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一般社団法人社会構想デザイン機構

「社会構想」を国家政策の言葉から取り戻す — ISVD の「社会構想デザイン」とデジタル庁「デジタル社会構想会議」の射程差

ヨコタナオヤ
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ISVD が掲げる「社会構想デザイン」と、デジタル庁が主催する「デジタル社会構想会議」は、名称の一部が重なるが主体・射程・方法のいずれも異なる。 本稿は両者の差異を整理し、「社会構想」を国家政策語彙からどう取り戻すかを検討する。

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ざっくり言うと

  1. デジタル庁「デジタル社会構想会議」はデジタル政策に射程を限定する有識者会議である。
  2. ISVD「社会構想デザイン」は社会全体の前提構造を対象とする、独立した非営利の研究・実践である。
  3. 「社会構想」という日本語が国家政策語彙として運用されると、民間・非営利の構想実践は語彙レベルで見えなくなる。

2026年5月22日、デジタル庁は第12回デジタル社会構想会議をオンライン開催した。次期「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の素案検討の場である。本会議が定期開催される過程で、「デジタル社会構想」は中央政府の固有名詞として運用が定着しつつある。

一方、一般社団法人 社会構想デザイン機構(ISVD)は2025年3月設立以来、「社会構想デザイン」を活動の中核概念として掲げてきた。コラム、ガイド、研究、データダッシュボードを通じて、福祉、労働、公共資産、情報的不正義など社会全体の前提構造を扱う独立の非営利機関である。

両者は名称の一部が重なる。しかし、主体・射程・方法のいずれも異なる。本稿では、その差異を整理し、「社会構想」という日本語をどう運用すべきかを検討する。

何が起きているのか

デジタル庁「デジタル社会構想会議」は、デジタル社会形成基本法に基づく重要施策の調査審議を行う有識者会議である。村井純座長のもと、自治体首長、産業界代表、IT 専門家、市民代表から構成される。年数回開催され、次期「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の素案策定が中心議題となる。

2026年5月22日の第12回会議では、宮崎県都城市長・池田氏、楽天グループ・三木谷氏、山口県知事・村岡氏から提出資料が提示された。議論は AI 人材育成、デジタル赤字、ガバメントクラウド、デジタル支援員、AI エージェント時代対応など、デジタル政策に関わる論点を中心とする。

会議の正式名称・所管法・想定読者を踏まえると、「デジタル社会構想会議」が扱う「社会構想」は、デジタル文脈に限定された政策ビジョンである。会議の目的は次期重点計画の素案を構成員で揉むこと、構成員限定資料として素案と意識調査が提示されること、最終的にはパブリックコメントを経て閣議決定される計画文書を生成することにある。

ISVD「社会構想デザイン」は、構造が異なる。設立趣意で「社会の前提そのものを問い直し、再設計する実践」と定義され、扱う領域はデジタル政策に限定されない。福祉、労働、教育、公共資産、感覚過敏、騒音被害、エネルギー、農業、情報的不正義など、社会の各レイヤーに横断的に介入する。意思決定の主体は法人内部の理事会と研究員であり、外部委員会の答申を待つ仕組みは存在しない。

背景と文脈

「社会構想」という日本語は、政府・産業・学術のいずれの語彙でも歴史的に使われてきた。明治期の社会改良運動、戦後の経済計画、1970年代の地域社会計画、1990年代の情報社会論、2000年代のソーシャル・デザイン論など、各時代の文脈で「社会構想」は異なる射程で運用されている。

国家政策レベルで「社会構想」が体系的に運用されたのは、デジタル社会形成基本法(令和3年法律第35号)の制定以降である。同法に基づき、デジタル庁が設置され、デジタル社会推進会議、デジタル社会構想会議、デジタル臨時行政調査会などの階層が整備された。「デジタル社会構想会議」は重点計画策定に関わる中核会議として機能する。

民間・非営利セクターでは、「社会構想」概念は別の系譜で運用されてきた。海外では Social Vision、Social Imagination、Civic Imagination といった概念が、Ezio Manzini の Design for Social Innovation や Roberto Mangabeira Unger の制度想像力論として理論化されてきた。日本国内でも、社会的企業、ソーシャル・ベンチャー、NPO セクターが「構想・設計・実装」のサイクルを実践してきた。

ISVD はこの民間・非営利系譜の延長線上に位置する。法人格は一般社団法人、活動領域はデジタル政策に限定されない、意思決定は内部完結する、出版物はオープンに公開される。中央政府の有識者会議とは、立てつけが根本的に異なる。

構造を読む

両者の射程差を、3つの軸で整理する。

主体(誰が構想しているか)。デジタル社会構想会議は政府主導の有識者会議である。構成員は政府が任命し、議論は所管法に基づく重点計画策定に従属する。会議で提示される構想は、最終的には閣議決定された政策文書として確定する。ISVD「社会構想デザイン」の主体は独立した法人組織である。誰が構想するかは法人の内部判断であり、外部からの任命を受けない。確定する成果物は政策文書ではなく、公開されたコラム、ガイド、研究、ダッシュボードである。

射程(何を構想しているか)。デジタル社会構想会議の射程は、所管法に基づきデジタル政策に限定される。AI、データガバナンス、ガバメントクラウド、デジタル支援員、自治体DX、デジタル人材育成などが中心論点となる。非デジタル領域は議論の対象外である。ISVD「社会構想デザイン」の射程は、社会全体の前提構造である。デジタル政策はその一部に過ぎず、福祉、労働、公共資産、情報的不正義、感覚過敏、騒音、農業、教育などが並列の論点となる。両者は同じ「社会構想」の語を使うが、扱う対象が異なる。

方法(どう構想しているか)。デジタル社会構想会議の方法は、有識者会議の標準手続きに従う。素案を構成員限定で揉み、パブリックコメントを経て閣議決定する。意思決定の最終権限は政府にある。ISVD「社会構想デザイン」の方法は、データ分析、構造可視化、文献調査、現場ヒアリング、ガイド執筆、ダッシュボード開発、SDI(社会構想デザイン指標)による事例評価などである。意思決定の最終権限は法人内部にあり、外部の承認を必要としない。

デジタル社会構想会議ISVD 社会構想デザイン
主体政府主導の有識者会議独立した一般社団法人
射程デジタル政策に限定社会全体の前提構造
方法パブリックコメント + 閣議決定公開コラム / ガイド / 研究 / SDI
ISVD「社会構想デザイン」とデジタル庁「デジタル社会構想会議」の 3 軸比較

3軸のいずれも、両者は重ならない。「社会構想」という日本語を共有しているが、それは語彙の偶然の一致であり、運用の重なりではない。

しかし、語彙の偶然の一致は意味の連想を生む。読者が「デジタル社会構想会議」のニュースを目にしたとき、ISVD「社会構想デザイン」と無意識に結びつけて読む可能性がある。この連想は、ISVD ブランドにとって機会と脅威の両方をもたらす。

機会としては、デジタル庁の会議に関心を持つ読者層に対して、ISVD の活動が射程の広い社会構想の実践として認識される可能性がある。脅威としては、「社会構想」が国家政策の固有名詞として運用が定着するにつれて、民間・非営利の構想実践が言語的に見えにくくなる可能性がある。

民間・非営利が「社会構想」を実践する側として可視であり続けるためには、語彙レベルでの差別化と継続的な発信が必要となる。ISVD はこの目的のため、本サイトのISVDについてページに両者の差別化ステートメントを明示し、デジタル社会構想会議のウォッチ記事を継続発行する方針である。

「社会構想」は政府の固有名詞ではない。社会全体の前提を問い直す行為であり、その主体は政府にも民間にも、個人にも組織にも存在しうる。ISVD は民間・非営利の側からこの実践を継続し、語彙が一方向に流れることに抗っていく。

関連リソース

参考文献

デジタル社会構想会議デジタル庁 (2026). デジタル庁公式サイト

第12回デジタル社会構想会議デジタル庁 (2026). デジタル庁公式サイト

デジタル社会形成基本法(令和3年法律第35号)内閣官房 (2021). e-Gov 法令検索

ISVDについて — Mission, Vision, Values一般社団法人 社会構想デザイン機構 (2025). ISVD 公式サイト

Design, When Everybody Designs: An Introduction to Design for Social InnovationEzio Manzini (2015). MIT Press

参考書籍

エツィオ・マンズィーニ著、安西洋之・八重樫文訳『『日々の政治 ソーシャルイノベーションをもたらすデザイン文化』』ビー・エヌ・エヌ新社、2020年。プロジェクト中心の民主主義として、日常生活の場から社会全体を構想・再設計する実践を理論化した著作。ISVD「社会構想デザイン」が依拠する民間・非営利の系譜を理解するための基礎文献。

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