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一般社団法人 社会構想デザイン機構
ISVD-LAB-003基盤構築

6領域統合モデルの実装化 — 原論から実践手順への4段階マッピング

ヨコタナオヤ
約11分で読めます

社会構想デザイン基礎の6領域統合モデル(社会政策・アグノトロジー・認識論・参加型デザイン・EBPM・市民社会論)を実務に落とし込む4段階手順を提示する。ISVDの他4研究室(無知学・マチカルテ・公共資産活用・交通騒音)への適用マッピングと、実装過程で見えた3つの課題を報告する。

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6領域統合モデルは、原論としては『6分野統合モデル』で整理された。 残された問いは、この統合をどう実務に降ろすかである。 モデルが概念的枠組みにとどまるかぎり、他の研究室の作業は6領域と接続されない。

このエッセイは、統合モデルを実装するための4段階手順を提示する。 そのうえで、ISVDの他4研究室、無知学、マチカルテ、公共資産活用、交通騒音における実務作業に対して、 このマッピングをどう適用するかを示す。実装過程で見えた3つの課題も併記する。

何が起きているのか

統合モデルの再訪

6領域統合モデルは6つの学術分野からなる。社会政策、、認識論、参加型デザイン、、市民社会論の6つである。統合の論理は3つの概念に依拠する。 RittelWebber1973)のwicked problems、 Gibbons et al.(1994)のMode 2知識生産、 StarGriesemer1989)の境界オブジェクトである。

6領域はそれぞれ固有の機能を担う。アグノトロジーは「なぜ見えないか」を、認識論は「何が正当な知識か」を、EBPMは政策適用のレイヤーを、社会政策はドメイン・コンテキストを、市民社会論はアクター・コンテキストを、参加型デザインは方法を提供する。この機能配置は原論で確認されている。

概念的枠組みが実装されない理由

しかし、この整理を読むだけでは、他研究室の実務作業と統合モデルは接続されない。 無知学の研究者が個別ケースを書くとき、「どの領域を主とし、どの領域と交差させるか」は自明ではない。 マチカルテの研究者が議会発言を分析するとき、EBPMと参加型デザインの交差点はどこかは、モデルからは直接読み取れない。 公共資産活用の研究者が制度分析を書くとき、社会政策と市民社会論のどちらを主軸に置くべきかは、判断者の直感に委ねられている。

概念的枠組みと実務のあいだには、翻訳の手続きがいる。 本稿はそれを「4段階手順」として提示する。

背景と文脈

4段階手順

4段階は次のとおりである。

段階1 対象領域の6領域配置

分析対象(無知の生産、議会発言、公共資産、交通騒音)が6領域のうちどれを主とし、どれを副とするかを明示する。主・副の区別は「どの領域の理論的資源が最も動員されるか」で判定する。副の領域は複数あってよい。

段階2 領域交差の特定

主と副の交差点、あるいは副どうしの交差点を列挙する。交差点は「2領域の概念が同じ現象を異なる角度から扱う地点」として同定される。たとえば「議会発言におけるエビデンス言及」は、EBPMの文脈では政策形成の判断根拠を、認識論の文脈では正当化の条件をそれぞれ意味する。この地点が交差点である。

段階3 交差点での作業単位化

交差点を、研究・実務・介入の3種の作業単位に落とす。研究は「その交差点で何が起きているかを記述する」作業である。実務は「その交差点でどの制度・組織・人が動いているかを整理する」作業である。介入は「その交差点で何をどう変えるかを提案する」作業である。3種は独立でなく、研究が実務の土台を、実務が介入の基盤を提供する連鎖関係にある。

段階4 作業単位の連結検証

複数の作業単位を並べたとき、それらが作業手順としての一貫性を持つかを検証する。研究段階での定義が実務段階で参照可能か、実務段階での整理が介入段階で発動可能か。連結が破綻している場合、どの段階に戻って再設計するかを判定する。

統合モデルとの対応

4段階のそれぞれは、原論の統合論理と対応する。段階1はwicked problemsの性質を実務に持ち込む。単一領域では対象が捉えられないという前提を、明示的な領域配置として書き出す。段階2は境界オブジェクトの特定にあたる。「エビデンス」「参加」「不可視性」といった概念が交差点で機能する地点を、対象領域に即して同定する。段階3はMode 2知識生産の応用文脈における作業への翻訳である。段階4はトランスディシプリナリティの実践的志向を、検証工程として制度化する。

構造を読む

無知学研究室への適用

無知学研究室(ISVD-LAB-001)は「なぜ重要なことが知られないか」を問う。この問いは認識論と社会政策の交差点に位置する。

段階1で、主を認識論、副を社会政策とする配置を採る。認識論は「何が正当な知識として認められるか」を扱い、社会政策は「福祉・労働・貧困等の制度的文脈」を与える。段階2の交差点は「認識的不正義が政策形成過程で発動する地点」である。段階3で研究単位はFricker(2007)の認識的不正義概念を個別事例に適用する記述、実務単位はNPO現場知が政策形成過程で採用される制度的経路の整理、介入単位はISVDの声明やダッシュボードで数字にして見せる作業になる。

具体的には『NPOの現場知と認識的不正義』は段階3の研究単位に、『戦略的無知とEBPM』は段階2の交差点特定に対応する。

マチカルテ研究室への適用

マチカルテ研究室は全国1,788議会の議事録を観察値として読む。この作業はEBPMと参加型デザインの交差点に位置する。

段階1で、主をEBPM、副を参加型デザインとする配置を採る。議会発言データを構造化することでエビデンスとして扱えるようにする作業(EBPMのメタレイヤー)と、当事者としての議員・住民の言葉を分析対象として尊重する作業(参加型デザインの原則、Costanza-Chock, 2020の「デザインは当事者と共に行う」原則に依拠する)が同時に動員される。段階2の交差点は「議会発言データの構造化」そのものである。段階3で研究単位は分野別トレンド分析、実務単位は情報公開請求手順の整理、介入単位はマチカルテ基盤の公開と自治体への提供にあたる。

具体的には『先送り率』は段階3の研究単位、『コーパス構築の方法論』は段階3の実務単位に対応する。マチカルテはEBPMを政策形成の下流ではなく上流、議論そのもののエビデンス化に適用する試みとして読み替え可能である。

公共資産活用研究室への適用

公共資産活用研究室(ISVD-LAB-005)はPPP/PFI、スモールコンセッション、Park-PFI、PFS等の制度運用を分析する。この作業は社会政策と市民社会論の交差点に位置する。

段階1で、主を社会政策、副を市民社会論とする配置を採る。制度は社会政策のドメインだが、動かすアクターはローカル事業者・NPO・住民組織であり、市民社会論のアクター論が動員される。ここで参照されるのは、共有資源の自主管理を扱ったOstrom, 1990のコモンズ論であり、公共資産をコモンズとして再定義したうえで、動かすアクターの組織条件を分析する枠組みを提供する。段階2の交差点は「制度は存在するが動かない状態がなぜ続くか」である。制度の側からは策定率で測られ、市民社会の側からはノウハウ・人材不足として現れる。段階3で研究単位は制度類型ごとの運用実態分析、実務単位は自治体の内部組織・専門家配置の整理、介入単位はスモールコンセッション・プラットフォーム等の中間支援機能への提言となる。

具体的には『スモールコンセッションの3つの壁』は段階3の研究単位、『廃校のスモールコンセッション構造』は段階2の交差点特定に対応する。

交通騒音研究室への適用

交通騒音研究室は感覚過敏者を含む多様な当事者の屋外環境ストレスを研究する。この作業は認識論と社会政策の交差点に位置する。無知学と主・副の配置は同じだが、対象領域が異なる。

段階1で、主を認識論、副を社会政策とする配置を採る。感覚過敏者の体験がdBの絶対値では捉えられないという事実は、認識論の枠組みでは「解釈的不正義」、すなわち自分の経験を理解するための概念的資源が社会的に欠如している状態として整理される。社会政策の側からは、環境正義(幹線道路沿いの低所得層集積)の問題として現れる。段階2の交差点は「感覚過敏者の体験と環境規制の測定枠組みの乖離」である。段階3で研究単位は屋外経路×生理データの実証、実務単位は既存の環境規制・苦情処理制度の整理、介入単位は測定枠組みの更新提案となる。

具体的には『幹線道路沿いに住む人ほど騒音被害が大きい』は段階3の研究単位(社会政策側)、『苦情ギャップ』は段階2の交差点特定に対応する。

4研究室のマッピング表

4研究室の6領域配置と交差点を並べると、次の表になる。

研究室主領域副領域交差点主な作業単位
無知学認識論社会政策認識的不正義が政策形成過程で発動する地点個別事例の記述(研究)
マチカルテEBPM参加型デザイン議会発言データの構造化データ基盤構築(実務)
公共資産活用社会政策市民社会論制度は存在するが動かない状態制度類型ごとの運用実態分析(研究)
交通騒音認識論社会政策感覚過敏者の体験と測定枠組みの乖離屋外経路×生理データの実証(研究)

配置の共通点として、認識論と社会政策の組み合わせが2件(無知学・交通騒音)を占める。これは偶然ではない。ISVDが扱う課題の多くが「見えていない当事者」の問題であり、その見え方を変えるには認識論的枠組みと制度的文脈の両方が要る。

4研究室の6領域配置カード

上記の表を、研究室ごとに主軸・副軸・交差点・作業単位の4項目で分解する。

無知学研究室

認識論 × 社会政策

ISVD-LAB-001/認識的不正義の政策発動地点

主軸は認識論(何が正当な知識か)、副軸は社会政策(福祉・労働・貧困等の制度的文脈)。交差点は「認識的不正義が政策形成過程で発動する地点」。主な作業単位はFrickerの認識的不正義概念を個別事例に適用する研究記述であり、実務単位はNPO現場知が政策形成に採用される制度的経路の整理、介入単位はISVDの声明やダッシュボードで数字にして見せる作業となる。

マチカルテ研究室

EBPM × 参加型デザイン

議会発言データの構造化そのものが交差点

主軸はEBPM(政策形成のエビデンス化)、副軸は参加型デザイン(当事者の言葉を分析対象として尊重)。交差点は「議会発言データの構造化」そのものであり、上流の議論そのものをエビデンス化する試みとして読み替え可能である。主な作業単位はデータ基盤構築(実務)であり、研究単位は分野別トレンド分析、介入単位はマチカルテ基盤の公開と自治体への提供となる。

公共資産活用研究室

社会政策 × 市民社会論

ISVD-LAB-005/制度は存在するが動かない状態

主軸は社会政策(PPP/PFI・スモールコンセッション・Park-PFI・PFS等の制度運用)、副軸は市民社会論(動かすアクターの組織条件)。交差点は「制度は存在するが動かない状態がなぜ続くか」であり、制度の側からは策定率で、市民社会の側からはノウハウ・人材不足として現れる。主な作業単位は制度類型ごとの運用実態分析(研究)であり、実務単位は自治体の内部組織・専門家配置の整理、介入単位はスモールコンセッション・プラットフォーム等への提言となる。

交通騒音研究室

認識論 × 社会政策

感覚過敏者の体験と測定枠組みの乖離

主軸は認識論(解釈的不正義の枠組み)、副軸は社会政策(環境正義・幹線道路沿いの低所得層集積)。交差点は「感覚過敏者の体験と環境規制の測定枠組みの乖離」であり、dBの絶対値では捉えられない体験を、概念的資源の社会的欠如として整理する。主な作業単位は屋外経路×生理データの実証(研究)であり、実務単位は既存の環境規制・苦情処理制度の整理、介入単位は測定枠組みの更新提案となる。

課題と限界

このマッピングは第一次近似であり、3つの課題を抱えている。

課題1 6領域配置の恣意性

主・副の判定を誰が行うかは、まだ手続き化されていない。無知学と交通騒音が同じ「認識論×社会政策」の配置になったのは私の判定であり、別の判定者は異なる配置を採る可能性がある。判定基準として「動員される理論的資源の量」を提示したが、量の計測法は未整備である。Citation数を根拠にする案があるが、Citation数は執筆者の関心の偏りを反映する。判定の透明性と再現性は今後の課題である。

課題2 交差点を見つける難しさ

段階2の「交差点の特定」は、現状では執筆者の直感に依存している。原論では「エビデンス」「参加」「不可視性」が境界オブジェクトとして例示された。他にどのような概念が交差点で機能しているかは、まだ整理されていない。ISVDの既存記事977件のCitation分析で境界オブジェクトを実証的に同定する作業は、原論でも次のステップとして挙げられていた。4研究室での適用が増えるほど、この作業は進めやすくなる。

課題3 4段階の柔軟性

4段階は直線的な工程として提示したが、実際には往還的になる。段階3の作業単位化で困難が発生したとき、段階1の領域配置に戻る場合がある。段階4の連結検証で作業手順の破綻が発覚したとき、段階2の交差点特定に戻る場合がある。この往還性を直線的な手順に見せかけると、実務者が「順序どおりに進めれば動く」と誤解する。順序は目安であり、往還を前提とする運用が現実的である。

これら3つの課題は、統合モデルを実装する過程で必然的に現れる。原論が概念的枠組みにとどまる段階では見えなかった問題群である。実装化の作業は、統合モデル自体の検証工程でもある。

参考文献

→ 関連: 6分野統合モデル / 社会構想デザインの知的座標 / 構造を読む方法論 / データ駆動型の可視化方法論

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