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一般社団法人 社会構想デザイン機構

労災認定を待つあいだ、遺族をつなぐ制度がない — 6か月超の未決が5年で倍の2,329件

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ヨコタナオヤ(横田直也)
約6分で読めます

労災認定に「平均7年」という数字が報じられたが、これは個別の最悪事例で、国の運用目安は死亡・遺族補償で約4か月。ただし6か月を超える長期未決は2,329件と5年でほぼ倍増している。生きて働けなくなった被災者は健康保険の傷病手当金で認定までの空白を部分的に埋められるが、死亡した労働者の遺族にはつなぐ制度がない。認定を待つあいだの生活保障の非対称を読む。

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ざっくり言うと

  1. 「労災認定に平均7年」は個別事例の誤読で、国の運用目安は死亡・遺族補償で約4か月だが、6か月超の長期未決は2,329件と5年で倍増している
  2. 生きて働けなくなった被災者は健康保険の傷病手当金で認定までの空白を部分的に埋められるが、死亡した労働者の遺族にはつなぐ制度がない
  3. 焦点は認定の可否だけでなく、認定が下りるまでの空白を誰がどう支えるかという、生存被災者と遺族のあいだの非対称にある
労災を請求──認定までの空白──認定・給付
目安は死亡・遺族補償で約4か月。だが6か月超の長期未決が2,329件(2026年1月)、5年でほぼ倍。
生きて働けなくなった被災者
健康保険の傷病手当金で、空白を部分的に橋渡しできる(後に労災と認められれば返還する運用)
→ 空白を一部は埋められる
死亡した労働者の遺族
つなぐ制度がない。前払一時金は認定後、「仮渡金」は労災保険に存在せず、健保の給付は埋葬料の一時金のみ
→ 空白がそのまま生活困難に
制度は「認定後の給付」を精緻に設計するが、「認定までの空白」の想定は薄い。待つ時間が延びるほど、つなぐ制度のない遺族の空白が広がる。

労災保険は認定が下りてから給付する。認定までの空白を、生存している被災者は健康保険の傷病手当金で部分的に埋められるが、死亡した労働者の遺族には、その空白をつなぐ制度がない。過労死等の労災請求は令和2年度の2,835件から令和7年度の6,212件へ倍増する一方、労働基準監督官は5年で3.4%しか増えず、認定までの時間はむしろ延びている。

労災認定を待つ「空白」は、遺族にだけ非対称にのしかかる

何が起きているのか

「労災認定に平均7年」は個別事例の誤読。国の目安は約4か月だが、6か月超の長期未決は2,329件で5年で倍増。請求は倍増し監督官は微増にとどまる

「7年」は平均ではない

労災の認定に「7年」かかったという報道があった。だが、この数字は誤解を生む。報道された事案は、2018年に過労自殺で亡くなった労働者の遺族が、2019年に労災を申請し、行政の不支給決定と審査請求の棄却を経て2024年に提訴、2026年に東京地裁で労災と認められるまで、行政と司法をあわせて約7年を要した個別の最悪事例である。国が示す運用の目安は、死亡・遺族補償の請求で約4か月だ。「7年」は平均ではない。

6か月を超える未決が2,329件

ただし、目安を超えて長引く事案は確かに増えている。請求から6か月を過ぎても決まらない長期未決事案は、2,329件にのぼる。2021年の1,169件から5年でほぼ倍増し、2023年以降は2,000件を超えて高止まりしている。

請求は倍増し、監督官は3.4%しか増えていない

背景には請求の急増がある。過労死や過労自殺など「過労死等」の労災請求は、令和7年度で6,212件と、令和2年度の2,835件から2倍以上に増えた。精神障害に限っても、令和7年度の支給決定は1,082件、認定率28.2%である(認定率は決定件数に占める支給決定の割合で、請求件数に対する比率ではない)。一方で、審査にあたる労働基準監督官は3,122人、令和8年度の定員でみても3,145人と5年で3.4%増にとどまる。請求は倍増、担い手はわずかな増加。認定までの時間は、むしろ延びている。

増えているのは、精神障害の請求である

倍増の中身は偏っている。令和7年度の請求は、脳・心臓疾患が1,254件なのに対し、精神障害は4,958件で前年度から1,178件増えた。支給決定も、脳・心臓疾患が217件で前年度より24件減ったのに対し、精神障害は1,082件である。件数で見れば、いま労災の窓口に来ているのは、主に心の病である。

認定されるのは、長時間労働の事案とは限らない

そして、精神障害の労災は、時間の長さだけでは説明できない。支給決定を時間外労働の長さ別に並べると、最も多いのは「20時間未満」の57件で、次が「40時間以上60時間未満」の55件だった。発病に関わった出来事別では、「上司等からのパワーハラスメント」が222件で最多、次いで「顧客や取引先、施設利用者等からの著しい迷惑行為」と「セクシュアルハラスメント」が127件ずつ続く。時間を数えれば済む話ではないぶん、事実の確かめ方も重くなる。審査に時間がかかる理由は、件数の増加だけではない。

待たされているのは、誰か

業種にも偏りがある。精神障害の請求は「医療、福祉」が1,288件で最多、支給決定も292件で最も多い。そのうち社会保険・社会福祉・介護事業だけで706件・151件を占める。人手が足りない現場ほど請求が多く、その現場ほど、一人が抜けた穴を残った人が引き受ける。認定を待つ時間は、職場の側にも効いている。

背景と文脈

生きて働けなくなった被災者は健康保険の傷病手当金で空白を部分的に埋められるが、死亡した労働者の遺族には認定前をつなぐ制度がない

認定が下りてから、給付が始まる

問題は、認定までの時間そのものよりも、その「空白」をどう生きるかにある。労災保険は、認定が下りてから給付する仕組みだ。請求してから認定されるまでの空白の期間、被災者や遺族の生活は、労災保険では支えられない。

生きている被災者には、健康保険の橋がある

生きて働けなくなった被災者には、部分的な橋渡しがある。健康保険のだ。健康保険法は本来、仕事が原因の病気やけがを給付の対象から外している(第1条)。だが実務上、労災の請求中で認定がまだ下りていない場合、健康保険が労災かどうか確認中の扱いで傷病手当金を暫定的に支給し、後に労災と認められれば返還する運用がある。会計検査院の平成29年度決算検査報告が、平成26・27年度の実態としてこの運用を確認している。健康保険が業務災害を外す構造は変わっておらず、この橋渡しも続いているとみられる。完全ではないが、空白を一部は埋められる。

遺族には、その橋がない

だが、死亡した労働者の遺族には、その橋渡しがない。労災保険の遺族補償には前払一時金の制度がある。ただし法律の条文は「遺族補償年金を受ける権利を有する遺族に対し、その請求に基づき」支給すると書いている(第60条第1項)。年金を受ける権利は認定によって生じるので、これは認定が下りた後の制度だ。認定前に受け取れるものではない。金額は給付基礎日額の1,000日分を限度とし、権利は行使できる時から2年で時効にかかる。

自動車事故の自賠責保険には、認定を待たずに当座の金を受け取れる「仮渡金」という制度があるが、労災保険に同じ仕組みはない。労働者災害補償保険法の条文を通して検索しても、「仮渡金」の語は一度も出てこない。健康保険が遺族に給付するのは埋葬料の一時金のみで、継続的な所得保障ではない。認定を待つあいだ、遺族が頼れる公的なつなぎは、ほとんど残されていない。

構造を読む

制度は認定後の給付を精緻に設計するが、認定までの空白は想定が薄い。長期化がこの非対称を深める

同じ認定待ちで、空白の重さが違う

ここに非対称がある。生きて働けなくなった人は、健康保険の傷病手当金で認定までの空白を部分的に埋められる。だが、死亡した労働者の遺族には、その空白をつなぐ制度がない。認定を待つあいだ、遺族は生活保護に頼るか、自己負担で耐えるしかない。同じ労災の認定待ちでありながら、生存被災者と死亡遺族とで、空白の重さがまるで違う。

認定の後ろだけが、精緻に作られている

なぜこの非対称が生まれるのか。制度は、認定された後の給付を精緻に設計してきた。遺族補償年金も、前払一時金も、認定を前提に組み立てられている。だが、認定が下りるまでの空白は、制度の想定が薄い。労災保険という労働制度と、生活保護や健康保険という社会保障制度の、ちょうどはざまに、認定待ちの遺族が落ちている。用意された制度が対象に届かないまま数字だけが残る型は、「政策が届かない層」の共通構造(このサイトの記事)でも扱った。ここで落ちているのは、制度が届かないのではなく、届く前の時間に制度がない、という形である。

長期化が、非対称を深める

長期化が、この非対称を深める。目安の4か月で決まるなら空白は短い。だが6か月を超える未決が2,329件あり、5年で倍に増えている以上、空白はしばしば目安を大きく超える。待つ時間が延びるほど、つなぐ制度のない遺族の空白は広がる。認定までの時間の問題は、審査体制の問題でもある。監督官がわずかしか増えないまま請求が倍増すれば、一件あたりにかけられる時間は減り、決定は遅れる。

認定の可否と同じ重さで、問われてよい

労災の認定基準や、認定されるかどうかは、これまでも議論されてきた。だが、認定が下りるまでの空白をどう支えるかは、あまり語られてこなかった。精神障害の労災認定が過去最多を更新するなか(このサイトの記事)で、認定を待つあいだの生活、とりわけ死亡した労働者の遺族の空白を、誰がどうつなぐのか。認定の可否と同じ重さで、問われてよい。

この記事で使った統計の出典

  1. 1読売新聞(厚生労働省取材)(2026年1月末) 出典を開く
  2. 2厚生労働省 過労死等の労災補償状況(令和7年度) 出典を開く
  3. 3読売新聞(厚生労働省取材)(令和2年度→令和7年度) 出典を開く
  4. 4厚生労働省 過労死等の労災補償状況(令和7年度) 出典を開く
  5. 5厚生労働省 労働基準監督年報(令和6年度) 出典を開く
  6. 6読売新聞(厚生労働省取材)(令和8年度) 出典を開く

参考書籍

参考文献

令和7年度「過労死等の労災補償状況」厚生労働省 (2026). 厚生労働省 労働基準局

労働基準監督年報(令和6年)厚生労働省 (2025). 厚生労働省 労働基準局

平成29年度決算検査報告会計検査院 (2018). 会計検査院

労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)厚生労働省 (1947). e-Gov 法令検索

読んだ後に考えてみよう

  1. 労災の認定を待つあいだ、あなたの周りでは被災者や遺族の生活を何が支えているか
  2. 認定された後の給付だけを整えて、認定までの空白を制度が想定しないとき、誰が最も深く落ちるか
  3. 生きて働けなくなった人と、亡くなった労働者の遺族とで、認定待ちの空白の重さが違うことは、どう正されるべきか

この記事の用語

傷病手当金
健康保険の給付の一つで、病気やけがで働けず給与を受けられないときに、生活を支えるため支給される手当。労災の認定を待つあいだ、業務災害でも実務上は暫定的に支給し、後に労災と認められれば返還する運用がある。

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