ざっくり言うと
- 2024 年 4 月施行の改正障害者総合支援法は地域生活支援拠点等の市町村努力義務化・就労選択支援の新設・基幹相談支援センターの位置づけ強化を盛り込み、形式的には包括的な制度刷新となった
- しかし運用 2 年経過時点で、就労継続支援 A 型事業所 329 か所の閉鎖(5 か月で約 5,000 人解雇)・地域生活支援拠点等の機能格差・グループホーム需給ミスマッチが可視化されている
- 障害福祉サービスの 30 種類超への類型細分化、地域移行を前提とする制度設計とインフラ整備の時差、65 歳問題と 8050 問題に表れる世代間ギャップは、改正法の射程外に残されたまま
- 法定雇用率は 2024 年 4 月に民間 2.5% へ引き上げられたが、達成企業の割合は 46.0%(前年比 -4.1 ポイント)に低下、雇用の量と現場対応の乖離が拡大している
何が起きているのか
2024 年 4 月施行の改正法から 2 年経過時点で可視化された 5 つの運用上の歪み
2022 年 12 月成立、2024 年 4 月施行の改正障害者総合支援法(正式名称: 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律)は、改正から 2 年が経過した 2026 年 4 月時点で、複数の運用上の歪みが可視化された段階にある。
改正の柱は 6 つ — (1) 障害者の地域生活支援体制の充実、(2) 障害者就労支援と障害者雇用の質の向上、(3) 精神障害者支援体制の整備、(4) 難病患者等への医療・療養生活支援、(5) 障害者・難病等データベース整備、(6) その他 — だった。厚労省 障害保健福祉部が公表する制度概要は包括的だが、運用フェーズで露呈したのは以下の構造的歪みである。
就労継続支援 A 型の大量閉鎖。2024 年 3 月から 9 月までのわずか 5 か月間で、A 型事業所 329 か所が閉鎖し、約 5,000 人の障害者が解雇・退職を経験した。2024 年度にハローワークが把握した障害者の解雇者 9,312 人のうち、7,292 人(約 8 割)が A 型事業所利用者だった。原因は令和 6 年度報酬改定で生産活動収益のスコア方式評価が厳格化されたこと。従来は生産活動が赤字でも自立支援給付で賃金を補填する事業所が一定数存在し、その構造を是正する設計だったが、結果として弱い事業所が一気に淘汰された。改正法の「就労支援の質向上」が、当事者の解雇を伴って実現する逆説である。
就労選択支援の運用設計の宙吊り。公布 3 年以内の政令施行とされた就労選択支援は 2025 年 10 月 1 日に施行された。新規に就労系障害福祉サービス(就労移行支援・就労継続支援 A 型/B 型)の利用を希望する者と既利用者を対象とし、原則 1 か月(最長 2 か月)の就労アセスメントを行う制度である。実施事業所は「過去 3 年以内に 3 人以上の利用者が通常の事業所に新規雇用された実績」が要件となる。
制度の意図は「障害者本人の希望と能力に合った就労先選択」だが、運用フェーズで現れた問題は 3 点に集約される。(a) アセスメント担当者の養成研修が需要に追いついていない、(b) 1 か月という期間でマッチング判断は実質的に不可能、(c) 「実績要件」を満たせない地方の小規模事業所は実施できず、地域格差が拡大する。
地域生活支援拠点等の整備進捗の偏在。地域生活支援拠点等は、2024 年 4 月施行の改正法で市町村の努力義務となった。全 1,741 市区町村のうち 1,425 市町村(共同整備を含む)で第 6 期障害福祉計画期間中に整備見込み — 約 82% という数字は一見高いが、「整備済み」の中身は機能差が大きい。コーディネーター配置、24 時間緊急対応、短期入所受け入れ、グループホーム・体験利用機会の確保、相談支援ネットワークの 5 機能のうち、複数機能が稼働している自治体は限定的との指摘が研修資料にある(国立リハビリテーションセンター 令和 7 年度研修資料)。
令和 8 年度末までに全市町村整備という政府目標は、形式的整備と実質的機能を区別しないと達成不可能であり、運用フェーズの「数値クリア」と「機能の実態」の乖離が次の論点となる。
グループホーム供給の構造的歪み。NHKの 47 都道府県・696 市区町村調査では、入所施設とグループホームの待機者が延べ 22,000 人に上ることが判明した。一方で、「日中サービス支援型」グループホームの事業所数は 2021→2022 年で 56.8% 増、2022→2023 年で 37.8% 増という急増を示し、厚労省は 2025 年 12 月にグループホームを総量規制対象に追加する方針を示した。
需給ミスマッチの構造は二重である。重度の身体障害・知的障害・精神障害、強度行動障害、医療的ケアが必要な障害者向けのグループホームは慢性的に不足する一方、軽度・中度層向けの「営利目的」グループホームは過剰供給の地域がある。改正法の「地域生活支援の充実」は、市場原理に任せた結果として「儲かるところには集まり、儲からないところには行き渡らない」典型を露呈した。
国連勧告と国内運用のギャップ。2022 年 9 月、国連障害者権利委員会が日本政府への初審査の総括所見(勧告)を発表した。脱施設化、精神科病院の強制入院制度の見直し、分離教育の中止、地域社会で他者と対等に生活するための予算配分など、約 90 項目の勧告が出された。しかし 2024 年 4 月施行の改正法は、グループホームを「地域移行の受け皿」として位置づける従来路線を維持しており、国連勧告が指摘する「グループホームを含む特定の生活形態に住むことを義務づけられないようにする」という方向性(自己決定権の保障)とは構造的にずれている。
最大の雇用区分だが減少傾向
年平均+5%の安定増
10年で約6倍に急増、定着率が課題
精神障害者の雇用は急増しているが、1年後の職場定着率は49.3%にとどまる。身体障害者の60.8%、知的障害者の68.0%と比較して最も低い。数字の増加が「質を伴う雇用」を意味するとは限らない。
背景と文脈
自立支援法(2006)から総合支援法(2013)を経て 2024 年改正に至る制度史と障害者権利条約・国連勧告
制度史: 自立支援法から総合支援法、そして 2022 年改正へ
改正障害者総合支援法を理解するには、3 つの制度層の積み重ねを踏まえる必要がある。
第 1 層は障害者自立支援法である。2005 年成立、2006 年施行のこの法律は、それまで障害種別ごとに分立していた支援費制度を一元化し、応益負担(利用したサービス量に応じた 1 割負担)を導入した。これは当事者団体から強い反発を受け、「障害があることに金を払わせるのか」という根本批判を招いた。違憲訴訟も提起されている。
第 2 層は障害者総合支援法。2012 年に成立し 2013 年 4 月に施行されたこの法律は、「障害者自立支援法」の名称変更を伴い、(1) 障害者の範囲に難病等を追加、(2) 重度訪問介護の対象拡大、(3) 共同生活援助(グループホーム)への一元化 — などを盛り込んだ。理念規定として「障害の有無にかかわらず相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現」が明文化された。
第 3 層が 2022 年改正・2024 年施行である。第 1 層・第 2 層が「サービスをいかに広く・公平に供給するか」(量と公平性)に重点を置いたのに対し、2022 年改正は「就労支援の質」「地域生活支援の体制」「精神障害者の希望に応じた支援」など「質と個別性」に重点を移した点が特徴となる。
ただし、第 1 層・第 2 層が積み残してきた構造的課題 — 65 歳問題(介護保険優先原則による障害福祉サービスからの離脱、最高裁判例で確定)、親亡き後問題、医療的ケア児・者の生活基盤、強度行動障害支援の地域偏在 — は、2024 年改正でも本質的には解決されていない。
並走する課題: 法定雇用率引き上げと達成率の低下
障害者雇用促進法による民間企業の法定雇用率は 2024 年 4 月に 2.3%→2.5%、2026 年 7 月に 2.7% に引き上げられる。2024 年集計で実雇用率は 2.41%(過去最高)だが、達成企業の割合は 46.0%(前年比 -4.1 ポイント)。雇用率を達成できない企業の増加は、納付金収入の増加と裏腹に、法定雇用率引き上げが「数値目標と現場対応の乖離」を生んでいる。改正障害者総合支援法の就労選択支援は、この企業側のミスマッチ問題を緩和する装置として設計されたが、現時点では効果検証の段階にも至っていない。
なお、より深い分析は障害者雇用率制度の構造と限界を参照されたい。
国際的文脈: 障害者権利条約と「社会モデル」
2014 年に日本が批准した障害者権利条約は、障害を「個人の機能障害」ではなく「社会の障壁」として捉える社会モデルを基礎とする。2022 年の国連審査総括所見が脱施設化・強制入院廃止・分離教育中止を勧告したのは、日本の制度がなお「医学モデル」(障害者を治療・保護の対象とする発想)の残滓を抱えているためだ。
改正障害者総合支援法は社会モデルに踏み出す部分(合理的配慮の法定義務化を 2024 年 4 月から事業者にも拡大)と、医学モデル的な残滓(精神科強制入院制度の存続)が同居する。日本障害フォーラムは 2023 年 10 月に総括所見の日本語仮訳を公開し、2024 年 12 月の JDF 全国フォーラムで「権利条約の目指す社会の実現」を改めて掲げたが、国内制度設計はなお「サービス供給モデル」の枠内にとどまる。
構造を読む
サービス類型細分化 / 地域移行前提 / 65 歳問題 / 8050 問題 / 報酬改定インセンティブの 5 つの構造的歪みと社会構想の種
改正障害者総合支援法の運用フェーズが露呈した歪みを、「共生社会の社会保障空白」という観点から構造化する。
サービス類型の細分化が「こぼれ落ち」を生む
障害福祉サービスは現在 30 種類以上に分岐している(介護給付、訓練等給付、自立支援医療、補装具、地域生活支援事業 — それぞれに複数の類型)。制度設計の意図は「個別ニーズへの精緻な対応」だが、運用の実態は逆である。
自治体担当者が制度の全容を把握できず、申請者に適切な誘導ができない。複数サービスの組み合わせ調整に時間がかかり、緊急対応が遅延する。どのサービスにも該当しないグレーゾーン(強度行動障害+医療的ケア+精神症状の重複、若年認知症と知的障害の合併 — など)が拡大する。
サービス類型の細分化は、抽象的には「公平性の追求」だが、運用の実態としては「分類のための分類」となり、当事者をサービスからこぼれ落とす結果を生む。
「地域移行」が制度設計の前提を支配する
改正障害者総合支援法は「地域生活への移行」を基調とする。これは国連勧告とも整合する方向性だが、運用の前提として「地域に受け皿が整備されている」ことを暗黙に仮定している。実態は逆 — グループホームは前述の通り供給不足・質格差・総量規制の議論が同時並行で進行し、基幹相談支援センターも努力義務化された 2024 年時点で全市町村の設置に至っていない。
地域移行という方向性そのものではなく、移行の前提となるインフラ整備の遅れと、移行を急ぐ制度設計の時間差にこそ「空白」が生まれる。施設から出された人が地域に受け止められず、家族の自助に押し戻されるか、別の施設を探さざるをえなくなる構造である。
65 歳問題と「介護保険優先原則」の残置
障害者総合支援法第 7 条は、介護保険サービスに相当するサービスが存在する場合は介護保険を優先することを定める。これは最高裁判例でも確定済みで、2024 年改正でも撤廃されなかった。
当事者にとっての影響は深刻である。64 歳まで受けていた障害福祉サービスのケア内容が、65 歳で介護保険サービスに切り替わる際に質と量が低下する。介護保険の自己負担(原則 1 割)が新たに発生する。障害特性に対する理解が浅い介護保険事業所への移行で支援継続性が断たれる。
緩和策として「新高額障害福祉サービス等給付費」(自己負担を一定範囲で還付)が設けられたが、根本的な制度間ギャップは解消されていない。共生社会の理念が、年齢で区切られる二制度間のギャップを許容している矛盾がここにある。
8050 問題と障害福祉サービスの届かなさ
8050 問題(80 代の親と 50 代の子の同居・社会的孤立・経済困窮)は、40-64 歳のひきこもり約 61.3 万人、70% 以上が男性とされる。この中には知的障害・発達障害・精神障害があるにもかかわらず障害福祉サービスにつながっていない当事者が一定数含まれると推定される。
なぜつながらないのか。親が「家庭内で抱える」ことを選択してきた歴史的経緯(障害者を「家の恥」とする旧来の規範)がある。障害認定を受けないまま中年期に至り、療育手帳・精神保健福祉手帳の取得タイミングを逸する。自治体担当者が高齢者福祉と障害福祉の縦割りで個別世帯にアプローチできない。
改正障害者総合支援法は地域生活支援拠点等の整備で「親亡き後」を見据えた緊急対応を組み込んだが、「親が生きている間に手を差し伸べる」設計は弱い。8050 問題は「9060 問題」へと深化しつつあり、共生社会の社会保障空白が世代を超えて固定化する典型例である。
報酬改定が運営インセンティブを歪める
2024 年度報酬改定は、(a) 処遇改善加算の一本化(2024 年度 2.5%・2025 年度 2.0% のベースアップ)、(b) 生活介護の基本報酬をサービス提供時間で評価する体系へ変更、(c) A 型事業所の生産活動収益スコア厳格化 — など、運営インセンティブの構造変更を伴った。
結果として、加算項目を確保できる事業所と確保できない小規模事業所の経営格差が拡大する。短時間利用者の受け入れが基本報酬上不利になり、家族レスパイト的な使い方が困難になる。A 型事業所の閉鎖で就労機会が失われる。
報酬改定は制度の「事業所側のインセンティブ設計」を変える強力なツールだが、利用者視点での「サービスアクセスの公平性」を毀損しうる側面を持つ。共生社会という理念と、報酬という経済設計の間には常に緊張関係がある。
社会構想の種: 共生社会の再定義
これらの歪みを踏まえたとき、共生社会の制度設計には複数の転換が要る。
サービス類型の統合と簡素化が一つ。30 種類超の細分化が当事者をこぼれ落とす構造を是正するため、ニーズベースの統合的給付モデル(個別予算制、direct payment)への移行が検討されるべきである。英国の Personal Budget、ドイツの Persönliches Budget は参照可能な先行事例といえる。
地域生活支援インフラの統合的整備が二つめ。基幹相談支援センター、地域生活支援拠点、グループホーム、短期入所、緊急対応 — を個別整備するのではなく、「障害福祉複合施設」として一体的に整備するモデルが必要となる。ISVDが ROLE FOR ALL・コラレイトデザインと取り組む障害福祉複合施設構想(PPP/PFI/スモールコンセッション活用)は、この方向性に位置づく。
世代間ギャップの埋め直しが残る。65 歳問題と 8050 問題は、いずれも制度間・世代間の縦割りが生む空白である。障害福祉と介護保険を「ライフコース全体を通じた支援」として連続的に設計し直す試みが、共生社会の名にふさわしい制度設計となる。
改正障害者総合支援法は、形式的には包括的な制度刷新であり、就労選択支援・基幹相談支援センター努力義務化・グループホーム総量規制議論など、運用フェーズで多くの新たな論点を生み出した。しかし運用 2 年経過時点で見えたのは、「制度が用意したサービスからこぼれ落ちる人々」の構造であり、「地域に受け皿がないまま地域移行を急ぐ」前提の弱さであり、「65 歳・80 歳という年齢の壁が共生社会の理念を裏切る」現実である。
国連障害者権利委員会の総括所見(2022 年 9 月)が指摘した「障害者が居住地・地域社会のどこで誰と暮らすかを選択する機会」は、改正法の運用フェーズで再び問われている。この問いは、福祉制度の細部設計を超えて、「日本社会は障害のある人々と本当に共に生きる準備があるのか」という根源的な問いに帰着する。
サービス供給の量と公平性を超えて、サービスからこぼれ落ちる人々を可視化し、サービス類型の細分化を統合し、地域生活支援インフラを統合的に整備し、世代間ギャップを埋め直す — 運用フェーズが突きつけているのは、こうした構造的再設計の必要性である。改正障害者総合支援法は出発点であって、到達点ではない。
関連コラム
- 障害者雇用率制度の構造と限界 — 法定2.5%の内側で何が起きているか(特例子会社・精神障害者の定着率 49.3% など雇用側の構造分析)
- 障害年金 見えない壁 — 認定地域格差と不支給率の構造(所得保障側の制度評価)
- 生活保護実施要領の2026年4月改正 — 何が変わり、何が変わらなかったか(社会保障の制度的空白の隣接論点)
参考書籍
『障害者総合支援法事業者ハンドブック : 報酬告示と留意事項通知. 2024年版 報酬編 第1巻』(中央法規出版、2024 年)は、2024 年報酬改定の詳細を網羅した実務書。就労継続支援 A 型のスコア方式評価の変更点など、運用フェーズの分析に必須の一冊となる。
『当事者主権』(中西正司・上野千鶴子、岩波新書、2003 年)は、障害当事者運動の理論的基礎を提示した古典。改正障害者総合支援法の理念(自己決定権の保障)の源流を理解するための必読書であり、「当事者主権」概念は障害福祉政策の評価軸として現在も有効である。
『不如意の身体 — 病障害とある社会』(立岩真也、青土社、2018 年)は、障害学の代表的論考。改正障害者総合支援法が抱える「医学モデルと社会モデルの同居」を理論的に整理する。
参考文献
障害者総合支援法等の改正について — 厚生労働省 障害保健福祉部. 厚生労働省
地域生活支援拠点等の機能化について(令和 7 年度相談支援従事者指導者養成研修) — 国立障害者リハビリテーションセンター. 国立リハビリテーションセンター
令和 6 年 障害者雇用状況の集計結果 — 厚生労働省. 厚生労働省
障害者の権利に関する条約 第 1 回日本政府報告 総括所見 — 国連障害者権利委員会. 外務省
令和 6 年版 障害者白書 — 内閣府. 内閣府
障害福祉グループホームの総量規制、厚労省が導入を提案 — 介護ニュース Joint. Joint
障害者施設待機者の実態解明へ 厚労省「定義調べる」 — 福祉新聞. 福祉新聞
A 型事業所 329 カ所閉鎖、5,000 人解雇 — 福祉のビジネス化が奪う障害者の尊厳 — 社労士法人エルファロ. エルファロ
国連障害者権利委員会 総括所見 日本語仮訳 — 日本障害フォーラム(JDF). JDF