令和8年8月1日から、介護保険施設に入所する人の食費と居住費が上がる。ただし対象は住民税非課税世帯全体ではなく、その内側を4つに割った上の2段だけである。第3段階②では食費が日額60円、居住費が日額100円上がり、月に均すと約4,800円になる。同時に段階を分ける基準額も80.9万円から82.65万円へ動く。給付の線引きが年金の改定に合わせて動く仕組みを読む。
ざっくり言うと
- 令和8年8月1日から、介護保険施設とショートステイの食費・居住費の負担限度額が上がる
- 上がるのは第3段階①・②に該当する人で、第1段階・第2段階は据え置かれる
- 第3段階②では食費が日額60円、居住費が日額100円上がり、合わせて月に約4,800円になる
段階を分ける基準額そのものも、令和7年度の年金改定を踏まえて80.9万円から82.65万円へ動く。第3段階②では食費と居住費を合わせて日額160円、月に均すと約4,800円の増加になる。段階の判定には所得のほかに預貯金の要件があり、第2段階は650万円、第3段階①は550万円、第3段階②は500万円がそれぞれ上限(いずれも単身の場合)。
何が起きているのか
引き上げは第3段階①・②に集中し、第1段階・第2段階は動かない
令和8年8月1日から、介護保険施設とショートステイを使う人の食費と居住費が上がる。根拠は令和8年厚生労働省告示第88号である。
上がるのは全員ではない。厚生労働省の老健局が自治体に配ったリーフレットは、対象をこう限定している。
令和8年8月から、第3段階①・②に該当する方について、食費が30円~60円(日額)、一部の方を除き居住費については100円(日額)引き上がります。
食費と居住費の補助は補足給付と呼ばれ、住民税非課税の世帯が対象になる。その内側が、所得と預貯金で4つの段階に分かれている。今回動くのは上の2段だけで、第1段階の食費300円、第2段階の390円(いずれも施設に入所する場合)は据え置かれる。
金額で見るとこうなる。施設に入所する場合の食費は、第3段階①が650円から680円へ、第3段階②が1,360円から1,420円へ。ショートステイの場合は別の額が設定されていて、第3段階①が1,000円から1,030円へ、第3段階②が1,300円から1,360円へ動く。居住費は、特別養護老人ホーム等の多床室で第3段階②が430円から530円へ、従来型個室で880円から980円へ動く。施設に入所する第3段階②の人では、食費と居住費を合わせて日額160円、月に均すと約4,800円になる。
補助を受けていない人にも関係がある。食費の基準費用額が日額100円上がり、1,545円になる。
背景と文脈
非課税という一本の線の内側が、所得と預貯金で4つに割られている
補足給付の入口は、住民税が非課税かどうかである。ここは一本の線で、越えれば対象、越えなければ対象外になる。
だが対象になった後の扱いは一律ではない。同じ非課税世帯でも、年金収入と合計所得を足した額で3つに分かれる。82.65万円以下が第2段階、82.65万円超120万円以下が第3段階①、120万円超が第3段階②である。生活保護を受けている人と、非課税世帯の老齢福祉年金受給者は第1段階に入る。
判定に使われるのは所得だけではない。預貯金の額も見る。単身の場合で第2段階が650万円、第3段階①が550万円、第3段階②が500万円が上限で、これを超えると補足給付そのものが受けられない。夫婦の場合はそれぞれ1,000万円ずつ上乗せされる。
つまり非課税という線の内側に、所得の線が3本と、資産の線が3本引かれている。今回の引き上げは、そのうち所得の上2段に当てられた。
もうひとつ、同じ8月に動くものがある。段階を分ける基準額そのものである。厚生労働省の事務連絡には、こう注記されている。
参考資料には、現在改正作業中であり、8月施行予定の利用者負担段階に関する基準額についての見直し内容((旧)80.9 万円→(新)82.65 万円)が含まれています。
構造を読む
段階の境界が年金改定と同じ幅だけ動くため、年金が上がっても段階は上がりにくい
負担の水準と、負担を分ける線と、その線を引く位置。この見直しでは3つが同時に動いている。順番に見ると、設計の意図が出てくる。
まず線を引く位置である。80.9万円から82.65万円への引き上げは、令和7年度の年金改定を踏まえたものだと資料に明記されている。年金額が上がると、年金収入で判定される人は自動的に上の段階へ移る。すると、受け取る額が増えたのに手元に残る額は減るという事態が起きる。境界を同じ幅だけ動かせば、これを防げる。段階の位置は、給付の側の都合ではなく、判定に使う数値の動きに合わせて置かれている。
次に、負担を分ける線である。第1段階と第2段階を据え置き、第3段階①・②だけを上げた。同じ非課税世帯でも、年金収入と所得の合計が120万円を超える人と、82.65万円以下の人では扱いが違う。非課税という一本の線で対象を決めたうえで、その内側でもう一度所得に応じた配分をしている。線を1本しか持たない制度では、こういう当て方はできない。
そして負担の水準である。第3段階②で月に約4,800円という額は、単独で見れば小さい。ただし介護保険施設の入所は年単位で続くのが普通で、年に換算すると約58,000円になる。第3段階②の対象は、年金収入と所得の合計が120万円を超える非課税世帯である。年収120万円台の人にとっての58,000円がどれくらいかを考えると、額の小ささは説明にならない。
段階を細かく割ることには、負担を能力に応じて配れるという利点がある。同時に、境界のすぐ上にいる人ほど不利になるという性質もついてくる。年金収入と所得の合計が120万1円の人と119万9円の人では、食費の日額が740円違う。逆進性を避けるために段階を増やすと、今度は段階と段階の間に段差ができる。段差をなくすには連続的な計算式にするしかないが、そうすると判定の手続きが重くなる。
生活保護の運用でも同じ構図が出ることは、生活保護実施要領の2026年4月改正 — 何が変わり、何が変わらなかったか(このサイトの記事)で見た。誰を対象にするかを決める線と、対象の内側でどう配るかを決める線は、別のものとして設計されている。制度が用意されていても届かない層をどう数えるかは、制度からの排除と未受給(このサイトの記事)の手順が使える。預貯金の申告を求める判定は、その申告の負担そのものが対象から人を遠ざける可能性を持っている。
この記事で使った統計の出典
- 1厚生労働省 老健局 介護保険最新情報 Vol.1506(令和8年5月29日) 出典を開く
参考書籍
- 『介護格差』(外部サイト、新しいタブで開きます)(結城康博、岩波書店)。介護サービスを受けられる人と受けられない人の間に何が起きているのかを、現場の実態から整理した一冊。本文で扱った段階の線引きが、実際の暮らしのどこに当たるのかを考えるのに使える。
参考文献
令和8年8月からの特定入所者介護(予防)サービス費の見直し等に係る周知への協力依頼について(介護保険最新情報 Vol.1506) — 厚生労働省 老健局 介護保険計画課・老人保健課 (2026). 独立行政法人福祉医療機構 WAM NET
介護保険最新情報掲載ページ — 厚生労働省 (2026). 厚生労働省
令和8年度介護報酬改定について — 厚生労働省 (2026). 厚生労働省


