ざっくり言うと
- 令和7年の特殊詐欺は認知27,832件(+32.3%)、被害額1,423.1億円(+98.0%)でいずれも大きく増えた
- 同じ年の検挙件数は6,575件で前年比マイナス0.0%、検挙人員も2,338人で+2.8%にとどまる
- 高齢者(65歳以上)が総認知件数に占める割合は51.3%で14.0ポイント下がったが、被害総額では59.2%を占める
特殊詐欺全体で、高齢者(65歳以上)の被害が法人被害を除いた総認知件数に占める割合は51.3%へ14.0ポイント下がった。ただし被害総額に占める割合は59.2%で、金額では依然として高齢者に偏る。件数で対策を測ると若年層の対策に寄り、金額で測ると高齢者の対策に寄る。どちらを基準に置くかで、配る先が変わる。
何が起きているのか
被害額はほぼ倍の1,423.1億円。同じ年の検挙件数は6,575件で前年から動いていない
警察庁が2026年5月22日に公表した確定値で、令和7年の特殊詐欺の被害額は1,423.1億円となった。前年から704.3億円増えている。増加率は98.0%で、1年でほぼ倍になった。認知件数も27,832件で32.3%増えた。
同じ資料に、もうひとつの数字が並んでいる。検挙件数は6,575件、前年比マイナス0.0%。検挙人員は2,338人で2.8%増にとどまる。被害が倍になっても、捕まえた件数は動いていない。
伸びの中心はオレオレ詐欺だった。認知件数は14,489件で114.6%増、被害額は1,138.1億円で148.3%増。一方で預貯金詐欺は25.0%減、還付金詐欺は21.9%減、キャッシュカード詐欺盗は10.3%減と、これまで主流だった手口は減っている。全体が増えたのではなく、ひとつの手口が跳ねた。
背景と文脈
高齢者の割合が51.3%へ14.0ポイント低下。件数は若年層、金額は高齢者に偏る
この統計には、もうひとつ前提を崩す数字が入っている。高齢者の割合である。
特殊詐欺全体で、65歳以上の被害の認知件数は14,273件で、前年から3.9%増えた。数としては増えている。だが、法人被害を除いた総認知件数に占める割合は51.3%で、14.0ポイント下がった。高齢者の被害が減ったのではなく、それ以外が急に増えたということだ。
どこが増えたのかは、オレオレ詐欺の内訳に出ている。件数が最も多いのは80代以上で3,235件、次が70代で2,453件。ここまでは従来どおりだ。だがその次に来るのが30代の2,284件で、前年から329.3%増えている。20代は1,759件で361.7%増。20代と30代を合わせると、オレオレ詐欺の認知件数の27.9%を占め、割合は14.4ポイント上がった。
その中身を担っているのが、警察官を名乗って接触するニセ警察詐欺である。この手口の認知件数は30代の2,239件が最多で、次が20代の1,718件。若い年代に集中している。
ところが、同じ手口を被害額で並べ替えると、順位がひっくり返る。最も多いのは70代の274.6億円、次いで60代の256.3億円である。件数の上位と金額の上位が、まったく別の年代になる。
構造を読む
件数と金額のどちらを基準にするかで、対策を配る先が変わってしまう
ここから読めることは二つある。
一つめは、被害の増え方と捕まえる力が切り離されているという点だ。被害額が98.0%増えるあいだ、検挙件数は0.0%しか動いていない。同じ資料のSNS型投資・ロマンス詐欺では、検挙件数が630件で140.5%増、検挙人員は397人で207.8%増と、はっきり伸びている。捜査の力が全体として頭打ちなのではなく、特殊詐欺という領域で伸びていない。実行役を入れ替えながら短期間で回す形が広がれば、1件あたりの捜査で届く範囲は狭くなる。件数を追うほど、被害の増加には追いつかなくなる。
二つめは、どの数字を基準にするかという問題である。同じ現象を件数で測るか金額で測るかで、対策を配る先が変わる。件数で測れば、若い世代への注意喚起が優先される。金額で測れば、高齢者の資産をどう止めるかが優先される。ニセ警察詐欺はその両方を同時に抱えている。件数の最多は30代、金額の最多は70代。どちらか一方の数字だけを見て資源を配ると、もう一方が抜ける。
厄介なのは、「特殊詐欺は高齢者を狙う犯罪だ」という前提が、対策の作りに入り込んでいることだ。金融機関の窓口での声かけ、地域の見守り、家族への注意喚起。いずれも、対面か電話で高齢者に接触する経路を想定している。だが30代が最多になった手口は、その経路を通らない。情報の非対称が起きる場所が、窓口からスマートフォンの画面へ移っている。
対策の設計としては、二つの層を分けたほうがよい。件数の層は、接触の経路そのものを塞ぐ側の話になる。警察を名乗る連絡が本物かどうかを、受け取った側が短時間で確かめられる手順を、年代を問わず配る。金額の層は、金銭が動く直前で止める側の話だ。高額の送金や引き出しに対する確認は、いま高齢者を想定して設計されているが、金額を基準にするなら年齢は関係がない。
統計をどの指標で切るかによって、見える問題が変わる。同じことは成果指標の設計(このサイトの記事)でも扱った。公的なデータを自分の判断に使う手順は公的統計を読むための実務(このサイトの記事)にまとめてある。被害額が倍になった年に検挙が動かなかったという事実は、来年の統計を待たずに読める。
この記事で使った統計の出典
- 1警察庁 令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)(令和8年5月22日) 出典を開く
- 2警察庁 令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)(令和7年) 出典を開く
参考書籍
- 『データリテラシー入門 : 日本の課題を読み解くスキル』(外部サイト、新しいタブで開きます)(友原章典、岩波書店)。同じ統計でも切り方を変えると別の結論が出てしまう場面を、日本の社会統計を題材に整理した入門書。本文で見た「件数で測るか金額で測るか」の問題を、他の領域でも見つけるための手がかりになる。
参考文献
令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値) — 警察庁 組織犯罪対策第二課・生活安全企画課 (2026). 警察庁 広報資料
令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について — 警察庁 組織犯罪対策第二課・生活安全企画課 (2025). 警察庁 広報資料
特殊詐欺の認知・検挙状況等について — 警察庁 (2026). 警察庁Webサイト 統計
特殊詐欺 発生状況 — 警察庁 (2026). 警察庁・SOS47特殊詐欺対策ページ