ざっくり言うと
- 2026年1月時点で一票の格差が2倍以上となる選挙区は16で、前年同期の12から4つ増えた
- 2022年の区割り改定は最大較差1.999倍で、2倍以上の選挙区はゼロだった。2倍まで0.001しか余裕がない
- 2017年の改定でもゼロから始まり、2020年国勢調査の時点では23選挙区まで開いていた。同じ往復が繰り返されている
区割りの基準は「基準選挙区の人口以上、その2倍未満」で、2022年の改定案は最大較差1.999倍だった。2倍まで0.001しか余裕がない状態から始まる設計である。定数の配分は10年に1度の大規模国勢調査に基づいて行うと決まっているため、次に直せるのは2030年の国勢調査の結果を待ってからになる。2026年1月時点の16選挙区という数字は、NHKが住民基本台帳をもとに試算したもの。
何が起きているのか
2倍以上が16選挙区に増えた。ただし前回の区割りは1.999倍から始まっている
衆議院選挙の一票の格差が、また開いている。NHKが2026年1月現在の住民基本台帳をもとに試算したところ、格差が2倍以上となる選挙区は16選挙区で、前年同期の12から4つ増えた。
ここで「また制度が追いついていない」と読むと、実態を取り違える。この開き方は、制度の想定内である。
直近の区割り改定を見ればわかる。衆議院議員選挙区画定審議会が2022年に勧告した改定案の最大較差は、1.999倍だった。最も人口の多い福岡2区が547,664人、最も少ない鳥取2区が273,973人。2倍以上の選挙区は、この時点でゼロである。
基準は「2倍未満」だ。改定案は、その基準に0.001だけ届かない位置に置かれた。
背景と文脈
配分は10年に1度の国勢調査に基づく。改定でゼロに戻し、次の改定まで開く往復
なぜぎりぎりになるのか。区割りの決め方を追うと、二つの制約が見える。
一つは、判定に使う人口が改定の時点で固定されることだ。区画審が2022年2月に定めた作成方針は、各選挙区の人口を「議員1人当たり人口が最も少ない県の選挙区のうち、人口が最も少ない選挙区の人口以上であって、かつ、当該人口の2倍未満とする」と書いている。ここでいう人口は、令和2年の国勢調査から外国人人口を差し引いた日本国民の人口である。つまり、基準を満たしているかどうかは、ある一日の断面で判定される。
もう一つは、直す周期である。小選挙区の都道府県別の定数配分は、10年に1度の大規模国勢調査に基づいてアダムズ方式で行うと決まっている。令和2年の国勢調査から適用が始まった。区割り改定案の勧告は、国勢調査の結果が最初に官報で告示された日から1年以内に行う。2022年6月16日に勧告が出て、法律は同年11月28日に公布、12月28日に施行された。
断面で判定し、10年に1度だけ直す。この二つが組み合わさると、何が起きるか。前回のサイクルが答えを出している。
2017年の区割り改定は、平成27年の人口で計算して最大較差1.956倍、2倍以上の選挙区はゼロだった。その区割りのまま令和2年の国勢調査を迎えると、最大較差は2.096倍、2倍以上の選挙区は23選挙区になっていた。ゼロから23へ。そこで25都道府県140選挙区を組み替えて、またゼロに戻した。
いま起きているのは、この往復の二周目である。2022年12月にゼロへ戻し、3年で16まで来た。
構造を読む
基準は改定の瞬間だけを見る。人口移動が続くかぎり格差は必ず再発する
一票の格差は、制度が壊れたから生まれるのではない。時間の刻み方が違うものを、一つの制度でつないでいるから生まれる。
人口移動は毎日起きている。区割りは10年に1度しか動かない。この差を埋める仕組みが、いまの制度には入っていない。だから改定の翌日から格差は開きはじめ、次の国勢調査まで開き続ける。是正が遅れているのではなく、是正の周期が現象の周期と噛み合っていない。
さらに、余裕の取り方が効いてくる。基準が「2倍未満」であるため、改定案は基準を満たしさえすればよい。2022年の1.999倍は、法律の要求を満たしている。ただし、そこから許される移動量はほとんどない。仮に1.7倍程度で作り直せば、同じ人口移動でも2倍を超えるまでの時間は長くなる。基準に貼りつけて作り直すか、余裕を持って作り直すかで、次の10年のあいだに違憲状態と言われる期間の長さが変わる。作成方針が求めているのは前者だけである。
ここに、人口が減る地域をどう扱うかという問いが重なる。定数を減らされた10県は、いずれも人口が減っている地域だ。地方の人口減少を止めるという政策目標と、人口に比例して議席を配るという原則は、同じ方向を向いていない。前者が成功しなければ、後者は次の改定でまた地方から議席を外す。地方創生の失敗が、地方の代表をさらに細らせるという順番になっている。
では何ができるか。選べる道は三つある。一つは周期を短くすること。国勢調査の中間年に住民基本台帳などで見直しを挟めば、開いた状態で放置される期間は縮む。二つめは、改定時の較差にもっと厳しい上限を置くこと。1.999倍ではなく、たとえば1.7倍を上限にすれば、同じ10年でも超過する選挙区は減る。三つめは、人口比例そのものの扱いを変えることだが、これは一人一票の平等という憲法上の要請に正面からぶつかる。最初の二つは技術的な選択で、三つめは価値の選択だ。いま議論されているのは主に一つめと二つめの範囲である。
制度が定期的に同じ場所へ戻ってくるとき、疑うべきは運用ではなく設計のほうだ。指標を基準ぎりぎりに合わせて達成とみなす作り方は、成果指標の設計(このサイトの記事)で扱った問題と同じ形をしている。人口が動き続ける前提でどう制度を組むかは、人口減少と東京一極集中(このサイトの記事)で扱った移動の実態と切り離せない。16という数字は、今年たまたま大きかったのではなく、次の改定に向けて増えていく途中の値である。
この記事で使った統計の出典
- 1NHK「衆院選『1票の格差』2倍以上 16選挙区に増加 NHK試算」(2026年7月29日) 出典を開く
- 2総務省 衆議院議員選挙区画定審議会 区割り改定案関係資料(令和2年日本国民の人口) 出典を開く
- 3総務省 令和2年国調に基づく衆議院小選挙区の区割り改定のスケジュール(令和4年) 出典を開く
- 4総務省 衆議院議員選挙区画定審議会 区割り改定案関係資料(平成27年日本国民の人口) 出典を開く
参考書籍
- 『日本の国会議員 — 政治改革後の限界と可能性』(外部サイト、新しいタブで開きます)(濱本真輔、中央公論新社、2022年4月)。小選挙区制の導入以降、議員の行動や党内の力関係がどう変わったかを実証データで検証した本。区割りという技術的な設計が、代表のあり方にどこまで効くのかを考える材料になる。
参考文献
令和2年国調に基づく衆議院小選挙区の区割り改定のスケジュール/区割り改定案の作成方針・関係資料 — 総務省 (2022). 総務省 衆議院議員選挙区画定審議会
衆議院小選挙区の区割りの改定等について — 総務省 (2022). 総務省 選挙関連資料
衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律 概要(小選挙区へのアダムズ方式導入) — 総務省 (2016). 総務省
衆院選「1票の格差」2倍以上 16選挙区に増加 NHK試算 — NHK (2026). NHK NEWS WEB
衆議院議員選挙区画定審議会 — 総務省 (2026). 総務省 審議会等