一般社団法人社会構想デザイン機構
論考・インサイト

子どもの貧困の「深さ」— 相対的貧困率が語れないもの

子どもの相対的貧困率は2021年調査で11.5%に低下した。しかし「率」の改善は「深さ」の改善を意味しない。ひとり親世帯44.5%という数字、OECD最高の就業率と最高の貧困率が共存する逆説、子ども食堂の急増が示す「見えない剥奪」を読み解く。

ISVD編集部

何が起きているのか

「子どもの貧困率が改善した」——2022年、国民生活基礎調査の結果公表を受けてそう報道された。確かに数字は動いた。2018年調査で13.5%だった子ども(18歳未満)の相対的貧困率は、2021年調査で11.5%に低下した。

しかし、この「改善」は何を意味しているのか。

全世帯(子どもあり)11.5%
ふたり親世帯8.6%
ひとり親世帯(全体)44.5%
 うち 母子世帯44.3%
 うち 父子世帯22.9%
相対的貧困線 = 等価可処分所得の中央値の50%。2021年調査では年127万円。 ひとり親世帯の貧困率44.5%はOECD加盟国の中で最高水準。
世帯類型別 子ども(18歳未満)の相対的貧困率(%) — 国民生活基礎調査(2021年)

相対的貧困率の定義は「等価可処分所得の中央値の50%(貧困線)以下」だ。2021年の貧困線は年約127万円。この線を超えた人が「改善」に計上される。貧困線を「超えた」とは、123万円から131万円になった家庭と、80万円から130万円になった家庭が、同じ「改善」として扱われることを意味する。貧困の「率」は変わった。しかし貧困の「深さ」は別の問題だ。

特筆すべきは、ひとり親世帯の貧困率である。全世帯の11.5%に対し、ひとり親世帯(全体)は44.5%——約2人に1人が貧困状態にある。この数字はOECD加盟国の中で最高水準にある。

背景と文脈

「働いても貧困」という矛盾

ひとり親世帯の貧困率が高い理由を「就労不足」に求めることはできない。 日本のひとり親世帯の就業率は約86%(OECD Family Database, 2023)——OECD加盟国の中で最高水準である。 就業率が最も高い国が、貧困率も最高水準という逆説。

就業率貧困率日本
86%
44.5%
米国
75%
28%
ドイツ
72%
30%
スウェーデン
79%
8%
OECD平均
68%
22%

日本はひとり親の就業率がOECD最高水準(86%)であるにもかかわらず、貧困率も最高水準(44.5%)。 「働いても貧困を脱せない」構造的逆説を示す。

ひとり親世帯:就業率 vs 相対的貧困率(国際比較) — OECD Family Database(2023年)

この矛盾が生まれる背景には、就労の「質」の問題がある。ひとり親の就業形態を見ると、パートタイム・アルバイト等の非正規就業が約46%を占める(厚生労働省, 2022年度全国ひとり親世帯等調査)。子育てと仕事の両立を図るために短時間・非正規雇用を選ばざるを得ない構造が、「就労しているのに貧困」という状態を生み出している。

さらに制度的なトラップがある。児童扶養手当の制度設計では、所得が一定水準を超えると手当が段階的に減額される仕組みがある。就労して収入を得ようとすると手当が減る——就労インセンティブを削ぐ仕組みが制度の中に組み込まれている側面は、2010年代以降の改正で一部改善されたものの、構造的な課題は残っている。

「見えない剥奪」の急増

子ども食堂の数は2016年の319カ所から2023年には9,132カ所へと約29倍に増加した(NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ調べ)。この急増は、「子どもの食の問題」が地域社会の可視化されたニーズとして顕在化した証左だ。

同時に、子ども食堂が照らし出しているのは「可視化された貧困」だけではない。家庭に食料はあるが「孤食」状態にある子ども、食事よりも「居場所」を求めてくる子ども——相対的貧困線の「内側」にいながら、何らかの剥奪状態にある子どもが相当数いることを示している。貧困率という一本の線が捉えられないのは、「深さ」だけではない。孤立、放置、ネグレクト、精神的な貧しさ——多次元的な剥奪が、単一の所得指標では見えにくい。

貧困の再生産という構造

貧困家庭に育った子どもが成人後に貧困状態に陥りやすい——「貧困の世代間連鎖」は、日本においても研究によって示されている。親の学歴・収入が子どもの学力・進学率に影響し、それが将来の収入に影響する。

高等教育への投資は将来の収入に直結するが、貧困家庭では「今の生活費」が優先される。大学・専門学校等への進学率は、低所得層の子どもで全体平均より低い水準にある。教育機会の格差が所得格差を再生産するサイクルが、数値の背後に存在する。

構造を読む

「子どもの貧困の改善」という言葉は、2つの意味を混同している可能性がある。貧困線を超えた世帯の「数」は減った。しかし貧困の「深さ」——貧困線からどれほど遠いところにいるか——は、統計に見えにくい。

もう一つの問題は、ひとり親世帯の就労トラップだ。就業率が最高水準であるにもかかわらず貧困率も最高水準という逆説は、日本の非正規雇用構造と子育て支援制度の設計が交差している地点を指している。「働けば抜け出せる」という前提が成り立たない領域がある。

子ども食堂の急増は、制度の外にいる市民・NPOがこのギャップを埋めようとしている証左だ。しかし市民セクターの努力に頼った補完には限界がある。問われているのは、子どもの貧困を「個別家庭の問題」ではなく「社会設計の失敗」として捉え直す政策的想像力だ。


参考文献

2022年国民生活基礎調査の概況

厚生労働省. 厚生労働省

原文を読む

OECD Family Database — CO 2.2: Child poverty

OECD. OECD

原文を読む

令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果

厚生労働省. 厚生労働省

原文を読む

全国こども食堂実態調査(2023年度)

NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ. むすびえ

原文を読む

関連するご相談・サポート

戦略設計支援

条件付き無償

ソーシャルプロジェクトの上流戦略設計を支援します。ビジョン・ミッションの整理からロジックモデル構築まで伴走します。

ISVDの活動に参加しませんか?

会員登録で最新の調査研究・活動レポートをお届けします。協業やプロジェクト参加のご相談もお気軽にどうぞ。

ISVD編集部

ISVD編集部

社会課題に向き合い、デザインの力で解決策を生み出す。ISVDでは社会課題の可視化と解決策のデザインに取り組み、調査研究・実践ガイド・論考を通じて知見を発信しています。