令和8年度の全国学力・学習状況調査の分析結果が8月3日に公表された。文部科学省は思考力・表現力に課題があるとしている。ただし誤答の内訳を見ると、白紙ではない。中学校英語で考えとその理由を書く問題は正答28.4%に対し、考えは書いたが理由を書かなかった答案が43.6%を占める。国語も英語も同じ壊れ方をしている。意見は出ていて、その先の根拠が続かない構造を読む。
ざっくり言うと
- 中学校英語で考えとその理由を書く問題は、正答28.4%に対し理由だけが抜けた答案が43.6%
- 小学校国語・中学校国語・中学校英語の4つの設問すべてで、同じ形の誤答が最頻値に近い位置を占める
- 児童生徒の約80%は、主体的・対話的で深い学びに取り組んだと答えている
考えは書いたが、引用の条件を満たさない
考えは書いたが、本文に基づく記述が不十分
考えは書いたが、理由を書いていない
したいことは話したが、理由を話していない
調査は令和8年4月20日から5月29日にかけて、小学校6年生と中学校3年生を対象に実施された。灰色は無解答を含むその他の答案。
何が起きているのか
思考力・表現力に課題という総括の中身は、無解答ではなく途中で止まった答案だった
8月3日、令和8年度の全国学力・学習状況調査について、全国データに基づく分析結果が公表された。文部科学省と国立教育政策研究所による。
NHKはこれを「思考力や表現力に課題」と伝えた。文部科学省は、生成AIの時代だからこそ思考力は大切であるとしている。
調査は令和8年4月20日から5月29日にかけて、小学校6年生と中学校3年生を対象に実施された。
平均正答率はこうなっている。小学校国語61.1%、小学校算数56.6%、中学校国語64.2%、中学校数学57.4%。中学校英語は今年度から4技能すべてがコンピュータ上の試験になり、項目反応理論にもとづくスコア499で示された。
数字そのものより、誤答の内訳のほうが読み応えがある。
課題があるとされた設問で、生徒は白紙を出したわけではなかった。書いている。途中まで書いて、そこで止まっている。
背景と文脈
4つの設問すべてで、条件の前半は満たし後半で落ちるという同じ壊れ方をしている
中学校英語の問10(2)を見る。インターネットの使用について読んだ英文があり、それに対する自分の考えと、その理由を書く問題である。
正答の条件は2つ。書き手の意見に対する自分の考えを書いていること。そして、その理由を書いていること。
正答率は28.4%だった。そして誤答の内訳として、条件①は満たしているが②を満たしていないものが43.6%と記されている。
考えは書いた。理由を書かなかった。この答案が、正答より多い。
同じ形が他の設問にもある。
小学校国語の大問2四は正答率33.6%で、条件の一部だけを満たした答案が29.1%。本から引用して自分の考えを書く問題で、考えは書いたが引用の条件を満たさなかった答案である。
中学校国語の大問4四は正答率39.3%で、条件①は満たすが②を満たさない答案が35.1%。擬態語の効果を本文中の言葉を使って書く問題で、効果は書いたが本文に基づく記述が足りなかった。
中学校英語の問16は正答率53.5%で、同型の誤答が16.8%。留学生と一緒にしたいことを1つ挙げ、その理由を話す問題である。したいことは話した。理由を話さなかった。
4つとも、条件の前半は満たして後半で落ちている。
文部科学省の総括も、そこを指している。国語については、自分の考えを伝える際に考えと根拠を区別して表現することを意識させることが重要としている。英語については、読み手や聞き手に伝わるよう理由を示すことを意識させることが重要としている。
一方で、授業の側の自己評価は低くない。小学校で77.6%、中学校で78.8%の児童生徒が、課題の解決に向けて自分から取り組んだと答えている。主体的・対話的で深い学びに関する他の設問でも、傾向は同じだった。
デジタル端末への評価も高い。小学校で89.9%、中学校で87.0%が、ICT機器を使うと楽しみながら学習を進めることができると答えた。
犯人探しに使われがちな数字も見ておく。SNSや動画視聴の時間が長いほど正答率が低い傾向があり、相関係数は小学校国語で-0.240、中学校英語で-0.257。負の相関はある。ただしこの強さは、原因を説明する数字ではない。
構造を読む
根拠を書けないことと、根拠のない理由をそれらしく書けることは同じ場所にある
理由を書けないことは、考えていないことと同じではない。
中学校国語の誤答例が、それをよく示している。二つの例文を比べて、擬態語「きっぱり」が表す様子とその効果を書く問題だった。ある生徒はこう書いている。「きっぱり」という擬態語をつかうことによって生徒がたくさん練習をしてきて、発表に自信があるように感じさせる効果がある。
文としては通っている。読んでいて意味も分かる。ただし本文には、たくさん練習をしてきたとは書かれていない。読んだことに基づかない理由を、それらしく書いた答案である。
小学校国語の誤答例も同じ形をしている。白は雪の色であり、冷たい印象がある。白色や青色の衣服は着ている人だけでなく、周りの人にもすずしさを感じさせることができる。もっともらしい。そして、集めた情報からの引用ではない。
この答案は、生成AIの誤りとまったく同じ形をしている。
もっともらしい文が出てくる。出典に当たると、そこには書かれていない。生成AIの出力を検証するとき、人が確かめているのはこの一点である。主張が根拠に支えられているか。
だとすれば、文部科学省の「生成AIの時代だからこそ思考力は大切」という言い方は、方向としては正しい。ただし守るべきものの位置が少しずれている。
理由を書く力そのものは、いま最も安く手に入る。意見を渡せば、理由はいくらでも生成される。もっともらしい理由が、瞬時に、無限に。
希少になるのは、その理由が本文に書いてあるかを照らし合わせる作業のほうである。中学校国語の設問が測っていたのは、そこだった。「本文中の言葉を使って書く」という条件②が、その照合にあたる。落ちたのは35.1%である。
指導の側の言葉も、もう一度見ておきたい。国語も英語も、総括は「意識させることが重要」で終わっている。
意識の問題として立てると、対策は「理由も書きましょう」という声かけになる。ところが43.6%の生徒は、すでに意見を書いている。書く気はある。止まったのは、どれを根拠として使えるかを本文から選ぶところだった。
選ぶ手続きは、意識ではなく手順である。どの一文を引くか。引いた一文と自分の考えをどう並べるか。並べたときに飛躍がないか。この3つは、教室で分解して練習できる。「考えと根拠を区別して表現する」という総括の言葉は、そこまで下ろさないと動かない。
測る側にも動きがある。令和9年度から全教科がコンピュータ上の試験になる。文部科学省は生成AIガイドラインの策定・改定と、生成AIパイロット校による好事例の普及も掲げている。
採点と返却は速くなる。ただし速く返ってくるのは正答率であって、根拠の質ではない。今回の分析でいちばん読む価値があったのは、平均正答率ではなく「条件①は満たしているが②を満たしていないもの 43.6%」という1行だった。この粒度の情報が、どれだけ教室まで届くか。
平均値ではなく分布と誤答の内訳から読むという手つきは、統計リテラシー入門(このサイトの記事)で扱った公的統計の読み方と同じである。
AIの出力を疑わずに受け取る構造は「AIに聞きました」の落とし穴(このサイトの記事)で、思考を外部化した先で起きることは認知的負債(このサイトの記事)で扱った。今回の43.6%は、その話が中学3年生の答案用紙の上に現れたものである。
意見は出ている。その先が続かない。
この記事で使った統計の出典
- 1文部科学省・国立教育政策研究所 令和8年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)のポイント(令和8年8月) 出典を開く
参考書籍
- 『教育は何を評価してきたのか (岩波新書 新赤版 1829)』(外部サイト、新しいタブで開きます)(本田由紀、岩波新書、2020年3月)。日本の教育が「能力」「資質」「態度」という軸で何を測ろうとしてきたかを、教育社会学の側からたどった一冊。測る対象が変われば教室で起きることも変わる、という本稿の論点をさかのぼって考えるのに使える。
参考文献
令和8年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)のポイント — 文部科学省・国立教育政策研究所 (2026). 国立教育政策研究所
令和8年度全国学力・学習状況調査 報告書・調査結果資料 — 国立教育政策研究所 教育課程研究センター (2026). 国立教育政策研究所
全国学力・学習状況調査 — 国立教育政策研究所 (2026). 国立教育政策研究所
全国学力テスト 思考力や表現力に課題 “指導充実を”文科省 — NHK NEWS WEB (2026). 日本放送協会


