ざっくり言うと
- SDI は構造的妥当性・因果の明瞭性・社会的波及性・実装可能性・再現性・共創性・学習進化性の 7 軸で社会構想プロジェクトを採点する診断ツールである
- 採点は Claude Sonnet が 1.0 から 5.0(0.5 刻み)で行い、等重み平均から A から D のグレードを判定する
- 7 軸は単独で読むのではなく、impact × feasibility や structure × cocreation といった 2 軸マトリクスで相対的に読み解くのが本来の使い方である
何が起きているのか
SDI が「順位付けツール」と誤解されがちな現状と、本来の設計思想のずれ
ISVD が公開している SDI(Social Design Index、社会構想デザイン指標)について、しばしば次のような誤解が寄せられる。
「総合スコアが何点だったら一流のプロジェクトと言えるのか」。 「他の NPO と比べて自分たちは何位にランクインするのか」。 「7 軸すべてで満点を取るには何をすればよいか」。
これらの問いは、いずれも SDI を順位付けツールとして読んでいる。しかし SDI の設計思想は、順位付けではない。むしろ、自プロジェクトの構造的な強みと弱みを、複数の軸で立体的に可視化するためのフレームとして設計されている。
7 軸すべてで満点を取ることを目指す設計にはなっていない。むしろ、あえて両立しにくい軸(社会的波及性と実装可能性、構造的妥当性と共創性など)を含めることで、プロジェクトが直面するトレードオフを浮かび上がらせることを意図している。
背景と文脈
SDI の設計の背景と、先行する評価フレーム(ロジックモデル・セオリーオブチェンジ・SROI 等)との位置関係
7 軸の構成
SDI の 7 軸は次のように設計されている。
| 軸 | 評価観点 |
|---|---|
| structure(構造的妥当性) | 課題から活動、活動から成果への因果連鎖が論理的に整理されているか |
| causality(因果の明瞭性) | 活動が変化を生むメカニズムが第三者にも理解可能な形で言語化されているか |
| impact(社会的波及性) | 個人や局所にとどまらず、制度・社会規範・市場構造まで及ぶ広がりを構想しているか |
| feasibility(実装可能性) | 必要な体制・リソース・タイムラインが現実的に揃っているか |
| reproducibility(再現性) | 他地域・他組織で展開する際の文脈依存要因と非依存要因が切り分けられているか |
| cocreation(共創性) | ステークホルダーを主体的に巻き込む設計になっているか |
| learning(学習・進化性) | フィードバックやカウンターエビデンスを取り込んで自己更新する仕組みが備わっているか |
採点は Claude Sonnet(生成 AI モデル)が、入力されたプロジェクト記述に基づいて 1.0 から 5.0(0.5 刻み)で行う。等重み平均で総合スコアを算出し、4.0 以上を A、3.0 以上を B、2.0 以上を C、それ未満を D と判定する。
なお、生成 AI による採点は、プロジェクト記述の論理的整合性と完全性を素早く評価するための補助的手段である。社会的変化の実測や第三者評価を代替するものではなく、実地調査・当事者ヒアリング・効果検証と組み合わせて使うことを前提としている。
先行する評価フレームとの位置関係
社会的インパクトを評価するフレームは、これまでにも数多く提案されてきた。代表的なものに、ロジックモデル、セオリーオブチェンジ、SROI(Social Return on Investment)、IRIS+、OECD DAC 評価基準などがある。
SDI はこれらと完全に対立するものではなく、むしろ補完的な位置にある。ロジックモデルは「投入・活動・成果・効果」を構造化するためのフォーマットであり、SDI の structure 軸はその設計の質を採点する。セオリーオブチェンジは「なぜそうなるか」を説明するナラティブであり、SDI の causality 軸と重なる。SROI と IRIS+ は社会的成果を測定・報告するための指標体系であり、SDI の impact 軸の判定材料になる。
SDI が独自に重視しているのは、cocreation(共創性)と learning(学習・進化性)の 2 軸である。多くの既存フレームが「設計と測定」を中心に据えているのに対し、SDI は「設計を支える主体性のあり方」と「設計を更新する仕組み」を採点に含めている。これは社会構想デザインが、固定した設計図ではなく、関係者との協働と継続的な学習を通じて立ち上がるプロセスであるという、ISVD の方法論的な前提を反映している。
Kania と Kramer が 2011 年に提唱した Collective Impact は、共通アジェンダ・共通の測定システム・相互強化的活動・継続的コミュニケーション・バックボーン支援組織の 5 条件を中核に据えるフレームである。SDI の cocreation 軸は、この Collective Impact の「ステークホルダーの主体的協働」を採点軸として明示的に取り込むことで、設計の質を関係性のレベルで評価しようとしている。
なぜ等重み平均か
7 軸を等重み平均にしている設計は、しばしば「業種やフェーズによって重みを変えるべきではないか」との指摘を受ける。たとえば、スタートアップ初期は feasibility が重要であり、成熟期は impact が重要、という具合である。
この指摘には妥当性がある。一方で、ユースケース別の重み付けを採点側で導入してしまうと、採点結果が「重み付けに依存した数字」になり、フレームとしての透明性が失われる。SDI では現在、重み付けは利用者側の解釈に委ねる方針を取っている。総合スコアは参考値とし、軸別スコアと 2 軸マトリクスでの相対位置を主たる読み解きの対象とする。
構造を読む
7 軸それぞれの詳細解説、軸の組み合わせの読み方、ベンチマーク事例から見える典型パターン
7 軸の詳細解説とよくある誤解
7 軸それぞれについて、採点の観点とよくある誤解を整理する。
structure(構造的妥当性)。課題から活動、活動から成果への因果連鎖が論理的に整理されているかを見る。よくある誤解は「ロジックモデルがあれば満点」というものだが、ロジックモデルの存在自体は採点対象ではない。論理的整合性、定義の明確さ、抜け落ちのなさが問われる。
causality(因果の明瞭性)。活動が変化を生むメカニズムが、第三者にも理解可能な形で言語化されているかを見る。相関と因果の混同は、よくある減点要因である。「介入後に変化が観察された」という記述だけでは causality は高くならない。なぜその介入が変化を生むのか、心理的・社会的・経済的メカニズムが説明されている必要がある。
impact(社会的波及性)。個人や局所にとどまらない広がりを構想しているかを見る。規模の大きさが直接の採点基準ではない。100 人の生活を変えるプロジェクトでも、その変化が制度設計や社会規範を動かす波及効果を持てば、impact は高く採点される。
feasibility(実装可能性)。必要な体制・リソース・タイムラインが現実的に揃っているかを見る。「資金があれば実装可能」という記述だけでは不十分で、実行体制(キーパーソン、組織能力、外部協力者)と工程の現実性が問われる。
reproducibility(再現性)。他地域・他組織で展開する際の障壁が想定されているかを見る。マニュアル化されていることは加点要因だが、それだけでは満点にはならない。文脈依存要因(その地域だから成り立つ条件)と非依存要因(どこでも応用可能な要素)を切り分け、後者を明示できているかが問われる。
cocreation(共創性)。ステークホルダーが主体的に巻き込まれているかを見る。会議や説明会の回数が多いことは、必ずしも cocreation が高いことを意味しない。当事者・受益者が設計プロセスの初期段階から参画し、意思決定に影響を与えているかが問われる。
learning(学習・進化性)。フィードバックを取り込んで自己更新する仕組みが備わっているかを見る。「PDCA を回す」と書かれているだけでは不十分で、失敗ログ・カウンターエビデンスの蓄積と、それを組織の意思決定に反映する経路が明示されている必要がある。
2 軸マトリクスで読む
7 軸を単独で読むよりも、2 軸の組み合わせで読むことで、プロジェクトの相対位置とトレードオフが見えてくる。代表的な組み合わせをいくつか挙げる。
impact × feasibility。社会的波及性と実装可能性のマトリクス。impact が高く feasibility が低い領域は「夢物語」となるリスクがあり、impact が低く feasibility が高い領域は「改善どまり」となる。両者をどう接続するかが構想の核心となる。
structure × cocreation。構造的妥当性と共創性のマトリクス。structure が高く cocreation が低い領域は「机上の設計」となり、structure が低く cocreation が高い領域は「運動論」となる。論理と関係性のバランスが問われる。
reproducibility × causality。再現性と因果の明瞭性のマトリクス。reproducibility が高く causality が低い領域は「セレンディピティ(偶然うまくいくが理由は不明)」となり、reproducibility が低く causality が高い領域は「文脈依存(理由はわかるが横展開できない)」となる。
ベンチマーク事例から見える典型パターン
SDI 診断ページでは、ISVD 内のラボ 4 件と機構自体の自己評価を含む 5 件のベンチマーク事例を、比較対象として表示している。本稿執筆時点でのベンチマーク事例はすべて ISVD 内部の事例であり、採点も ISVD 編集部による初期値である点に留意されたい。外部プロジェクトとの比較は、今後の事例蓄積を通じて更新していく予定である。
静かなまちプロジェクト(ISVD-LAB-001、平均 3.79、グレード B)。4 つの研究仮説と Phase 0-3 のロードマップが明示されているため structure が高い。一方、感覚過敏当事者を主たる対象とするため impact は中程度に位置する。「対象を絞ることで深い掘り下げを目指す」というプロジェクトの典型例である。
無知学研究室(ISVD-LAB-002、平均 4.00、グレード A)。情報的不正義というテーマが社会全体に波及する性質を持つため impact が高い。一方、研究主体の性格上、当事者の主体的な巻き込みが限定的なため cocreation に伸びしろがある。「研究の深さ」と「実践への展開」のバランスが問われる典型例である。
社会構想デザイン研究室(ISVD-LAB-003、平均 3.64、グレード B)。6 学術分野のマッピングと Citation ネットワーク分析という設計で structure が高い。一方、メタ研究(研究についての研究)であるため reproducibility は限定的となる。「メタレベルの貢献」をどう測るかは、SDI の今後の課題でもある。
公共資産活用研究室(ISVD-LAB-005、平均 4.21、グレード A)。制度の存在と機能の乖離を構造化して可視化する設計で causality が高く、全国の PPP/PFI 制度全体に波及するため impact も高い。一方、cocreation には今後の伸びしろがある。
一般社団法人 社会構想デザイン機構(ISVD)自体(平均 3.86、グレード B)。機構そのものを自己評価したメタ事例である。継続的改善の仕組み(メモリシステム・フックシステム)で learning が高く、社会構想デザイン分野の確立という長期目標で impact がある。一方、causality は仮説段階にあり、「組織の活動と社会変化の因果」を今後どう実証するかが課題となる。
SDI を使うときの態度
SDI のスコアは、対話の出発点であり、最終評価ではない。
スコアが低い軸を見つけたとき、即座に「改善すべき弱点」として扱うのではなく、そのプロジェクトが構造上引き受けている性質として一度受け止めることを推奨する。たとえば「学術研究は cocreation が低くなりがち」「メタ研究は reproducibility が低くなりがち」というのは、プロジェクトの性格に由来するもので、必ずしも改善対象ではない。
逆に、スコアが高い軸についても、それが「実態」ではなく「設計の見せ方」によるものでないかを点検することが大切である。SDI は記述された内容を採点する以上、記述の上手さに依存する性質を持っている。記述と実態のずれは、別途の評価方法(実地調査、当事者ヒアリング、効果検証)で補完する必要がある。
SDI と上手に付き合うとは、スコアを構想の改善に使うのではなく、構想についての対話の質を高めるために使うということである。
関連リンク
- SDI 診断ページ(/sdi-check)
- 社会構想デザイン研究室(/labs/social-design-foundations)
- 社会的インパクト評価入門(/guides/social-impact-evaluation-intro)
- システム思考入門(/guides/systems-thinking-intro)
参考書籍
社会的インパクト評価と SDI の理論的背景をさらに深く理解するために、以下の書籍を推薦する。
『社会的インパクトとは何か――社会変革のための投資・評価・事業戦略ガイド』(マーク・J・エプスタイン、英治出版)は、社会的インパクトの測定・評価・投資判断のための国際標準的フレームを包括的に整理した一冊。ロジックモデル、セオリーオブチェンジ、SROI といった既存ツールと SDI の関係を位置づける際の参照点となる。
『インパクト評価と社会イノベーション』(塚本一郎・関正雄 編、第一法規。副題「SDGs 時代における社会的事業の成果をどう可視化するか」)は、日本の社会的事業の評価実務に焦点を当てた論集。SDGs 時代の評価指標の選択、ステークホルダーとの共創、評価結果の活用について、現場の事例を交えて解説しており、SDI の運用設計を考える際に実務的な参考になる。
参考文献
Logic Model Development Guide — W.K. Kellogg Foundation. W.K. Kellogg Foundation
Collective Impact — Kania, J. & Kramer, M.. Stanford Social Innovation Review, Winter 2011
Co-creation and the New Landscapes of Design — Sanders, E. B.-N. & Stappers, P. J.. CoDesign, 4(1), 5-18
Double Loop Learning in Organizations — Argyris, C.. Harvard Business Review, 55(5), 115-125
Better Criteria for Better Evaluation: Revised Evaluation Criteria Definitions and Principles for Use — OECD. OECD DAC Network on Development Evaluation