ざっくり言うと
- 公正取引委員会が2026年7月28日、東海地方のマンション大規模修繕で設計コンサルタント会社と施工会社あわせて28社に立ち入り検査した
- 国土交通省は2017年1月の通知で「バックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行う」手口を名指ししていた
- 2018年には944事例の金額と業務量の分布を公表し、管理組合が自分の見積りと比べられる金額の相場を示したが、比べる側の条件は変わっていない
- 2016年3月国が方針を書いた
マンション管理適正化指針を改正し「工事の発注等については、利益相反等に注意して、適正に行われる必要がある」と明記
- 2017年1月手口を名指しした
国土交通省が通知を発出。「自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導する」手口を名指しした
- 2018年5月相場を公表した
大規模修繕工事944事例の金額と業務量の分布を初めて公表。管理組合が自分の見積りと比べられる相場を示した
- 2026年7月同じ構造が残っていた
公正取引委員会が東海地方の設計コンサルタント会社と施工会社あわせて28社に立ち入り検査。受注調整の疑い
情報を出すことと、それを使える人がいることは別である。マンションストックは2023年末で約704.3万戸、うち築40年以上が約137万戸あり、その築40年以上では世帯主が70歳以上の住戸が5割を超える。数年に一度しか来ない工事を、輪番で回ってきた素人が発注する。相場が公表されていても、自分の見積りと突き合わせる時間と知識が要る。
何が起きているのか
公取委が28社に立ち入り検査。同じ手口を国が名指ししてから9年が経っている
2026年7月28日、公正取引委員会がマンションの大規模修繕工事をめぐって立ち入り検査に入った。対象は東海地方の設計コンサルタント会社や施工会社、あわせて28社。受注調整を繰り返していた疑いがあるとされる。現時点では検査の段階であり、違反が認定されたわけではない。
見出しだけを読むと、業界の不正が新しく見つかった話に見える。実際には、この手口には名前がついていて、名づけたのは国である。
国土交通省は2017年1月27日、マンション管理の関係4団体あてに通知を出している。その別紙には、こう書かれていた。
一部のコンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態が発生している。
9年前の文章である。今回の疑いと、構造が同じだ。
背景と文脈
国は指針の改正、手口の名指し、944事例分の相場の公表と3段階を踏んできた
国は手をこまねいていたわけではない。段階を踏んでいる。
出発点は2016年3月の指針の改正だった。マンションの管理の適正化に関する指針に「工事の発注等については、利益相反等に注意して、適正に行われる必要がある」という一文が入る。方針を書いた段階である。
翌2017年1月の通知は、その一歩先へ進んだ。設計監理方式そのものは、専門知識のない管理組合が透明に施工会社を選ぶために有効だと認めたうえで、指摘されている事例を3つ具体的に挙げている。最も安い見積りを出したコンサルタントに頼んだところ、実際に調査診断や設計をしていたのは施工会社の社員で、パンフレットに技術者が多数いると書かれていたその会社の実体は、技術者でない社長と事務員1人だった。設計会社が候補5社のうち特定の1社にだけ少ない数量を伝え、その会社の見積金額が低く出るようにした。そして、バックマージンの事例である。抽象的な注意喚起ではなく、手口の記述だ。
さらに2018年5月11日、国土交通省は大規模修繕工事の実態調査を初めて公表した。直近3年間の944事例について、工事金額と工事内訳、設計コンサルタント業務の業務内訳と業務量の分布を統計として整理したものである。管理組合が自分の見積書と突き合わせられるように、事前に検討したほうがよい点も三つ示した。工事内訳に過剰な項目や仕様がないか。戸あたりや床面積あたりの金額が割高になっていないか。そして、コンサルタントの業務量が著しく低く抑えられていないか、とくに工事監理の業務量が低すぎないか。
方針を書き、手口を名指しし、比べるための相場を示す。行政としてできることは、ひととおり済んでいる。それでも2026年に、同じ構造が独占禁止法の調査対象になった。
構造を読む
情報を出すことと使える人がいることは別。発注する側の条件が変わっていない
なぜ埋まらないのか。情報を出すことと、その情報を使える人がいることが、別のことだからである。
発注する側の条件を見るとわかりやすい。分譲マンションのストックは約704.3万戸あり、国勢調査の1世帯当たり2.2人をかけると居住者は推計で約1,500万人、国民の1割を超える。その大半で、修繕を発注するのは管理組合、つまり住民の持ち回りである。大規模修繕は十数年に一度しか回ってこない。同じ人が二度目を経験することは、ほとんどない。
売る側は毎日それを売っている。買う側は一生に一度か二度しか買わない。この頻度の差が、そのまま知識の差になる。944事例の分布表は正しい資料だが、使うには、どの数字を自分と比べるべきかを判断する力と、比べる時間が要る。
しかも、発注する側は年々きびしくなっている。築40年以上のマンションは2023年末で約137万戸で、10年後には約274万戸、20年後には約464万戸へ増える見込みだ。築40年以上のマンションでは、世帯主が70歳以上の住戸の割合が5割を超える。建物と住民の両方が古くなる、いわゆる二つの老いである。同じ資料は、こうしたマンションで総会の運営や集会の決議が難しくなり、管理組合の役員の担い手が不足していると書いている。
つまり、相場を示した相手のほうが、この9年で弱くなった。情報開示による是正は、受け手に判断の能力と時間があることを前提にしている。その前提が崩れているところへ情報だけを足しても、非対称は縮まない。
ここから先の設計は、二つに分かれる。一つは、受け手の側を補強する道である。国が案内している無料の見積チェックのような、外から見てもらう仕組みを、例外ではなく標準の手順に組み込むこと。もう一つは、そもそも判断させない道だ。コンサルタントの報酬を工事費と切り離す、施工会社からの受領を禁止して開示させるといった、利益相反が起きる余地を契約の形で消す設計である。前者は個々の管理組合の努力に依存し、後者は制度の側で背負う。9年の経過が示しているのは、前者だけでは足りないということだろう。
公開されているデータをどう自分の判断に使うかは、公的統計を読むための実務(このサイトの記事)で扱った問題と地続きである。制度が用意されていても届かない状態を扱った制度からの排除と未受給(このサイトの記事)も、同じ形をしている。用意されていることと、届いていることは、別に数えなければならない。
この記事で使った統計の出典
- 1NHK「マンション修繕で東海地方でも受注調整疑い 公取委が調査」(2026年7月28日) 出典を開く
- 2国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施(平成30年5月11日) 出典を開く
- 3国土交通省 マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向(2023年末) 出典を開く
参考書籍
- 『老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路』(外部サイト、新しいタブで開きます)(野澤千絵、講談社、2016年11月)。住宅が過剰に供給され続けた結果として、既存のストックの維持管理が誰の手にも負えなくなっていく過程を、都市計画の側から追った本。本文で扱った築40年以上のマンションの増加を、街の側から見るとどうなるかがわかる。
参考文献
設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知) — 国土交通省 住宅局市街地建築課長・土地・建設産業局建設市場整備課長 (2017). 国土交通省(国住マ第41号・国土建労第1021号)
マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施 — 国土交通省 住宅局市街地建築課 (2018). 国土交通省 報道発表資料
マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向 — 国土交通省 (2026). 国土交通省 社会資本整備審議会 参考資料
マンション修繕で東海地方でも受注調整疑い 公取委が調査 — NHK (2026). NHK NEWS WEB
独占禁止法(排除措置命令・確約計画の認定・警告等) — 公正取引委員会 (2026). 公正取引委員会 報道発表資料