ざっくり言うと
- 令和7年度分保険料の現年度納付率は79.56%で前年度から1.00ポイント上昇。平成23年度分の58.6%を底に14年続けての上昇
- 納められた月数は7,128万月から7,108万月へ減った一方、納めるべき月数は9,652万月から8,934万月へ718万月縮んだ
- 分母が縮む経路は免除・猶予と厚生年金への移動の二つで、どちらも制度としては望ましい動きでありながら率を押し上げる
分母の「納めるべき月数」には、法定免除・申請全額免除・学生納付特例・納付猶予・産前産後免除の月数が入らない。令和7年度末で第1号被保険者の11.0%が法定免除、17.1%が申請全額免除、12.0%が学生納付特例、4.4%が納付猶予にあたる。免除や猶予を受けた人が増えるほど分母は小さくなり、同じだけ納めても率は上がる。数字はいずれも厚生労働省年金局「令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況」表5および注3による。
何が起きているのか
納付率は79.56%へ上昇したが、納められた月数は減っている。上がったのは割る数が7.4%縮んだため
国民年金の保険料の納付率が、また上がった。厚生労働省年金局が令和8年7月に公表した令和7年度分保険料の現年度納付率は79.56%で、前年度の78.56%から1.00ポイント上がっている。平成23年度分の58.6%を底にして、14年続けての上昇である。
同じ資料で、国民年金の第1号被保険者は1,357万人と、前年度末より11万人減った。自営業の人や学生、勤め先で社会保険に入っていない人が置かれる区分で、人数は減り続けている。公的年金の加入者は全体で6,759万人、そのうち保険料を24か月納めていない未納者は67万人である。
ここまでは、報道でも見出しになった数字だ。ただ、納付率という指標の中身を開けると、話が変わる。
納付率は、納められた月数を、納めるべき月数で割って出す。分子にあたる納付月数は、令和7年度分保険料で7,108万月。4年前の令和3年度分は7,128万月だった。20万月、わずかだが減っている。
分母にあたる納付対象月数は、令和7年度分で8,934万月。4年前は9,652万月あった。718万月、率にして7.4%縮んだ。
納めた量は増えていない。それでも率が5.7ポイント上がったのは、割る数のほうが縮んだからである。
背景と文脈
分母が縮む経路は免除・猶予と厚生年金への移動の二つ。第3号は4年で159万人減った
では、分母から何が抜けたのか。経路は二つある。
一つは免除と猶予だ。納付対象月数には、法定免除、申請全額免除、学生納付特例、納付猶予、産前産後免除にあたる月が入らないと、資料の注に明記されている。制度の側が「納めなくてよい」と決めた月は、はじめから割る数に数えない。令和7年度末の第1号被保険者のうち、法定免除が11.0%、申請全額免除が17.1%、学生納付特例が12.0%、納付猶予が4.4%を占める。合わせて44%が、率の計算の外にいる計算になる。
もう一つは、厚生年金への移動である。パートやアルバイトで働く人を厚生年金と健康保険に入れる範囲を、国は段階的に広げてきた。被用者保険の適用拡大と呼ばれる一連の改正で、企業規模の要件は2016年10月の施行時が従業員500人超、2022年10月に100人超、2024年10月に50人超へ下がっている。
移動の規模は、区分ごとの人数に出ている。会社員に扶養される配偶者が入る第3号被保険者は、763万人から604万人へ159万人減った。同じ4年間で、厚生年金の被保険者のうち短時間労働者は57万人から123万人へと2.2倍になっている。
第1号の側でも、人は激しく出入りしている。令和7年度に資格を取得したのは481万人で、そのうち350万人が第2号から、29万人が第3号からの移行だった。失ったのは492万人である。差し引き11万人の減少という数字の裏では、毎年およそ500万人が入れ替わっている。
この流れは、これから強まる。2025年の年金制度改正は企業規模の要件を段階的に外すと決めており、2027年10月に35人超、2029年10月に20人超、2032年10月に10人超と対象を広げたうえで、2035年10月に撤廃する。
構造を読む
納付率は制度に残った人の義務履行を測る指標で、制度が働く人を捉えている度合いは測っていない
納付率が測っているのは、納める義務が残った人が、その義務をどれだけ果たしたかである。制度が働く人をどれだけ捉えているかは、測っていない。
やっかいなのは、分母を縮める二つの経路が、どちらも制度としては望ましい動きだという点だ。免除と猶予は、払えない人をそのまま滞納者にしないための救済である。適用拡大は、将来の受け取りが厚い厚生年金へ人を移す改善である。悪いことは起きていない。それでも、どちらも納付率を押し上げる。指標が上がったことをそのまま制度の改善と読むと、原因と結果が入れ替わる。
納める側の行動が良くなっていないわけでもない。資料は納付率の1.00ポイントの変化を被保険者の属性ごとに分解しており、2年続けて納付対象月がある人の影響度は1.35ポイントと、変化の全体を上回る。ずっと納付義務がある層の納付行動は、確かに改善している。その分を、出入りの多い層が押し下げている。分母の縮小だけで説明がつく話ではない。
では、第1号被保険者には誰が残るのか。年齢の構成を見ると、20〜24歳が25.1%で最も多く、次が55〜59歳の14.6%である。平均年齢は39.1歳。学生と、雇われる形をとらない働き方の層と、雇用から外れた層が残る。厚生年金が吸い上げていくのは勤め先が特定できる働き方のほうだから、この偏りは適用拡大が進むほど強まる。
そして、分母から外れた月は、将来の年金額として戻ってこない。日本年金機構の説明では、全額免除の期間は保険料を全額納めた場合の2分の1しか老齢基礎年金の額に反映されない。学生納付特例と納付猶予にいたっては、年金を受け取るために必要な期間には数えられるものの、年金額の計算の対象にはならない。10年以内に追納すれば埋められるが、追納しなければそのままである。
つまり、率を押し上げている595万人分の月は、同時に、その人たちの老後の受け取りを薄くしている。指標が上がるとき、下がっている数字がどこかにある。この非対称は、比率という形で制度の健康さを測ろうとするかぎり、必ず生まれる。分母の定義を確かめずに前年比を追うと、救済が進んだことと納付が進んだことを、同じ「改善」として数えてしまう。
成果を一つの比率で表すときに何が落ちるかは、成果指標の設計(このサイトの記事)で扱った問題と同じ形をしている。制度がある人にその制度が届かない状態を扱った制度からの排除と未受給(このサイトの記事)も、分母の外に置かれた人をどう数えるかという話だ。年金でいえば、世代間の格差(このサイトの記事)が世代のあいだの配分を扱うのに対して、こちらは同じ世代のなかで誰が制度の内側に残るかの配分である。納付率は毎年上がってよい。上がった理由を、毎年開けて確かめる必要がある。
この記事で使った統計の出典
- 1厚生労働省年金局 令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況(令和8年7月) 出典を開く
- 2厚生労働省年金局 令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況 図4(令和8年7月) 出典を開く
- 3厚生労働省年金局 令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況 表1(令和7年度末) 出典を開く
- 4厚生労働省年金局 令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況 表5(令和7年度分保険料) 出典を開く
- 5厚生労働省年金局 令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況 表5(令和3年度分保険料) 出典を開く
- 6厚生労働省年金局 令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況 注3(令和7年度末) 出典を開く
- 7厚生労働省 年金制度の仕組みと考え方 第9 被用者保険の適用拡大(2026年) 出典を開く
- 8厚生労働省年金局 令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況 表1(令和3年度末→令和7年度末) 出典を開く
- 9厚生労働省年金局 令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況 表2(令和7年度) 出典を開く
- 10厚生労働省年金局 令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況 参考2(令和7年度) 出典を開く
- 11厚生労働省年金局 令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況 図2(令和7年度末) 出典を開く
参考書籍
- 『年金制度改正の解説 2025年(令和7年)』(外部サイト、新しいタブで開きます)(社会保険研究所、2025年9月)。本文で触れた2025年の年金制度改正について、被用者保険の適用拡大を含む改正事項を条文に沿って解説した実務書。企業規模要件の段階的な撤廃がどの条文でどう定められたかを確認できる。
参考文献
令和7年度の国民年金の加入・保険料納付状況 — 厚生労働省年金局 (2026). 厚生労働省
年金制度の仕組みと考え方 第9 被用者保険の適用拡大 — 厚生労働省 (2026). 厚生労働省
国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度 — 日本年金機構 (2026). 日本年金機構
国民年金保険料の学生納付特例制度 — 日本年金機構 (2026). 日本年金機構
令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 — 厚生労働省年金局 (2025). 厚生労働省