法務省が公表している相続土地国庫帰属制度の統計で、令和8年7月31日までの申請5,863件のうち3,008件が国庫に帰属した。却下85件と不承認96件を合わせた181件に対し、取り下げは1,102件ある。そのうち392件は却下・不承認になると分かったための取り下げである。制度の断りが、どの形で数字に出ているかを読む。
ざっくり言うと
- 令和8年7月31日までの申請5,863件のうち、3,008件が国庫に帰属した
- 却下85件と不承認96件を合わせた181件に対し、取り下げは1,102件ある
- 取り下げのうち392件は、却下・不承認になると分かったためのものである
却下 83件 と不承認 93件 を足した 176件 に、却下・不承認と分かって取り下げた 375件 を加えると 551件 になる。差し引きの 1,574件 は、公表されている 4 つの欄のいずれにも計上されていない分である。数値はいずれも速報値。
何が起きているのか
申請5,863件のうち帰属3,008件。断りは181件、取り下げは1,102件である
法務省は相続土地国庫帰属制度の運用状況を更新している。令和8年7月31日現在の速報値である。
制度は令和5年4月27日に始まった。3年3か月で、申請は5,863件、国庫に帰属したのは3,008件である。
断られた件数を見ると、却下が85件、不承認が96件。合わせて181件で、申請の3.1%にあたる。ほとんど断られていないように見える。
ただし、取り下げが1,102件ある。理由の内訳も公表されている。有効活用の見込みが生じたが571件、却下・不承認であることが判明したが392件、その他が139件である。
後者の392件を181件に足すと573件になる。 制度の断りは、却下という形ではなく取り下げという形で数字に出ている。
申請の内訳は田・畑が2,278件、宅地が2,040件、山林が893件、その他が652件。帰属したほうは宅地が1,115件、農用地が964件、森林が199件、その他が730件で、申請時と帰属時で区分の呼び名が違う。審査の途中のものもあるため、種目ごとの通過率をこの二つの割り算では出せない。
背景と文脈
却下事由と不承認事由は各5類型で、費用は手数料14,000円と負担金20万円が基本
入口と出口が同時に用意された
この制度は、所有者不明土地を増やさないための2本立ての片方である。もう片方が、令和6年4月1日に始まった相続登記の申請義務化である。
義務化のほうは、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記を申請することを求める。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になる。施行前に開始した相続にも遡って適用され、その場合の期限は令和9年3月31日である。
登記させるのが義務化、手放せるようにするのが国庫帰属。 持ち主が分からなくなる前に、名前を書かせるか、国に渡させるか。 入口と出口の両方を用意した形になっている。
条文が並べる却下事由5つと不承認事由5つ
出口のほうには条件がある。却下事由は5つで、建物がある土地、担保権や使用収益権が設定されている土地、他人の利用が予定されている土地、土壌汚染されている土地、境界が明らかでない土地や所有権の存否・範囲に争いがある土地。これらは申請そのものができない。
不承認事由も5つある。管理に過分な費用・労力がかかる崖がある土地、管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地、除去が必要な有体物が地下にある土地、隣接所有者との争訟によらなければ管理・処分ができない土地、その他通常の管理・処分に過分な費用・労力がかかる土地である。
条文の並びと、実際に何で引っかかっているかは別である。
却下85件を止めたのは、土地ではなく書類だった
却下の理由で最も多いのは、添付書類の提出がなかったが37件である。続いて現に通路の用に供されている土地が22件、境界が明らかでない土地が23件、申請の権限を有しない者の申請が10件、現に水道用地・用悪水路・ため池の用に供されている土地が1件。 法律が真っ先に挙げている「建物の存する土地」は4件しかない。
1つの事件に複数の理由が付くため、内訳の合計は97件で85件を超える。それでも順位は動かない。書類の不備37件と申請人の資格10件を合わせると47件で、理由の延べ数の半分を占める。
建物があると分かっている人は、そもそも申請書を出していない。 条文が想定した「引き取れない土地」より、手続きの入口で止まる件数のほうが多い。
不承認96件は土地の中身で決まる
不承認のほうは条文どおり土地の性質で決まる(こちらも1件に複数の理由が付き、合計は124件になる)。最多が通常の管理・処分を阻害する工作物、車両、樹木などの有体物が地上にある土地で46件、次が国による追加の整備が必要な森林で37件。続いて災害の危険により措置が必要な土地11件、国が管理費用以外の金銭債務を負担する土地10件、勾配30度以上かつ高さ5メートル以上の崖がある土地7件、所有権に基づく使用収益が現に妨害されている土地6件、民法上の通行権利が現に妨げられている土地4件、除去しなければ管理・処分できない有体物が地下にある土地3件である。
物が置いてある土地と、手入れの要る山。この2つで83件、理由の延べ数の3分の2にあたる。
手放すのに審査料と20万円がかかる
費用もかかる。審査手数料は土地1筆あたり14,000円。承認された場合は、10年分の管理費用の額に相当する負担金を納付する必要があり、基本は20万円で、土地の種目と所在する地域によっては面積単位で算定される。
手放すのに、審査料と20万円を払う。それでも3年3か月で5,863件の申請があった。
構造を読む
却下は書類不備が最多。所有者不明土地の20.1%も探せば0.41%まで下がる
断りは却下ではなく取り下げの形で出る
取り下げ1,102件のうち392件は、審査の途中で通らないと分かって引っ込めたものである。却下85件と不承認96件を足した181件に、この392件を加えると573件になる。
制度の断りは、却下という欄ではなく取り下げという欄に集まっている。 却下・不承認だけを見れば3.1%だが、実質の不通過は9.8%になる。
境界が明らかでない土地の23件は、相続した山林は境界がわからない(このサイトの記事)で扱った、測量からやり直さなければ土俵に上がれない土地にあたる。地上に有体物がある土地の46件は、空き家900万戸の構造(このサイトの記事)で見たとおり、使われなくなった土地に物が残る話である。 手放したい理由がそのまま、引き取ってもらえない理由になっている。
取り下げの半分以上は、断りとは逆方向の理由
一方の571件は逆を向いている。「有効活用の見込みが生じた」ために取り下げた。法務省は例として、自治体や国の機関による活用が決まった、隣接地の所有者から引き受けの申出があった、農業委員会の調整で農地として使われる見込みになった、の3つを挙げている。
国に渡す手続きを進める過程で、引き取り手のほうが先に現れている。 国庫帰属の申請が、手放さない結論に着地した件数のほうが、審査で断られた件数より多い。 制度に申し込むこと自体が、土地の状態を調べ直し、周りに知らせる機会になっている。
差し引き1,572件はどの欄にも入っていない
帰属も却下も不承認も取り下げもされていない件数が1,572件ある。申請の26.8%にあたる。審査に時間がかかっているものと見られるが、その内訳は公表されていない。
制度があることと使えることが別なのは、「政策が届かない層」の共通構造(このサイトの記事)で扱った捕捉率の話と同じ形をしている。用意された側の数え方では、断った件数しか出てこない。届かなかった件数は、別の欄を見ないと出てこない。
所有者不明土地の20.1%は、探せば0.41%になる
規模の見方も要る。国土交通省が公表している地籍調査の集計では、平成28年度に地籍調査を実施した1,130地区・622,608筆のうち、登記簿のみでは所在が分からなかったのは125,059筆で20.1%だった。
ただし、この20.1%は最終的な数字ではない。戸籍や住民票で追跡した結果、最後まで所在が分からなかったのは2,526筆で0.41%である。 「所有者不明土地」の大半は、探せば分かる土地である。 分からないのではなく、探すのに手間と時間がかかる。なお、この集計は平成28年度の地籍調査を対象としたもので、これに代わる全国規模の実測は公表されていない。
相続の未登記は66.7%、住所変更の未登記は32.4%
所在が分からなかった125,059筆の理由も内訳がある。相続による所有権移転の未登記が83,371筆で66.7%、住所変更の未登記が40,496筆で32.4%、売買・交換等による所有権移転の未登記が1,192筆で1.0%である。
相続の未登記が3分の2を占める。相続登記の義務化が対策として置かれた根拠がここにある。
ただし 住所変更の未登記が3割ある。 これは相続とは別の話で、引っ越して登記の住所を直していないだけの土地である。相続登記の義務化はここには効かない。
この穴には別の義務が当てられた。住所等変更登記の申請義務化が令和8年4月1日に施行され、氏名・名称・住所に変更があったときは変更日から2年以内の申請が義務になった。怠ると5万円以下の過料の対象で、施行前の変更も対象になり、期限は令和10年3月31日である。
相続登記は3年以内で10万円以下、住所変更は2年以内で5万円以下。 同じ所有者不明土地に向けた義務が、期限も過料も別のまま2本走っている。
林地だけ形が違う
地帯別に見ると、林地が突出している。登記簿のみで所在不明の割合は、都市部(DID)14.5%、宅地17.4%、農地16.9%に対し、林地は25.6%。追跡後も林地は0.57%で、都市部0.38%、農地0.34%、宅地0.14%を上回る。
林地は宅地の4.1倍である。 面積が大きく、境界が現地で分からず、代替わりのたびに持ち分が細るのが山林の性質で、それが所在不明の率にそのまま出ている。 国庫帰属の不承認で「国による追加の整備が必要な森林」が37件と2番目に多いのも、同じ性質の裏側にあたる。
桁が2つ違う
この規模と、国庫帰属の5,863件を並べると距離が見える。地籍調査が1年度に見たのは全国のごく一部、622,608筆である。そこだけで相続の未登記が83,371筆出ている。国庫帰属のほうは全国を対象に3年3か月で5,863件。数える単位が筆と件で違い、1件の申請に複数の筆が含まれることもあるので直接は比べられないが、桁が2つ違う。出口はまだ細い。
手放す側の負担と、引き取る側の管理費は同じ金額の裏表
出口を太くするなら、負担金を下げるか、要件を緩めるかになる。ただし要件を緩めれば、国が引き取った土地の管理費が増える。負担金は10年分の管理費用に相当する額として設計されているので、下げた分は誰かが負担する。制度の設計上、 手放す側の負担と、引き取る側の管理費は、同じ金額の裏表である。
負担金を下げれば申請は増える。増えた分の管理費は国が持つ。持たせないなら要件を厳しくするしかなく、そうすると取り下げがまた増える。いま数字に出ているのは、その天秤が3年3か月で3,008件のところに置かれている、ということである。
この記事で使った統計の出典
- 1法務省 相続土地国庫帰属制度の統計(令和8年7月31日現在(速報値)) 出典を開く
- 2法務省 相続土地国庫帰属制度の概要(2026年) 出典を開く
- 3法務省 相続土地国庫帰属制度リーフレット(令和5年2月) 出典を開く
- 4国土交通省 所有者不明土地の実態把握の状況について(平成28年度地籍調査) 出典を開く
- 5法務省 住所等変更登記の義務化について(令和8年4月1日施行) 出典を開く
参考書籍
- 『人口減少時代の土地問題 - 「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ』(外部サイト、新しいタブで開きます)(吉原祥子、中央公論新社)。相続登記の義務化も国庫帰属制度も始まる前に、土地の所有者が分からなくなる仕組みを制度側から書いた一冊。いまの2本立てが何を直そうとしているのかを、手前から確認できる。
参考文献
相続土地国庫帰属制度の統計 — 法務省 民事局 (2026). 法務省
相続土地国庫帰属制度の概要 — 法務省 民事局 (2026). 法務省
相続登記の申請義務化について — 法務省 民事局 (2026). 法務省
住所等変更登記の義務化について — 法務省 民事局 (2026). 法務省
所有者不明土地の実態把握の状況について — 国土交通省 (2017). 国土交通省


