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一般社団法人 社会構想デザイン機構

「頑張らない世代」は本当か — 学生の価値観変容、採用のミスマッチ、社会参加の再設計

ヨコタナオヤ
約7分で読めます

「頑張らない世代」などというものは存在しない。存在するのは、頑張り方を見失わせた社会環境と、その頑張りを受け止める仕組みの不在である。学生の就職観の変容やボランティア参加動機と企業の採用戦略とのミスマッチを、最新の調査データから構造的に読み解く。

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ざっくり言うと

  1. 「収入さえあればよい」学生8.4%(5年連続増)は怠惰ではなく、物価上昇下の合理的な生存戦略
  2. 企業の採用ブランディングと学生の実際の企業選択基準に構造的ミスマッチが存在
  3. ボランティア動機の「セルフケア化」とSNS時代の点思考は環境の産物であり、NPO・市民社会の設計課題

何が起きているのか

学生の安定志向は怠惰ではなく合理的な生存戦略である

「最近の若者は頑張らない」。この言葉はいつの時代にも繰り返されてきたが、いまの学生を取り巻く状況には、従来とは異なる構造的な変化がある。

マイナビの2026年卒調査によれば、「収入さえあればよい」と答えた学生は8.4%。5年連続で増加し、10年前の3倍を超えた。企業選択のポイントでは「安定している会社」が7年連続最多。「楽しく働きたい」(37.4%)がトップに立ち続ける一方で、「個人の生活と仕事を両立させたい」が25.6%で3年連続の増加。成長や挑戦よりも、安定と生活を優先する傾向は数字として明確に表れている。

だが、これは「頑張らない」のか。物価上昇のなかで食費・家賃の圧迫を感じ、奨学金返済を見据えた学生にとって、安定志向は生存戦略である。怠惰ではなく、合理性だ。

同時に、別の変化も進行している。ギャラップの2025年調査によれば、日本の従業員エンゲージメント率はわずか7%でOECD最下位。世界平均の21%、米国の32%と比べて圧倒的に低い。「静かな退職」をしている正社員は44.5%、うち71.0%が「入社後に」その状態に移行している。つまり、やる気を持って入社した人が、職場環境によってやる気を失っている。

学生は、この先にある風景を、直感的であれ、見ている。

背景と文脈

企業のパーパス重視と学生の実際の選択基準にギャップがある

「雰囲気で選ぶ」は本当に浅いのか

企業の採用ブランディングと学生の行動には、構造的なミスマッチがある。

問い態度(聞かれたら)行動(実際には)出典
パーパスに共感すると志望度は上がるか?62%以上が「はい」企業選択で社会的意義は上位3位に入らない学情 / ベイジ 2024
タイパを意識しているか?61.1%が「はい」採用サイトの閲覧は1〜5分で離脱判断マイナビ / ベイジ 2024
ボランティアに参加したいか?不参加者の57.5%が「はい」実際の参加率は24.7%日本財団 2023

「聞かれたらYes」と「実際の行動」は別のシステムで動いている。設計すべきは態度ではなく、行動の導線である。

学生の「態度」と「行動」の乖離 — パーパス採用の盲点

学情の調査では、62%以上の学生が「パーパスに共感すると志望度が上がる」と答える。Wantedlyの調査では70%が「共感できるパーパスを持つ会社で働きたい」と答える。ところがベイジの実態調査では、学生が採用サイトで実際に重視するのは「社会的意義」ではなく、「福利厚生」「働きやすさ」「自分がそこにいる姿を想像できるか」である。

この乖離は、学生の不誠実さを示しているのではない。「パーパスに共感しますか」と聞かれれば「はい」と答える。それは態度の表明である。だが実際に企業を選ぶとき、判断基準は「世界観」「雰囲気」「日常の手触り」に移行する。採用サイトの閲覧時間は「5分程度」が30%、「1分程度」が23%。世界観が伝わらなければ、情報量は無意味なのだ。

企業が「ミッション全開」のサイトを作り、学生が1分で離脱する。この現象は学生の問題ではなく、 設計の問題 である。

ボランティアの動機が「セルフケア」に移行している

日本財団ボランティアセンターの2023年調査によれば、学生のボランティア参加率は24.7%でコロナ禍前の水準に回復した。だが、注目すべきは不参加者の内訳である。参加していない75.3%のうち、 57.5%がボランティア参加を希望している。「やりたいのにできない」構造がある。

動機の質も変容している。学習院大学の伊藤忠弘らによる研究では、活動歴の短い学生は「自己成長」「技術習得」を重視し、活動歴が長くなるにつれて「理念の実現」「社会適応」へと移行する。内閣府の2022年度調査でも、参加理由の最多は「社会の役に立ちたい」(約59%)だが、「自己啓発や自らの成長」も上位に並ぶ。

ある対話のなかで、こうした言葉があった。「ボランティアはセルフケアに近い」。誰かに直接感謝されること、SNSのフォロワー数という「記号」ではなく、現場でかけられる言葉の「質量」を感じること。それ自体が動機になっている。

この変化を「利己的」と切り捨てるのは早計である。SNS疲れを感じるZ世代が51%に達し(SHIBUYA109 lab.調査)、20代・30代の孤独感が他世代より高い現在(内閣府 令和6年度調査)、リアルなつながりの希少性は上がり続けている。ボランティアが「つながりの回復」の機能を持つようになったことは、社会参加の入口が広がったことを意味する。

「点思考」は個人の問題ではない

「学生は点でしか物事を捉えない」。この観察は、闇バイトの構造にも通底する。警察庁のデータによれば、闇バイト被疑者(学生に限らない)のSNS経由応募は46.9%。「即日高収入」「誰でも簡単」というキーワードに反応する構造は年齢を問わず広がっており、その背景には即時報酬への志向がある。

情報環境

  • ショート動画(15秒完結)
  • SNSの「いいね」即時フィードバック
  • アルゴリズムによる情報の断片化

経済環境

  • 物価上昇と経済的不安
  • 「収入さえあればよい」8.4%(5年連続増)
  • 闇バイト: SNS経由応募46.9%(全年齢)

社会環境

  • コロナ禍でガクチカ形成機会の消失
  • リアルなつながりの希少化
  • エンゲージメント率7%の労働環境

個人の「点思考」は、これらの環境が構造的に強化した結果である

「点思考」を強化する環境構造

だが行動経済学の知見は、時間割引率、すなわち「すぐにもらえる報酬」をどれだけ大きく評価するかが、個人の性格ではなく 環境に強く規定される ことを示している。ショート動画の15秒完結、SNSの「いいね」即時フィードバック、アルゴリズムによる情報の断片化。これらの環境設計が、構造的に「待つ」ことの価値を低下させている。

PISA 2022で日本の15歳の読解力は3位に回復した(2018年は15位に急落)。認知能力そのものが低下しているわけではない。問題は、能力ではなく環境である。 「点でしか考えない」のではなく、点的な認知を環境が強化している と読むべきだ。

構造を読む

若者の価値観変容の構造的要因を分析する

「頑張らない世代」は存在しない

ここまでのデータが示すのは、一貫した構造的メッセージである。

「収入さえあればよい」8.4%は、物価上昇と奨学金返済のなかでの 生存戦略 である。コロナ禍で課外活動やインターンの機会を失い、ガクチカの素材に不安を抱える学生が多数いることは、複数の就職活動調査が裏付けている。物理的に 頑張る機会を奪われた 結果である。「静かな退職」44.5%の71%が入社後に移行しているのは、職場環境がエンゲージメントを毀損している 証拠である。「雰囲気で選ぶ」は、情報過多環境における 合理的な適応戦略 である。

「頑張らない世代」は存在しない。存在するのは、頑張り方を見失った環境と、頑張りを受け止める仕組みの不在である。

社会参加の再設計:NPO・市民社会への示唆

この構造を前にして、NPO・市民社会の側にも問いが返ってくる。

第一に、 「世界観」の伝達力 である。学生は採用サイトを1分で離脱する。NPOの広報も同じ視線に晒されている。パンフレットや説明会という従来のチャネルでは到達しない。「自分がそこにいる姿を想像できるか」を1分以内に伝える設計が必要だ。

第二に、 「つながりの回復」としての社会参加 を正面から設計することである。ボランティアの動機がセルフケアに移行しているなら、それを歓迎すべき変化として受け止め、「感謝される経験」「リアルなつながり」を意図的に設計する。利他か利己かの二項対立を超えて、接点そのものの質を高める。

第三に、 「点」を「線」にする導線の設計 である。闇バイトの構造が示すように、「点思考」を批判しても意味がない。問うべきは、「一つの参加体験から次の関わりへ」という導線が存在するかどうかだ。不参加学生の57.5%が参加を希望しているという事実は、設計の余地が大きいことを示唆している。

「頑張れ」ではなく「つながれ」。その仕組みを設計することが、NPO・市民社会の役割である。


この記事で使った統計の出典

  1. 1マイナビ 2026年卒大学生就職意識調査(2025年) 出典を開く
  2. 2Gallup State of the Global Workplace 2025(2025年) 出典を開く
  3. 3日本財団ボランティアセンター 全国学生1万人アンケート(2023年) 出典を開く

参考文献


関連ガイド

参考文献

2026年卒 大学生就職意識調査 (2025年)

令和5年版 子供・若者白書 (2023年)

18歳意識調査 (2024年)

参考書籍

読んだ後に考えてみよう

  1. 自分自身の職場において、入社時のやる気が維持される環境が整っているだろうか?
  2. 就職活動における真の決め手を振り返ると、それは理念だったのか、それとも「雰囲気」だったのかを考えたい。
  3. 「頑張らない世代」という言葉が持つ意味について、どのような感情や違和感を抱くだろうか?

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