ざっくり言うと
- 改正女性活躍推進法の3つの柱:賃金格差公表義務の拡大、管理職比率公表の義務化、法の10年延長
- 罰則なき「見える化」はESG投資圧力に依存するソフトローにとどまる
- 「女性活躍」概念自体がケア労働の社会的評価を射程外に置いている構造的限界
何が起きているのか
2026年4月施行の改正女性活躍推進法の3つの主要変更点を解説
2025年6月に成立した改正女性活躍推進法が、2026年4月1日から施行される。主な改正点は3つある。
第一に、男女間賃金格差の公表義務の対象が拡大される。従来は常時雇用労働者301人以上の企業に限定されていた義務が、101人以上の企業に拡大される。「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の3区分で、男性の賃金に対する女性の賃金の割合を算出・公表しなければならない。
第二に、女性管理職比率の情報公表が義務化される。従来は任意公表項目だったものが、101人以上の企業に対して必須となる。
第三に、法の有効期限が2036年3月31日まで10年間延長される。もともと2025年度末までの時限立法であったが、格差解消が道半ばであることを制度自体が認めた形となる。
厚生労働省は改正により中規模企業層での格差の「見える化」が進むとしている。しかし「見える化」の先に何があるのか——その構造を問う必要がある。
背景と文脈
日本のジェンダーギャップ指数等の数値から格差の現状を分析
数字が語るジェンダー格差の現在地
世界経済フォーラムの「Global Gender Gap Report 2025」によれば、日本のジェンダーギャップ指数は148カ国中118位。G7で100位圏外にあるのは日本のみである。
とりわけ深刻なのが政治参画分野で、スコアは0.085(125位)。前年の0.118(113位)から大幅に後退した。女性閣僚の減少が直接の要因である。
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によれば、フルタイム労働者の男女間賃金格差は男性100に対し女性75.8。過去最小の格差ではあるが、OECD加盟国平均の約88と比べると依然として約2倍の水準にある。
管理職比率では、帝国データバンクの2025年調査で女性管理職比率の平均は11.1%と過去最高を記録した。しかし同時に、管理職が全員男性の企業が42.3%を占める。改善は進んでいるが、その恩恵は一部の企業に集中しており、多数の企業では構造が温存されたままである。
M字カーブの改善とL字カーブの固定化
日本の女性労働力率は55.6%に達し、かつてのM字カーブは大幅に改善した。30〜34歳の有配偶女性の労働力率は78.6%に上り、形状は台形に近づいている。
しかし「M字カーブの改善」は「量」の話であり、「質」の話は別の構造を示す。正規雇用率は20代後半をピークに右肩下がりとなる——いわゆる「L字カーブ」問題である。労働力率は改善しているが、その実態は非正規雇用が中心であり、「働いている」ことと「活躍している」ことの間には構造的なギャップがある。
制度の実効性を規定するもの——国際比較
日本と他国の制度設計を比較すると、実効性の差を規定する要因が浮かび上がる。
ノルウェーは2003年に企業の取締役会の40%を女性にする法律を制定し、違反企業には企業登録の抹消という制裁を科した。2008年には全上場企業で40%を達成している。EUは2022年11月に「取締役会ジェンダー・バランス指令」を採択。上場企業に対し非業務執行取締役の40%を少数派ジェンダーとすることを義務づけ、罰金や任命取消の制裁を規定した。達成期限は2026年6月30日である。
日本の制度はどうか。東証プライム上場企業の女性役員比率は18.4%と上昇傾向にあるが、政府目標の「2030年までに30%」は閣議決定にすぎず、法的拘束力がない。行動計画の策定・届出は義務だが、達成状況の報告義務は弱い。虚偽報告への措置は報告徴求→助言→指導→勧告→企業名公表という段階的なプロセスをたどるが、罰則規定はない。
制裁の強度が制度の実効性を規定するという国際的なエビデンスが示す通り、「企業名公表のみ」と「企業登録抹消」の間には、構造的な差がある。
構造を読む
法改正の限界と根本的な構造問題について考察
「見える化」の意義と限界
Iris BohnetはWhat Works: Gender Equality by Designで、データの「見える化」だけでは不十分であり、行動科学に基づく制度設計こそがジェンダー格差を縮小させると論じている。改正法による情報公表義務の拡大は、2つの意義を持つ。第一に、賃金格差のデータが蓄積されることで経年変化の追跡が可能になる。第二に、企業間比較がESG投資やESG格付けの判断材料として機能しうる。
しかし「見える化」が自動的に格差是正につながるわけではない。パーソル総合研究所の調査が示すように、数十年にわたる取組は社内に「懐疑心」と「抵抗感」を蓄積させてきた。数値目標が「数合わせ」に陥り、女性枠にあてがわれたという認識が女性自身の自信喪失につながる逆説も指摘されている。
罰則なき公表義務は、ESG投資圧力や採用市場での評判リスクに依存する「ソフトロー」にとどまる。この構造のもとでは、ESG評価の恩恵を受ける上場大企業と、そうした外圧が効きにくい中小企業との間に、格差是正の速度差が生まれる。
管理職登用の二重構造
女性管理職比率11.1%という数字は過去最高だが、その内実には二重構造がある。
上場企業の女性役員の大半は社外取締役である。社内の昇進ルートを通じた女性役員はまだ少ない。つまり外部から招聘することで数値目標に近づけてはいるものの、組織内部のキャリアパスは変わっていない。
職階別の女性比率を見ると、係長級19.5%、課長級12.0%、部長級7.9%と、上位に行くほど比率は下がる。「ガラスの天井」は依然として存在しており、一部の先進企業の取組が全体の平均値を押し上げる構造になっている。
「女性活躍」概念の再検討に向けて
より根本的な問題は、「女性活躍」という概念自体の定義の狭さにある。現行の枠組みでは「活躍」は管理職登用・賃金上昇に限定されがちであり、ケア労働やアンペイドワーク(無償の家事・育児・介護労働)の社会的評価は射程に含まれていない。
法の有効期限が10年延長されたこと自体が、構造問題の根深さを示している。問われるべきは「情報を公表したかどうか」ではなく、「公表された情報をもとに、組織構造・報酬体系・キャリアパス・ケア労働の分担をどう再設計するか」という、より根本的な問いである。
ジェンダーと組織運営の関係については、「ジェンダー平等の組織設計——構造的アプローチの実践ガイド」も参照されたい。
参考文献
女性活躍推進法特集ページ — 厚生労働省
Global Gender Gap Report 2025 — 世界経済フォーラム
女性登用に対する企業の意識調査(2025年) — 帝国データバンク
女性活躍推進(男女間賃金差異の解消等)に関するアンケート調査結果 — 経団連
女性役員登用をめぐる動向 — 国立国会図書館 調査と情報 No.1322
蔓延する女性活躍への「懐疑」と「抵抗」 — パーソル総合研究所
Gender balance on corporate boards — EU Council
