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一般社団法人社会構想デザイン機構

後期高齢者保険料上限「80→85万円」(2026年度) : 高所得高齢者ピンポイント引上げと中低所得層への波及構造

ヨコタナオヤ
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2025年12月12日、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会は、後期高齢者医療制度の年間保険料の上限額を2026年度に80万円から85万円へ引き上げる方針を了承した。さらに2026年4月から新たに「子ども・子育て支援納付金」分2万1000円が別枠で上乗せされ、医療分85万円との合計上限は87万1000円となる。引上げの対象は年金と給与収入を合わせて年1,150万円以上の高所得者層で、加入者全体の1.2%が該当する。報道のフレーミングは「75歳以上の保険料が上がる」だが、構造を読むと、これは高所得層へのピンポイント上限引上げによって中低所得層の保険料伸び率を抑制する設計である。年収400万円のケースでは2026年度年間保険料が約29.7万円(前年比+4.2%)の伸びにとどまる。本稿は厚労省の制度設計、対象1.2%の意味、子ども・子育て支援納付金分2.1万円の新設、そして「世代内応能負担の強化」と「世代間給付構造」の関係を読み解く。

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ざっくり言うと

  1. 2025年12月12日、厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会は、後期高齢者医療制度の年間保険料の上限額を2026・2027年度に80万円から85万円へ引き上げる方針を了承。さらに「子ども・子育て支援納付金」分2万1000円が別枠で新設され、合計上限は87万1000円となる
  2. 対象は年金と給与収入を合わせて年1,150万円以上の高所得者層で、加入者全体の1.2%が該当する。後期高齢者医療制度の加入者は全国で約2,400万人規模であり、約29万人が上限引上げの直接影響を受ける計算となる
  3. 制度設計の狙いは「中低所得層の保険料伸び率を抑制すること」である。年収400万円のケースでは2026年度年間保険料は約29.7万円(前年比+4.2%)と試算される。高所得層1.2%からの追加徴収が、残り98.8%の保険料伸びを緩和する世代内応能負担の典型的な再分配構造である

何が起きているのか

2025/12/12 医療保険部会了承。2026年度80→85万円、別枠で支援納付金2.1万円。合計87.1万円

2025年12月12日、厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会 は、後期高齢者医療制度の年間保険料の上限額を2026・2027年度に 80万円から85万円 に引き上げる方針を了承した。さらに、2026年4月から導入される「子ども・子育て支援金制度」に伴い、後期高齢者医療制度の保険料に新たな枠として 「子ども・子育て支援納付金分」が2万1000円 で新設される。医療分85万円と支援金分2.1万円を合わせ、合計上限は 87万1000円 となる。

引上げの対象 ─ 加入者の1.2%

引上げの直接対象となるのは、年金と給与収入を合わせて年 1,150万円以上 の高所得者層である。時事ドットコム によれば、加入者全体の 1.2% が対象になると見込まれる。

後期高齢者医療制度は75歳以上の独立医療保険制度として2008年4月に発足し、現在の加入者は全国で約2,400万人規模に達している。対象1.2%は人数規模で言えば約29万人。決して大規模な集団ではないが、いずれも高齢期の金融資産・年金・賃金収入が高水準で重なる層であり、応能負担強化の論点として制度的に注目されてきた。

改定の二層構造

後期高齢者保険料上限:80万円 → 87.1万円への引上げ構造
医療分5万円増 + 子ども・子育て支援納付金分2.1万円新設の二段重ね
2025年度
80万円
医療分のみ
2026年度
医療分85万円
子育て支援分2.1万円
合計87.1万円
(万円・新設分含む)
+7.1万円
年間上限の引上げ
対象者
年金+給与で年1,150万円以上
1.2%
出典: 厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会(2025年12月12日)了承資料、日本経済新聞・時事ドットコム(2025年12月)
後期高齢者医療制度の保険料年間上限:2025年度(80万円)から2026年度(医療85万円+子育て支援2.1万円=合計87.1万円)への引上げ構造(厚生労働省 2025年12月12日 社会保障審議会医療保険部会)

改定は二層で構成される。

第一層は 医療分の上限引上げ である。2025年度の80万円から2026年度に85万円へと5万円上昇する。これは2026・2027年度の2年間に適用される(後期高齢者医療制度の保険料上限は2年に1度改定される慣行)。

第二層は 子ども・子育て支援納付金分の新設 である。2026年4月から導入される子ども・子育て支援金制度(被用者保険では給与天引きで0.23%が労使折半徴収される)に伴い、後期高齢者医療制度の加入者からも次世代支援費の応分負担を求める仕組みが新設される。後期高齢者の支援金分上限は2万1000円とされ、医療分とは別枠で計算される。

両層を合わせた合計上限は 87万1000円 となる。

背景と文脈

対象は年金+給与1150万円以上の1.2%。約29万人が直接影響

後期高齢者医療制度と保険料負担の構造

後期高齢者医療制度は2008年に高齢者の医療費を世代別に分離して管理する独立保険制度として発足した。財源構成は 保険料約1割、現役世代からの支援金約4割、公費(税金)約5割 が原則とされる。

加入者本人が負担する保険料は、所得割(応能)と均等割(応益)の二層構造で算定される。応能部分は所得が高いほど多くの保険料を負担する仕組みだが、これまでは上限額(賦課限度額)が設定されており、超高所得層の保険料は頭打ちになっていた。この上限の引上げが、本改正の核である。

中低所得層の保険料伸び率と上限引上げの関係

なぜ上限を引き上げる必要があるのか。厚生労働省 の制度説明によれば、高齢化に伴う医療給付費の継続的な増加に対応するため、保険料の総額を引き上げざるを得ない。しかし、保険料を全体一律に引き上げれば、年金収入のみの中低所得層への影響が過大になる。

そこで取られる設計が「上限引上げによる応能負担強化」である。日本経済新聞WEB労政時報 が伝えるところによれば、上限引上げは「中・低所得者の保険料負担を抑える狙い」も含む。具体的な試算では、年収400万円のケースで2026年度年間保険料は約29万7000円、前年度比 +4.2% 増にとどまる。

つまり高所得層1.2%への上限引上げで追加徴収を行い、その分中低所得層98.8%の保険料伸び率を抑制する、というのが制度設計の論理である。これは世代内応能負担の典型的な再分配構造である。

子ども・子育て支援納付金分の新設

子ども・子育て支援金制度は こども家庭庁 が所管する2026年4月開始の新制度である。被用者保険では給与天引きで支援金率0.23%(労使折半)で徴収される(被用者の翌月徴収方式では2026年5月支給給与から実際の控除が始まった)。

この制度設計は、高齢者にも応分の負担を求める設計を取った。後期高齢者医療制度・国民健康保険・各種被用者保険のいずれの加入者からも支援金が徴収される構造で、後期高齢者の支援金分上限は2万1000円と定められた。これは「次世代支援への世代間負担」という新たな仕組みであり、後期高齢者医療制度における初めての試みでもある。

構造を読む

中低所得層伸び抑制の設計。年収400万なら29.7万円+4.2%。世代内応能負担で世代間構造ではない

1.2%へのピンポイント引上げの意味

高所得層上限引上げが中低所得層の負担増を抑制する構造
1.2%の高所得層の追加負担で全体の伸び率を緩和する設計
高所得層(1.2%)
+7.1万円
上限80→85万円(医療分)+ 子育て支援2.1万円 → 合計87.1万円
中所得層(年収400万円)
+約1.2万円
2026年度年間保険料:約29.7万円(前年比+4.2%)
再分配作用
高所得層から徴収した追加保険料が、中低所得層の急激な負担増を抑制する制度設計。ただし「世代内」の応能負担の強化であり、世代間の負担格差を直接縮小するものではない
出典: 厚生労働省 社会保障審議会医療保険部会(2025年12月12日)、Yahoo!ファイナンス LIMO「2026年度保険料上限」(2026年)
後期高齢者保険料の上限引上げによる中低所得層への波及効果:年収400万円ケースの2026年度試算(前年比+4.2%、約29.7万円)と高所得層からの再分配構造(厚生労働省 2025年12月)

「対象は1.2%だけ」というフレーミングは、報道では「限定的な改正」として伝えられがちである。しかし制度設計の論理を見れば、これは中低所得層98.8%への保険料伸び率抑制を可能にする要石である。

年収1,150万円以上の後期高齢者は、年金収入(厚生年金老齢年金の上位水準)と給与収入(高齢期も就労継続)が重なる層である。資産所得を含まない金融市場の所得(株式配当・売却益等)が反映されていない現状では、彼らの「応能性」は不完全に測定されている可能性が高い。後期高齢者医療制度の上限引上げは、応能負担の強化を金融所得反映と並行で進めるパッケージの一部として位置づけられる。

ただし、1.2%という対象規模の小ささは、再分配の原資の絶対量に限界を生む。上限引上げで増収できる保険料総額は限定的であり、これだけで中低所得層の保険料伸び率を恒常的に抑制できるかは別問題である。長期的には、給付の側を見直すか、現役世代からの支援金構造(後期高齢者医療制度の財源約4割を占める)の負担再配分が必要となる。

世代内応能負担と世代間給付構造の区別

本改正のもう一つの核心は、「これは世代内応能負担の強化であり、世代間給付構造の根本見直しではない」という点である。

後期高齢者医療制度の財源は、加入者本人の保険料約1割、現役世代からの支援金約4割、公費約5割で構成される。中核を占める「現役世代からの支援金」は、健康保険組合・協会けんぽ・国保等の現役世代加入者から徴収される。つまり、後期高齢者医療制度の費用の大半は、世代間の支援関係で支えられている。

今回の上限引上げは、加入者本人の応能負担を強化するもので、世代内(高齢者の中)の再分配を担う。一方、世代間支援金の構造そのものには手をつけない。報道では「75歳以上の保険料が上がる」と単純化される傾向があるが、実際は「75歳以上の高所得層1.2%の保険料上限が上がる」のであり、しかも世代間給付構造の根本論点は別途残されている。

並行して進められている改革(金融所得を保険料反映、3割負担対象拡大、OTC類似薬の保険給付見直し等)と合わせて評価することで、本改正の位置づけがより正確になる。

残された設計課題

施行後に論点化すべき課題は三つある。

第一に、実効的な応能性測定 である。年金+給与で年1,150万円以上という閾値は、金融所得(株式配当・売却益)を含めない測定値である。前述の通り、金融所得を反映する仕組みが2028年度を目処に検討されている。両改正が連動した段階で、応能性の測定はより包括的になる。

第二に、子ども・子育て支援納付金分の長期的な負担推移 である。被用者保険料率0.23%は2026年度の初年度水準であり、こども・子育て支援金制度の年次別所要額の増加に伴って今後段階的に引き上げられる設計となっている。後期高齢者の支援金分上限2万1000円も、被用者保険料率の引上げと連動して見直される可能性が高い。

第三に、世代間給付構造の見直し論点 である。後期高齢者医療制度の財源約4割を占める現役世代からの支援金は、今後の少子化・現役世代の人口減少のなかで持続可能性が問われる。本改正はそこに直接答えるものではないが、世代内応能負担の強化と並行して、世代間給付構造の再設計が次の論点となる。

世代内応能負担と世代間給付構造、どちらをどの順序でどの程度進めるか ─ 後期高齢者医療制度の保険料上限引上げは、この大きな問いの一つの答案にすぎない。医療保険制度全体の再設計論として、西沢和彦 『医療保険制度の再構築 ─ 失われつつある「社会保険としての機能」を取り戻す』(慶應義塾大学出版会、2020年)は、社会保険としての応能負担と給付構造の関係を体系的に整理するのに有用である。


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参考文献

読んだ後に考えてみよう

  1. 上限引上げで影響を受ける1.2%の層が「過大な負担」を負っているのか、それとも「依然として相対的に有利」なのか。年金+給与1,150万円という閾値はどのレベルの応能負担を意味するか
  2. 子ども・子育て支援納付金を後期高齢者からも徴収する制度設計は「次世代支援への世代間負担」として正当化されるか。その正当性はどう論証されるべきか
  3. 高所得層1.2%への上限引上げが中低所得層98.8%の保険料伸びを抑制する設計は持続可能か。富裕高齢者の絶対数が増えない場合、再分配の原資はどこから補完するか

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