一般社団法人社会構想デザイン機構
論考・インサイト

「頑張らない世代」は本当か — 学生の価値観変容、採用のミスマッチ、社会参加の再設計

「頑張らない世代」は存在しない。存在するのは、頑張り方を見失った環境と、頑張りを受け止める仕組みの不在である。学生の就職観・ボランティア動機・採用のミスマッチを構造的に分析し、社会参加の再設計を考える。

何が起きているのか

「最近の若者は頑張らない」。この言葉はいつの時代にも繰り返されてきたが、いまの学生を取り巻く状況には、従来とは異なる構造的な変化がある。

マイナビの2026年卒調査によれば、「収入さえあればよい」と答えた学生は8.4%。5年連続で増加し、10年前の3倍を超えた。企業選択のポイントでは「安定している会社」が7年連続最多。「楽しく働きたい」(37.4%)がトップに立ち続ける一方で、「個人の生活と仕事を両立させたい」が25.6%で3年連続の増加。成長や挑戦よりも、安定と生活を優先する傾向は数字として明確に表れている。

だが、これは「頑張らない」のか。物価上昇のなかで食費・家賃の圧迫を感じ、奨学金返済を見据えた学生にとって、安定志向は生存戦略である。怠惰ではなく、合理性だ。

同時に、別の変化も進行している。ギャラップの2025年調査によれば、日本の従業員エンゲージメント率はわずか7%でOECD最下位。世界平均の21%、米国の32%と比べて圧倒的に低い。「静かな退職」をしている正社員は44.5%、うち71.0%が「入社後に」その状態に移行している。つまり、やる気を持って入社した人が、職場環境によってやる気を失っている。

学生は、この先にある風景を——直感的であれ——見ている。

背景と文脈

「雰囲気で選ぶ」は本当に浅いのか

企業の採用ブランディングと学生の行動には、構造的なミスマッチがある。

問い態度(聞かれたら)行動(実際には)出典
パーパスに共感すると志望度は上がるか?62%以上が「はい」企業選択で社会的意義は上位3位に入らない学情 / ベイジ 2024
タイパを意識しているか?61.1%が「はい」採用サイトの閲覧は1〜5分で離脱判断マイナビ / ベイジ 2024
ボランティアに参加したいか?不参加者の57.5%が「はい」実際の参加率は24.7%日本財団 2023

「聞かれたらYes」と「実際の行動」は別のシステムで動いている。設計すべきは態度ではなく、行動の導線である。

学生の「態度」と「行動」の乖離 — パーパス採用の盲点

学情の調査では、62%以上の学生が「パーパスに共感すると志望度が上がる」と答える。Wantedlyの調査では70%が「共感できるパーパスを持つ会社で働きたい」と答える。ところがベイジの実態調査では、学生が採用サイトで実際に重視するのは「社会的意義」ではなく、「福利厚生」「働きやすさ」「自分がそこにいる姿を想像できるか」である。

この乖離は、学生の不誠実さを示しているのではない。「パーパスに共感しますか」と聞かれれば「はい」と答える——それは態度の表明である。だが実際に企業を選ぶとき、判断基準は「世界観」「雰囲気」「日常の手触り」に移行する。採用サイトの閲覧時間は「5分程度」が30%、「1分程度」が23%。世界観が伝わらなければ、情報量は無意味なのだ。

企業が「ミッション全開」のサイトを作り、学生が1分で離脱する。この現象は学生の問題ではなく、 設計の問題 である。

ボランティアの動機が「セルフケア」に移行している

日本財団ボランティアセンターの2023年調査によれば、学生のボランティア参加率は24.7%でコロナ禍前の水準に回復した。だが、注目すべきは不参加者の内訳である。参加していない75.3%のうち、 57.5%がボランティア参加を希望している。「やりたいのにできない」構造がある。

動機の質も変容している。学習院大学の伊藤忠弘らによる研究では、活動歴の短い学生は「自己成長」「技術習得」を重視し、活動歴が長くなるにつれて「理念の実現」「社会適応」へと移行する。内閣府の2022年度調査でも、参加理由の最多は「社会の役に立ちたい」(約59%)だが、「自己啓発や自らの成長」も上位に並ぶ。

ある対話のなかで、こうした言葉があった。「ボランティアはセルフケアに近い」。誰かに直接感謝されること、SNSのフォロワー数という「記号」ではなく、現場でかけられる言葉の「質量」を感じること。それ自体が動機になっている。

この変化を「利己的」と切り捨てるのは早計である。SNS疲れを感じるZ世代が51%に達し(SHIBUYA109 lab.調査)、20代・30代の孤独感が他世代より高い現在(内閣府 令和6年度調査)、リアルなつながりの希少性は上がり続けている。ボランティアが「つながりの回復」の機能を持つようになったことは、社会参加の入口が広がったことを意味する。

「点思考」は個人の問題ではない

「学生は点でしか物事を捉えない」。この観察は、闇バイトの構造にも通底する。警察庁のデータによれば、闇バイト被疑者(学生に限らない)のSNS経由応募は46.9%。「即日高収入」「誰でも簡単」というキーワードに反応する構造は年齢を問わず広がっており、その背景には即時報酬への志向がある。

情報環境

  • ショート動画(15秒完結)
  • SNSの「いいね」即時フィードバック
  • アルゴリズムによる情報の断片化

経済環境

  • 物価上昇と経済的不安
  • 「収入さえあればよい」8.4%(5年連続増)
  • 闇バイト: SNS経由応募46.9%(全年齢)

社会環境

  • コロナ禍でガクチカ形成機会の消失
  • リアルなつながりの希少化
  • エンゲージメント率7%の労働環境

個人の「点思考」は、これらの環境が構造的に強化した結果である

「点思考」を強化する環境構造

だが行動経済学の知見は、時間割引率——「すぐにもらえる報酬」をどれだけ大きく評価するか——が個人の性格ではなく、 環境に強く規定される ことを示している。ショート動画の15秒完結、SNSの「いいね」即時フィードバック、アルゴリズムによる情報の断片化。これらの環境設計が、構造的に「待つ」ことの価値を低下させている。

PISA 2022で日本の15歳の読解力は3位に回復した(2018年は15位に急落)。認知能力そのものが低下しているわけではない。問題は、能力ではなく環境である。 「点でしか考えない」のではなく、点的な認知を環境が強化している と読むべきだ。

構造を読む

「頑張らない世代」は存在しない

ここまでのデータが示すのは、一貫した構造的メッセージである。

「収入さえあればよい」8.4%は、物価上昇と奨学金返済のなかでの 生存戦略 である。コロナ禍で課外活動やインターンの機会を失い、ガクチカの素材に不安を抱える学生が多数いることは、複数の就職活動調査が裏付けている——物理的に 頑張る機会を奪われた 結果である。「静かな退職」44.5%の71%が入社後に移行しているのは、職場環境がエンゲージメントを毀損している 証拠である。「雰囲気で選ぶ」は、情報過多環境における 合理的な適応戦略 である。

「頑張らない世代」は存在しない。存在するのは、頑張り方を見失った環境と、頑張りを受け止める仕組みの不在である。

社会参加の再設計——NPO・市民社会への示唆

この構造を前にして、NPO・市民社会の側にも問いが返ってくる。

第一に、 「世界観」の伝達力 である。学生は採用サイトを1分で離脱する。NPOの広報も同じ視線に晒されている。パンフレットや説明会という従来のチャネルでは到達しない。「自分がそこにいる姿を想像できるか」を1分以内に伝える設計が必要だ。

第二に、 「つながりの回復」としての社会参加 を正面から設計することである。ボランティアの動機がセルフケアに移行しているなら、それを歓迎すべき変化として受け止め、「感謝される経験」「リアルなつながり」を意図的に設計する。利他か利己かの二項対立を超えて、接点そのものの質を高める。

第三に、 「点」を「線」にする導線の設計 である。闇バイトの構造が示すように、「点思考」を批判しても意味がない。問うべきは、「一つの参加体験から次の関わりへ」という導線が存在するかどうかだ。不参加学生の57.5%が参加を希望しているという事実は、設計の余地が大きいことを示唆している。

「頑張れ」ではなく「つながれ」。その仕組みを設計することが、NPO・市民社会の役割である。


参考文献


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ISVD編集部

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