にある。年間461万トンの食品ロスと子どもの貧困が同時に存在する構造を、統計の作り方から読み解く。

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ざっくり言うと

  1. 農林水産省は同じ日にカロリーベース38%・生産額ベース64%・摂取熱量ベース46%を公表しており、どの数字を引くかで話の重さが変わる
  2. 38%は輸入飼料で育てた畜産物を除いて計算した数字で、除かない「食料国産率」は47%。この9ポイントが「国産」表示の裏側にある
  3. カロリーベースは1965年度の73%から1995年度の43%まで落ちたあと、2000年度以降の25年間は37〜40%で動いていない

何が起きているのか

日本の食料自給率38%の現状と輸入依存の脆弱性を概観

日本の推移
1960
79%
1970
60%
1980
53%
1990
48%
2000
40%
2010
39%
2020
37%
2024
38%
国際比較(2024年前後)
カナダ200%超
豪州170%
米国120%超
フランス100%超
ドイツ約80%
英国59-62%
日本38%
食料自給率(カロリーベース)の歴史的推移と国際比較 — 日本はG7で最低水準

棚は満ちていて、自給率は38%

スーパーの棚には食品が溢れている。コンビニでは24時間、温かい弁当が手に入る。この「豊かな食卓」の裏側で、日本の食料自給率はカロリーベースで 38% 。前年度と同じ水準である。

同じ発表に、三つの数字が並んでいる

ただし、農林水産省が同じ日に公表した数字は38%だけではない。生産額ベースでは64%、摂取熱量ベースでは46%である。生産額ベースは前年度から3ポイント上がり、摂取熱量ベースは今年度から新しく公表が始まった指標で、平時に必要な摂取熱量1,850kcalのうち国内供給が860kcalを占める、という計算である。同じ年の同じ国を測って、38%にも64%にもなる。どの数字を引くかで、話の重さが変わる。

長期の形も、指標によって違う。カロリーベースは1965年度の73%から1995年度の43%まで30年で30ポイント落ちたが、2000年度に40%になってからの25年間は37%から40%の幅で動いていない。農水省自身も「2000年代に入ってからは概ね横ばい傾向」と書いている。落ちているのではなく、止まっている。

「国産」の裏側にある飼料

品目別に見ると、輸入への傾きが分かる。カロリーベースの自給率は小麦16%、大豆24%、砂糖類32%、果実27%である。そして飼料は、飼料自給率26%にとどまる。

ここに、この統計のいちばん重い作りがある。総合食料自給率の38%は、輸入した飼料で育てた畜産物の分を国内生産から除いて計算されている。除かずに計算した「食料国産率」はカロリーベースで47%である。この9ポイントの差が、「国産」と表示されながら外国の土壌と水で育った分にあたる。国産の表示が覆い隠すもう一つの現実は、統計の側では最初から分けて数えられている。

飼料穀物
~100%
米国・ブラジル・アルゼンチン
極高
化学肥料原料
~100%
中国・マレーシア・カナダ
極高
大豆
92.4%
米国 63%・ブラジル・カナダ
小麦
約85%
米国 48%・カナダ・豪州
牛肉
約60%
豪州・米国
豚肉
約50%
カナダ・米国・デンマーク

世界第3位の食料輸入国(679.2億ドル/2023年)。特定国の不作・輸出規制が直接的打撃となる構造

主要品目の輸入依存度と供給国集中リスク — 大豆92.4%、飼料穀物ほぼ100%

供給網の危機が、脆さを次々に見せた

IFPRI(国際食料政策研究所)の分析が示すように、近年のサプライチェーン危機がこの脆弱性を次々と顕在化させた。COVID-19による各国の輸出規制、ウクライナ戦争に伴う化学肥料価格の3年前比50%上昇、紅海危機でのコンテナ運賃倍増。いずれも日本の「食の安全保障」を直撃しうる事態であった。直接的な食料不足には至らなかったが、それは幸運の結果であって、構造的な耐性の証明ではない。

背景と文脈

戦後食料政策と食文化変容、農業担い手問題の構造的要因を分析

半世紀で、米が食卓から退いた

なぜ自給率はここまで下がったのか。単なる「食生活の変化」では説明しきれない構造がある。

農水省が挙げる長期の理由は、米の消費が減る一方で畜産物と油脂類の消費が増えたことだ。米の1人1年当たり消費量は2024年度で53.4kgである。前年度からは6%増えたが、水準そのものが低い。国内で作れる米が減り、国内で作りにくい小麦と飼料と油の消費が増えれば、自給率は下がる。学校給食を通じたパン食の普及など、戦後の政策がこの変化を後押ししたという指摘もある。食文化の変容と輸入依存の深化は、表裏一体の関係にある。

人は減り、法人は増えている

農業の担い手問題も深刻さを増している。自営農業を主な仕事とする基幹的農業従事者は98万6,600人で、前年から4万9,600人・4.8%減った平均年齢は67.7歳で、年齢別の構成比は65〜69歳13.7%、70〜74歳21.2%、75歳以上35.3%。3つを足すと65歳以上が7割を占める。29歳以下は1.2%である。

ただし、減り方は一様ではない。農業経営体の数は79万9,700で前年比4.4%減だが、そのうち法人経営体は3万4,600で2.4%増えている。1経営体あたりの経営耕地面積も北海道34.6ha、都府県2.7haで、どちらも前年より増えた。人は減っているが、残った経営体は法人化し、面積を広げている。衰退の一語では、この動きは拾えない。

気候変動が追い討ちをかける

気候変動が追い討ちをかける。高温障害による白未熟粒の増加は、すでに主産地で問題になっている。小麦は単収の減少で生産量が6%減り、109万トンから103万トンへ落ちた。大豆も単収の減少で3%減っている。2024年度にカロリーベースが上がらなかった理由のひとつが、この単収減である。輸入先の干ばつと国内の単収低下が、同時に進む構図だ。

45%という目標は、20年動いていない

2024年には食料・農業・農村基本法が25年ぶりに改正され、2025年4月に新基本計画が閣議決定された。カロリーベース自給率の2030年目標は45%。しかしこの数字は前回計画から据え置かれたものであり、実績は2000年度以降ずっと40%前後で、45%には一度も届いていない。目標の反復は、構造変革の不在を映す鏡でもある。

構造を読む

食料安全保障の構造的矛盾とその解決策を多角的に検討

食品ロス464万t/年1人あたり約101g/日を廃棄
- 事業系 231万t- 家庭系 233万t

2030年目標を8年前倒しで達成、だが依然として膨大

食料貧困11.5%子どもの相対的貧困率
- ひとり親世帯の貧困率 約50%- 低所得世帯の90%超が「食費不足」

学校休暇中に十分な食事を取れない子ども 50%

食品ロス464万トン vs 子どもの貧困率11.5% — 構造的矛盾

捨てながら、足りない

この問題の核心は、数値の低さそのものにはない。環境省の推計では、年間461万トンの食品が、食べられるにもかかわらず捨てられている。内訳は家庭から約224万トン、事業者から約237万トンである。

その一方で、日本の子どもの貧困率は11.5%、およそ9人に1人にあたる。貧困の「深さ」と食の関わりは別のコラム(このサイトの記事)で扱った。食品ロスの削減自体は進んでいる。それでも、捨てられる量と足りない食卓が、別々の問題として扱われ続けている。自給率が上がっても、この二つは自動的にはつながらない。

そして、捨てられる量は自給率の計算そのものに入り込んでいる。カロリーベースの38%は、国産の熱量を「1人1日当たりの供給熱量2,248kcal」で割った数字である。今年度から加わった摂取熱量ベースの46%は、ほぼ同じ国産の熱量を「平時に必要な摂取熱量1,850kcal」で割っている。分子はほとんど変わらず、分母だけが約400kcal違う。その差が、供給されながら食べられていない分である。自給率が低く見えることと、食品ロスが多いことは、同じ分母の中で起きている。作る量を増やす話と、捨てる量を減らす話は、別々の政策として並んでいるが、統計の上では地続きだ。

地産地消では、届かない

「地産地消」は理念として正しい。だが日本の農地面積と農業従事者数では、1.2億人の食料需要を自前で賄うことは物理的に困難だ。一方、グローバルな食料調達は平時には安価で多様な食卓を実現するが、パンデミック・戦争・気候災害が同時多発する「ポリクライシス」の時代には致命的な脆弱性へと転じる。

「戦略的自給」をどう設計するか

求められているのは、この二項対立を超えた「戦略的自給」の設計である。安全保障上の重要品目(米・大豆・飼料穀物)の国内生産基盤を維持しつつ、輸入先を多角化してリスクを分散させる。そのために必要なのは、農業を「衰退産業」として捉える視点からの脱却であり、食料安全保障を外交・安全保障政策の文脈に位置づけ直すことだ。

38%は、日本だけの話ではない

世界の富の集中がグローバルな構造問題として加速する(このサイトの記事)なかで、食料の分配もまた構造的不均衡を抱えている。日本固有の問題ではなく、グローバル化がもたらす恩恵と脆弱性の表裏。その縮図が、38%という数字に凝縮されている。

関連ガイド

関連コラム


この記事で使った統計の出典

  1. 1農林水産省 令和6年度食料自給率(2024年度) 出典を開く
  2. 2農林水産省 令和6年度食料自給率(1965年度→2024年度) 出典を開く
  3. 3農林水産省 令和6年度食料自給率(2000年度→2024年度) 出典を開く
  4. 4農林水産省 令和8年農業構造動態調査結果(令和8年2月1日現在) 出典を開く
  5. 5農林水産省 農業構造動態調査(2026年) 出典を開く
  6. 6環境省 我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和6年度)(2024年度) 出典を開く
  7. 7厚生労働省 2022年国民生活基礎調査(2022年) 出典を開く

参考文献

令和6年度食料自給率・食料自給力指標について農林水産省. 農林水産省

Impacts of Red Sea shipping disruptions on global food securityInternational Food Policy Research Institute (IFPRI). IFPRI

Food Self Sufficiency Rate by Country 2026World Population Review. World Population Review

Japan's Farming Population Rapidly Aging and DecreasingNippon.com. Nippon.com

参考書籍

訂正履歴

  1. 食料自給率と農業従事者の平均年齢、食品廃棄量の書き方を、出典どおりに改めました。

    訂正前
    食料自給率はカロリーベースで38%/基幹的農業従事者の平均年齢は69.2歳/年間464万トンの食品を廃棄しながら
    訂正後
    38%(生産額ベースでは64%、摂取熱量ベースでは46%)/1965年度の73%から1995年度の43%まで30年で30ポイント/小麦16%、大豆24%、砂糖類32%、果実27%

    誤った理由 自給率は基準によって38% / 46% / 64% と大きく動くのに、一つの数字だけを出していました。出典が並べている基準ごとの値を示しています。

読んだ後に考えてみよう

  1. 身近な食卓に並ぶ食材のうち、どれくらいが国産であるかを考えてみてはいかがだろうか。
  2. 食料自給率38%という現実を、どの程度深刻な問題として捉えるべきではないだろうか。
  3. あなたの地域において、食料安全保障を高めるために実現可能な取り組みは何かを検討したい。

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