ざっくり言うと
- 2024年の男女賃金格差は過去最小の75.8(男性=100)だが、OECD38カ国中ワースト3位の水準にある
- 年齢・学歴・勤続年数・職種・役職を統制しても約24.3%の年収差が残り、同一労働同一賃金では解消できない
- 格差の根源は雇用形態・勤続年数・管理職比率の男女差であり、その背後にキャリア中断を前提とした日本型雇用慣行がある
何が起きているのか
日本の男女賃金格差の現状と国際的な位置づけ
75.8。
2024年の賃金構造基本統計調査で、一般労働者の月額賃金を男性100とした場合の女性の水準である。男性の月額賃金が36万3,100円に対し、女性は27万5,300円。その差額は月に8万7,800円、年間で100万円を超える。1976年の調査開始以来、この数値は過去最小を記録した。
「過去最小」という表現は、進歩の印象を与える。だが国際的に見れば、この水準はOECD加盟38カ国中、韓国・イスラエルに次ぐワースト3位にあたる。OECD基準(フルタイム労働者の賃金中央値ベース)での日本の男女賃金格差は約21.3%であり、OECD平均の約11%に対してほぼ2倍の開きがある(賃金構造基本統計調査の平均賃金ベースでは24.2%)。
粗賃金格差 vs 条件統制後の格差(5カ国比較)
※「説明不能」= 年齢・学歴・勤続年数・職種・企業規模・役職等を統制した後に残る格差
格差を構成する要因
雇用形態(正規/非正規)
女性の非正規率54% vs 男性22%
勤続年数
女性平均10.0年 vs 男性13.8年
職階・管理職比率
女性管理職比率14.6%(G7最低水準)
職種分離
高賃金の専門職・技術職で男性比率が高い
説明できない格差
同一条件でも約24.3%の年収差が残る
年齢別 男女月額賃金(一般労働者・2024年)
20-24歳
格差 2%
30-34歳
格差 14%
40-44歳
格差 26%
50-54歳
格差 36%
※20代前半ではほぼ同水準だが、年齢とともに格差が拡大し50代で最大となる
さらに深刻なのは、「条件を揃えても消えない格差」の存在である。リクルートワークス研究所のGlobal Career Survey(2024年)によれば、年齢、学歴、勤続年数、週労働時間、雇用契約、職種、企業規模、業種、役職——これらの属性をすべて統制した後でも、日本の男女間には約24.3%の年収差が残る。同じ調査でドイツと米国では同条件下の格差がわずか約2%まで縮小するのに対し、日本ではほとんど縮小しない。
「同じ仕事をすれば同じ賃金になる」——この素朴な信念では、日本の男女賃金格差は説明できない。
背景と文脈
格差を生み出す構造的要因の分析
格差の3つの構造的要因
男女賃金格差を生み出す要因は、大きく3つに分解できる。
第一に、雇用形態の差異である。 日本の女性労働者の約54%が非正規雇用であるのに対し、男性は約22%にとどまる。正規雇用者の賃金は非正規の約1.5倍であり、この雇用形態の偏りだけで相当な賃金差が生じる。2024年は22年ぶりに女性の正社員数が非正規を上回ったが、非正規比率の男女差は依然として30ポイント以上ある。
第二に、勤続年数の差異である。 厚生労働省の統計によれば、一般労働者の平均勤続年数は男性13.8年に対して女性10.0年。日本の賃金体系は年功序列型が根強く残り、勤続年数が賃金に直結する。出産・育児によるキャリア中断は、女性の勤続年数を短縮させ、結果として賃金格差を拡大させる。
第三に、管理職比率の差異である。 管理職に占める女性の比率は14.6%で、G7諸国の中で最低水準にある。部長級の男女賃金差は月額8万6,500円、課長級で6万4,300円。管理職になれるかどうかが賃金を大きく左右するが、そのパイプラインに女性が入りにくい構造がある。
L字カーブという現実
女性の労働力率を年齢別に見ると、かつての「M字カーブ」——出産期に大きく落ち込む形状——は解消に向かっている。2024年には30〜34歳の女性労働力率が78.6%に達した。
だが、別の問題が浮上している。正規雇用率のL字カーブである。女性の正規雇用比率は25〜29歳の59.1%をピークに、その後は下降の一途をたどる。労働市場には戻るが、非正規として。これがL字の形状をなす。M字カーブの解消は、「女性が働くようになった」ことを意味するが、「同じ条件で働けるようになった」ことは意味しない。
統計的差別の再生産
シカゴ大学のRalph Lewis記念特別社会学教授である山口一男の研究は、日本の男女賃金格差の核心に統計的差別があることを示してきた。「女性は離職しやすい」という集団的傾向を個人に適用し、採用時の配置、昇進、研修機会の付与において男女を異なる軌道に乗せる。この慣行が職業分離を固定化し、結果として賃金格差を再生産する。
管理職割合の男女差は、能力差からはほとんど説明がつかない。山口の分析では、性別、子供の年齢、長時間残業が可能かどうか——これらが管理職登用の実質的な決定要因となっている。言い換えれば、「長時間働けること」を暗黙の前提とした昇進構造が、育児を担う側(多くの場合、女性)を構造的に排除している。
構造を読む
同一労働同一賃金では解消できない構造の本質
オアハカ=ブラインダー分解という統計的手法がある。賃金格差を「属性の違いで説明できる部分」と「説明できない部分」に分解する方法である。
この手法を日本に適用すると、独特の結果が現れる。ドイツや米国では、属性(学歴・勤続年数・職種等)を統制すると格差の大部分が消える。つまり「属性の違い」が格差の主因であり、同一条件での差別的処遇は小さい。だが日本では、属性を統制してもなお24.3%もの年収差が残る。
これは何を意味するか。日本の男女賃金格差は、「目に見える属性の違い」と「目に見えない処遇の違い」が二重に作用しているということである。
目に見える層——非正規雇用率の差、勤続年数の差、管理職比率の差——はそれ自体が巨大な格差要因であるが、これらを揃えてもなお消えない格差がある。それは、同じ職場の同じ役職であっても、評価・昇給・賞与において男女に異なる基準が適用されている可能性を示唆する。
「同一労働同一賃金」は必要条件であっても、十分条件ではない。 なぜなら、問題の本質は「同一労働」に至るまでの経路そのものが、性別によって異なることにあるからである。配置転換の機会、基幹的業務への登用、研修投資——キャリアの入り口から分岐が始まっている。
2022年7月、女性活躍推進法の改正により、常時雇用301人以上の企業に男女間賃金差異の公表が義務づけられた。2026年4月からはこの対象が101人以上に拡大される。厚生労働省のガイドラインは、格差の要因分解と改善アクションの実施を求めている。
情報公表は、問題を可視化するための第一歩としては有効である。だが、可視化された数字が組織の行動変容につながるかどうかは別の問題である。RIETI(経済産業研究所)の研究が示すように、日本の男女賃金格差には「ガラスの天井」(上位職への障壁)と「べたつく床」(下位職からの脱出困難)が同時に存在する。この構造的な二重拘束を、情報公表だけで解除できるとは考えにくい。
必要なのは、「なぜ女性の勤続年数が短いのか」「なぜ女性が非正規に偏るのか」「なぜ管理職に女性が少ないのか」という問いに対する、制度設計レベルでの回答である。賃金表の修正ではなく、キャリアパスの構造そのものを問い直すことが、この格差を崩すための出発点となる。
関連コラム
参考文献
令和6年 賃金構造基本統計調査の概況 — 厚生労働省. 厚生労働省
賃金の男女格差が1976年以降で最も縮小 — 労働政策研究・研修機構(JILPT). ビジネス・レーバー・トレンド 2025年5月号
管理職でも埋まらない男女の年収差 — 5カ国比較で見る日本の見えない課題 — リクルートワークス研究所. リクルートワークス研究所
男女間の賃金格差解消のためのガイドライン — 厚生労働省 雇用環境・均等局. 厚生労働省
男女間賃金格差の国際比較と日本における要因分析 — 鶴岡将司・山本高大・桃田翔平ほか. 財務総合政策研究所
Explaining the persistence of the gender wage gap in Japan: The 'glass ceiling' and the 'sticky floor' — Kato, Takao; Ogawa, Hiromasa; Owan, Hideo. CEPR / VoxEU
Japan's Gender Gap — Yamaguchi, Kazuo. IMF Finance & Development
