総務省が令和8年4月に公表した調査で、直近5年間に任期を終えた地域おこし協力隊員8,762人のうち70.3%が「同じ地域に定住」した。内訳は活動地と同一市町村内が5,038人で57.5%、近隣市町村内が1,125人で12.8%である。報償費を出して募集した市町村の側から見ると、12.8%は転出にあたる。定住率という指標が誰の視点で引かれているかを読む。
ざっくり言うと
- 直近5年間に任期を終えた8,762人のうち、6,163人が「同じ地域に定住」した
- 内訳は同一市町村内が5,038人で57.5%、近隣市町村内が1,125人で12.8%である
- 令和7年度の隊員数は8,196人で、令和8年度10,000人という目標まで1,804人ある
調査対象は令和2年4月1日から令和7年3月31日までに任期を終えた 8,762人、調査時点は令和7年5月1日。転出した 2,013人のうち 228人は、活動地と関わりのある地域協力活動等に従事している。
何が起きているのか
定住率70.3%は同一市町村57.5%と近隣市町村12.8%の合計である
総務省が令和8年4月24日に、令和7年度の地域おこし協力隊の活動状況と、任期を終えた隊員の定住状況を公表した。
隊員数は8,196人で、前年度から286人増えた。取り組んでいる自治体は1,187団体で、受入可能な1,461団体の約81%にあたる。
定住状況の調査は、令和2年4月1日から令和7年3月31日までの5年間に任期を終えた8,762人が対象である。このうち6,163人、70.3%が「同じ地域に定住」した。
この70.3%が何を指しているかは、内訳を開くと変わる。
活動地と同一市町村内に定住したのが5,038人で57.5%、活動地の近隣市町村内に定住したのが1,125人で12.8%。「同じ地域」は、この二つの合計である。
隊員を委嘱して報償費と活動経費を出すのは、受け入れた地方公共団体である。市町村が委嘱していた場合、 12.8%は隣の市町村へ出ていったことになる。
残りは、他の地域に転出が2,013人(23.0%)、不明が511人(5.8%)、その他が75人(0.9%)である。転出した2,013人のうち228人は、活動地と関わりのある地域協力活動等に従事していると記載されている。
背景と文脈
定住者の45.6%は起業だが、その数には準備中の人が含まれている
定住した5,038人が何をしているか
同一市町村内に定住した5,038人の内訳も、同じ資料に載っている。
起業が2,296人で45.6%、就業が1,753人で34.8%、就農・就林が583人で11.6%、事業承継が70人で1.4%。残りは不明155人(3.1%)とその他181人(3.6%)である。
起業が半分近くを占める。ただし、起業と事業承継の欄には 「準備中を含む」 という注記がある。事業が回っている状態と、開業に向けて動いている状態が、同じ数の中に入っている。事業がいくつ立ち上がったかを知りたい場合、この2,296人はそのままでは使えない。
起業の中身は飲食・美術・宿泊に寄っている
起業2,296人の内訳は業種別に公表されている。飲食サービス業(古民家カフェ、農家レストラン等)が308人、美術家・工芸家・デザイナー・写真家・映像撮影者が217人、宿泊業(ゲストハウス、農家民泊等)が181人、小売業(パン屋、移動販売、農作物の通信販売等)が174人。続いて観光業(ツアー案内、日本文化体験等)が130人、6次産業(猪や鹿の食肉加工・販売等)が101人、出版・広告業が80人、まちづくり支援業が80人である。
上位8業種で1,271人。起業の55%がここに入る。 飲食、ものづくり、宿泊、小売。地域の外から来た人が、地域の中で客に会う商売を始めている。 製造業や建設業のように資本設備が要る業種は、この上位に出てこない。
就業では4人に1人が行政関係
就業1,753人のほうは形が違う。行政関係(自治体職員、議員、集落支援員等)が480人で最も多く、次いで観光業176人、農林漁業(農業法人、森林組合等)138人、地域づくり・まちづくり支援業99人、教育業78人、医療・福祉業72人、製造業58人、小売業53人と続く。
行政関係が480人で、就業した人の27.4%にあたる。 任期のあとも公的な立場で地域に関わり続ける形が、就業の4人に1人である。 協力隊は自治体が委嘱する非常勤の立場なので、その延長線上に自治体職員や集落支援員がある。制度が制度の中に人を送り返している。
就農・就林583人では農業が477名、林業54名、畜産業20名、漁業・水産業12名で、農業が81.8%を占める。
任期を終えた人のほうが多くなった
任期を終えた人の累計は、令和7年3月31日時点で15,045人に達した。前回の調査から2,363人増えている。現役の8,196人に対して、すでに任期を終えた人のほうが多い。制度は平成21年度に始まり、17年が経った。毎年2千人規模で任期を終える人が出る段階に入っている。
入口のほうも広がっている
出ていく人が増える一方で、入口も広がっている。おためし地域おこし協力隊の参加者は令和6年度1,149人、令和7年度1,450人。インターンは令和3年度106人、4年度315人、5年度393人、6年度1,047人、7年度1,414人である。
インターンは4年で13.3倍になった。令和7年度は、おためしとインターンを合わせて2,864人が短期で現地に入っている。 本採用の8,196人とは別に、その3分の1にあたる人数が試しに来ている。 ここから何人が隊員になり、何人が定住したかは公表されていない。
構造を読む
定住率は誰の視点で線を引くかで変わる。指標を先に決めないと成果は測れない
「同じ地域」は誰の視点で引かれているか
隊員の側から見れば、近隣市町村に住んで元の活動地に通うことは、地域に残ったと言える。都道府県の側から見ても、県内に残っている。募集した市町村の側から見ると、住民票は出ていった。 同じ1,125人が、立場によって成果にも未達にもなる。
指標を政策目標に使うなら、この線を先に引いておく必要がある。アウトカム指標の設計(このサイトの記事)で扱ったとおり、何を成果と数えるかを決めずに数字だけを追うと、あとから解釈が割れる。総務省の資料は同一市町村と近隣市町村を分けて公表しているので、分けて読むことはできる。分けずに引用したときに57.5%が70.3%になる。
行き先が不明な511人をどちらに置くか
不明511人の扱いも、率を動かす。この人たちを定住した側に寄せれば76.2%、転出した側に寄せれば70.3%になる。 実際の定住率は70.3%から76.2%の間にある。 公表値の70.3%は、不明を全員転出とみなしたときの下限である。
追跡できていない人が5.8%いる状態で、年ごとの率を比べることの限界もここにある。不明の割合が年によって動けば、率も動く。
都道府県別の率は、母数を見てから読む
都道府県別の率も公表されているが、母数の差が大きい。神奈川県は100.0%だが、任期終了者は3人、大阪府は60.0%で5人である。3人のうち3人が残れば100%になる。
母数が大きいのは北海道の1,225人(78.3%)、長野県の656人(78.0%)、島根県の388人(60.3%)、高知県の362人(73.8%)、新潟県の341人(66.0%)、熊本県の325人(70.2%)あたりである。
100人以上の県で24ポイントの差がある
任期終了者が100人以上の県だけで並べると、率の幅が見える。高いほうは広島県79.6%(108人)、北海道78.3%(1,225人)、長野県78.0%(656人)、静岡県76.8%(125人)、兵庫県75.8%(198人)。低いほうは宮崎県55.6%(223人)、秋田県55.9%(179人)、島根県60.3%(388人)、長崎県60.9%(115人)、三重県61.3%(142人)である。
上と下で24.0ポイント違う。 同じ制度、同じ任期、同じ報償費で、残る割合が4分の1ちがう。 この差が何から来ているかは、この資料には書かれていない。産業の有無か、住宅か、受け入れ側の体制か。県を並べて優劣を語る前に、この問いのほうが先に来る。
目標10,000人まで、直近の伸びの6.3倍が要る
隊員数のほうにも目標がある。デジタル田園都市国家構想総合戦略は、令和8年度までに10,000人と置いている。令和6年度が7,910人、令和7年度が8,196人。1年の伸びは286人だった。 残る1,804人は、直近の伸びの6.3倍にあたる。
取組自治体は1,187団体で、受入可能な1,461団体の約81%。残る274団体が全部参加しても、1団体あたり6.6人を新たに置かないと届かない。
数を増やすことと、残る人を増やすことは別の設計
移住推進の『稼げない』問題(このサイトの記事)で見たとおり、任期の3年が終わったあとの収入の見通しが立たなければ、住み続ける判断はできない。同一市町村に定住した5,038人のうち45.6%が起業という数字は、その見通しを自力で作った人の割合でもある。
裏を返せば、 自力で作れなかった人がどこへ行ったかが、転出の2,013人である。 そのうち228人は活動地と関わりのある地域協力活動等に従事していると記載があるので、地域との縁が切れたわけではない。ただし住民票は動いている。
関係人口という枠組み(このサイトの記事)が、定住を前提にしない関わり方を並べて置いているのは、この分岐の手前に別の道を用意する試みである。
何を数えるかを決めないまま、率だけが流通する
定住率を上げたいのか、地域に関わる人を増やしたいのか。前者なら57.5%が実績で、後者なら転出した2,013人のうち228人も数に入る。
数え方を変えれば、打つ手も変わる。同一市町村への定住を上げたいなら、その市町村の中に仕事と住まいを作る話になる。地域に関わる人を増やしたいなら、近隣市町村に住んで通う形も、県外から関わる形も成果に入る。 どちらを数えるかを決めないまま70.3%だけが流通する状態が、いま起きていることである。
この記事で使った統計の出典
- 1総務省 令和7年度における地域おこし協力隊の活動状況等(令和8年4月24日公表) 出典を開く
- 2総務省 令和7年度における地域おこし協力隊の活動状況等(調査時点 令和7年5月1日) 出典を開く
- 3総務省 令和7年度における地域おこし協力隊の活動状況等(令和7年3月31日時点) 出典を開く
- 4総務省 令和7年度における地域おこし協力隊の活動状況等(令和3〜7年度) 出典を開く
- 5総務省 地域自立応援課の事業について(令和7年8月) 出典を開く
参考書籍
- 『関係人口の社会学―人口減少時代の地域再生』(外部サイト、新しいタブで開きます)(田中輝美、大阪大学出版会)。定住でも交流でもない関わり方を、島根県の事例を追って類型化した研究書。定住率という一本の指標では測れない関わりの層を考えるのに使える。
参考文献
令和7年度における地域おこし協力隊の活動状況等 — 総務省 地域力創造グループ地域自立応援課 (2026). 総務省
令和7年度 地域おこし協力隊の隊員数等について — 総務省 地域力創造グループ地域自立応援課 (2026). 総務省
総務省地域自立応援課の事業について(地域おこし協力隊、地域活性化起業人、特定地域づくり協同組合制度) — 総務省 地域力創造グループ地域自立応援課 (2025). 総務省



