一般社団法人社会構想デザイン機構
論考・インサイト

「関係人口」は学生活動の持続可能性を変えるか — 文京区16団体の報告会から見えた構造

学生団体の4年サイクルという構造的脆弱性に対し、関係人口の枠組みは何を変えうるのか。文京区16団体の報告会と政策動向から、中間支援組織が担うべき役割を考察する。

何が起きているのか

学生団体が地域で活動し、やがて卒業とともに消えていく。この繰り返しは、日本各地で数十年にわたって起きてきた構造的な問題である。

2026年3月、文京区社会福祉協議会の学生活動報告会に16の学生団体が集まった(イベント詳報はこちら)。子ども食堂、高齢者支援、多文化共生、防災——活動領域は多岐にわたる。だが報告を横断的に聞くと、どの団体にも共通する課題が浮かび上がってきた。「4年で人が入れ替わる組織で、どう活動を続けるか」という問いである。

この問いに対して、近年「関係人口」という概念が新たな視座を提供しつつある。総務省の定義によれば、関係人口とは移住した「定住人口」でも、観光に来た「交流人口」でもない、 地域や地域の人々と継続的かつ多様に関わる者 を指す。国土交通省の令和5年度調査では、18歳以上の約2,263万人——およそ22%——が何らかの形で特定地域に関わっているとされる。

学生活動を「関係人口」のレンズで捉え直すとき、見えてくるものがある。

背景と文脈

ボランティア参加率の構造変化

まず、学生の地域参加を取り巻く環境を確認しておきたい。

総務省「社会生活基本調査」によれば、ボランティア行動者率は2016年から2021年にかけて7〜8ポイント低下した。男性25.0%から17.8%へ、女性26.8%から18.5%へ。コロナ禍の影響が直撃した結果である。年齢階級別に見ると、25〜29歳の行動者率は10.1%と全年齢中で最低。10〜14歳の落ち込みが特に著しく、学校行事や地域活動の中止が「入口」を塞いだ影響が読み取れる。

この数値が示すのは、量的な参加者減少だけではない。地域活動への接点が絶たれた世代が社会に出つつあるという、構造的な変化である。

単発ボランティアとの本質的な違い

ここで「関係人口」型の関与と単発ボランティアを区別する必要がある。

単発ボランティアは、災害や課題への「反応」として成立する一過性の関与だ。地域側から見れば「手伝いに来た人」であり、関係は一方向的である。一方、関係人口型の関与には反復性と双方向性がある。地域側も学生に対して情報や機会を提供し、「うちの関係者」として認知する。田中輝美(2021)は『関係人口の社会学』において、住まない「よそ者」であるからこそ「地域を再発見する力」「しがらみのない立場からの解決案の提示」が可能になると指摘した。

能登半島地震の復興支援は、この違いを鮮明にした好例である。2024年1月の発震から約8カ月で累計14万2,665人がボランティア参加した一方、1年以上が経過した時点では深刻な人手不足が報告されている。単発参加の総量では充足しても、継続的に関わる層の厚みが不足しているのだ。

学生団体に見る関係人口型関与のスペクトル

東洋大学の事例群は、学生活動における関係人口型関与の段階をよく示している。

2004年の新潟県中越地震を契機に設立された「学ボラ」は、20年以上の活動を維持してきた。中越地震、東日本大震災、能登半島地震と、災害対応を通じた地域との関係を世代を超えて引き継いでいる。大学の公認サークルとしての制度的位置づけとボランティア支援室のインフラが、持続の鍵だ。

対照的に、2024年11月に発足した「青いビブス」(40名所属)は、復興後も能登地域と継続的に関わることを明示的に掲げている。「交流人口から関係人口へ」の意識的な移行を志向する新世代の団体といえる。

さらに、情報連携学部の学生5名による「こもれび」は、被災地支援アプリ『めぐり』を開発し、物理的な訪問を超えたデジタルを介した関係人口の維持を試みている。

20年の持続モデル、関係人口への意識的移行、デジタルを介した関係維持。この三つの事例が示すのは、学生団体の関与形態が多様化しつつあるという事実である。

特徴単発ボランティア関係人口型関与
時間軸1回〜数回継続的・反復的
関係性一方向的(支援する/される)双方向的(共創・協働)
地域側の認知「手伝いに来た人」「うちの関係者」
動機災害・課題への反応地域への愛着・当事者意識
卒業後断絶形態を変えて継続可能

東洋大学の事例に見る関与形態の多様化

1学ボラ(20年継続)

制度的インフラによる持続モデル

2青いビブス

関係人口への意識的移行

3こもれび(アプリ『めぐり』)

デジタルを介した関係維持

学生の地域関与スペクトル — 単発ボランティアから関係人口へ

構造を読む

「団体の持続」から「関係の仕組みの持続」へ

学生団体の根本的な制約は、4年で構成員が完全に入れ替わることにある。知識、関係性、暗黙知の引き継ぎが不十分であれば、活動は形骸化する。報告会に参加したある団体運営者の「創り、運営し、そして崩壊させるまでの1年半」という記述は、この脆弱性を端的に表現している。

この矛盾を正面から受け止めるなら、発想の転換が必要だ。団体そのものを持続させることではなく、関係の仕組みを持続させること。個々の団体が消滅しても、地域と学生をつなぐ回路が維持されていれば、新たな団体が同じ回路を使って立ち上がれる。

文京区の報告会で16団体が一堂に会したこと自体が、この発想の萌芽を示唆している。同じ地域で複数の団体が活動することは、一見すると冗長に見える。しかし、ひとつの団体が消滅しても他の団体が関係性を引き継ぎうるという点で、 冗長性が持続性を支える構造 になっている。

政策環境の変化——ふるさと住民登録制度

関係人口を制度的に可視化する動きも進んでいる。2025年、総務省が「ふるさと住民登録制度」の検討を開始した。住所地以外の地域に継続的に関わる人々を登録する仕組みであり、政府目標は「10年で登録1,000万人」である。

ただし、この制度には批判もある。東京新聞は「数が目的化する危うさ」を指摘し、日経新聞は「慎重な制度設計を」と論じた。GLOCOMも「見える化の先へ」として、登録制度だけでは実質的な関係構築に至らないと警鐘を鳴らしている。

数を数えることと、関係の質を育てることは異なる。制度が「見える化」の道具にとどまるか、関係を深化させる基盤になるかは、運用設計にかかっている。

中間支援組織に求められる役割

ここで中間支援組織の役割が浮上する。内閣府は「中間支援組織の提案型モデル事業」を令和2年度から実施しており、民間事業者やNPOが都市住民と地域をつなぐマッチング支援の枠組みを整備してきた。

学生と地域の関係人口を構造的に支えるために、中間支援組織が担いうる機能は四つある。

第一に、引き継ぎインフラの提供。学生の卒業サイクルに依存しない、組織的な関係性の蓄積と承継の仕組み。活動記録や地域との接点をデータベース化し、世代交代後もアクセス可能にする機能である。

第二に、自治体窓口の恒常化。自治体職員の異動によって関係が断絶するリスクを、中間支援組織が緩衝する。学生の世代交代にも自治体の人事異動にも左右されない、安定した接点を維持する役割だ。

第三に、ナレッジシェアの制度化。文京区16団体の報告会のような知見共有の場を一過性のイベントに終わらせず、定期的に実施する仕組みをつくること。

第四に、段階的関与の設計。インターンから関係人口へ、卒業後も継続する関与への導線を意識的に設計すること。甘楽町のインターン制度から発展した「I KANRA」のような事例を、再現可能なモデルに昇華させる取り組みが求められる。

問いの所在

「関係人口」という概念は、学生活動の持続可能性に対する万能の処方箋ではない。概念自体の曖昧さ、制度化の困難、そして何より4年サイクルという構造的制約は依然として存在する。

しかし、この概念は問いの立て方を変える力を持っている。「この団体をどう続けるか」ではなく、「この地域と人をつなぐ仕組みをどう持続させるか」へ。視点の転換がもたらす実践上の変化は、決して小さくない。

文京区の16団体が見せた風景は、その転換の起点になりうるものだった。


参考文献


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ISVD編集部

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