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一般社団法人 社会構想デザイン機構

EVは静かすぎる — 加速音付加と型式認証の逆説

横田 直也
約4分で読めます

電動バイク・電気自動車の普及で「静かな乗り物」が増える一方、国際基準UN/ECE R138は低速域での人工音付加を義務付けた。騒音規制と歩行者安全の二律背反を、型式認証制度の構造から読む。

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このノートは静かなまちプロジェクトの規制構造分析パートです。仮説全体像は 4つの研究仮説、規制の縦割り構造は なぜ爆音バイクは捕まらないか を参照されたい。

何が起きているのか

電動二輪車と電気自動車の普及が進む中、都市騒音の議論に新しい矛盾が持ち込まれた。静音車両が増えることで交通騒音は減る、と思いきや、国際的な車両安全規制はその「静かすぎること」自体をリスクと見なし、人工的な走行音の付加を義務化したのだ。

国連欧州経済委員会(UNECE)の車両安全規則第138号(R138)は、電動車両に対して時速20km以下の低速走行時に最低限の音量を出す仕組み「AVAS(Acoustic Vehicle Alerting System、歩行者向け接近通報の仕組み)」の搭載を義務付けた。日本では国土交通省が道路運送車両法の保安基準を改正し、2021年以降の新型電動車両に搭載を義務付けている。

問題は、この「音を付け加える規制」が、都市騒音の削減という方向性と部分的に矛盾することだ。静かな乗り物を社会にとって望ましいものとして位置づけてきた環境政策の文脈に、「静かすぎると危ない」という安全上の反論が正面から衝突している。

背景と文脈

AVAS規制の出発点は歩行者・自転車利用者の安全にある。内燃機関車に慣れた人間の感覚は、エンジン音を「車が近づいてくる」信号として無意識に頼ってきた。視覚障害者・高齢者・スマートフォンを使っている歩行者にとって、この音がないことは衝突リスクを高めるという研究知見が重なってきた。

EU欧州委員会の規則540/2014号は、電動車両のAVAS搭載を2019年7月以降の新型認証車両に義務化した。時速20km以下で56dB(A)以上の音量を出すことが最低基準とされており、音色は車速に合わせて変化することが求められる。

日本でも道路運送車両法の保安基準第43条の4(電動車両の接近通報の仕組み)が整備され、型式認証審査において音量・音色の適合確認が行われる。ただし、このAVASが実際にどの程度の騒音レベルに寄与するかは、国内の環境騒音データとして体系的に集計されていない。

構造を読む

AVAS規制が浮き彫りにする問題は三つの層に分かれる。

一つ目は音量設計の下限と上限の非対称性だ。R138は最低音量を定めるが、上限は設けていない(または極めて緩い)。メーカーが購買者の「迫力感」を演出するために上限ぎりぎりの音量設計を選ぶ余地がある。特に電動スポーツバイクのカテゴリでは、意図的に力強い音色を付加して内燃機関車との差別化を図る製品が登場している。規制の目的が歩行者保護にあるとすれば、上限規制の欠如は本来の趣旨から外れた運用を許す穴となる。

二つ目は型式認証と実使用の乖離だ。型式認証時に適合していたAVAS音量・音色が、販売後のソフトウェア更新や社外部品への交換で変わる可能性が制度上排除されていない。内燃機関車のマフラー改造と同じ問題が、電動車両のAVAS設定変更という形で再現しうる。

三つ目は静音効果の政策的評価軸の欠如だ。環境省が管轄する環境騒音の評価体系(LAeq時間平均)は、AVASが添加する低速域での定常音と、内燃機関が出す加速音を同一の指標で扱う。しかし生活環境への影響は質的に異なる。住宅街の深夜に、加速音による突発的な騒音イベントが減ることの価値は、LAeq平均では捉えにくい。EV化が都市の音環境に与える正味のインパクトを評価する手法が、現行の騒音政策の枠組みにない。

dBだけでは測れない で論じたContrastIndex試案が、この評価問題と接続する。AVASの義務音は低速・定常という特性上、「突発性」と「暗騒音とのコントラスト」が低い。評価指標を時間平均から外れ値イベント検出に移行することで初めて、EV化の静音効果を適切に評価できる。


参考文献

騒音に係る環境基準について(環境庁告示第64号)環境省. 環境省

道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)e-Gov法令検索. デジタル庁

不正改造車を排除する運動(街頭検査・整備命令の実施状況)国土交通省. 国土交通省

Environmental Noise Guidelines for the European RegionWorld Health Organization (WHO). WHO Regional Office for Europe

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