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一般社団法人社会構想デザイン機構

「ふるさと住民1,000万人」の危うさ : 数値目標はEBPMたりうるか

ヨコタナオヤ
約17分で読めます

2025年6月閣議決定の「地方創生2.0基本構想」は、ふるさと住民登録制度を通じて10年間で関係人口1,000万人・延べ1億人を目指すと数値目標を掲げた。だが1,000万人の根拠は基本構想本文・概要・施策集のいずれにも明示されておらず、地方創生1.0(2014-2024)の包括的効果検証も行われていない。本稿はこの数値目標自体の妥当性をEBPM(証拠に基づく政策立案)の枠組みで批評し、「関係人口インフレ」と「成功事例集依存」を1.0から踏襲するリスクを構造的に分析する。

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ざっくり言うと

  1. 政府が掲げた「10年間で1,000万人」の数値根拠は、基本構想本文・概要・施策集および新しい地方経済・生活環境創生会議の公開資料のいずれにも明示されていない。一方、国交省推計の広義の関係人口は既に約2,263万人(18歳以上の約22%)に達しており、母集団の取り方次第で目標は既達にも未達にもなる
  2. 地方創生1.0の最重要KPIだった「2027年度における東京圏転入・転出均衡」は2024年に転入超過135,843人で11年連続未達となっているが、政府は1.0期の包括的効果検証を実施しないまま2.0を始動した。日本総研は基本構想に示された反省を「反省点の列挙にとどまり、なぜ施策が機能しなかったかの構造分析が欠けている」と指摘している
  3. EBPMはKPI管理と構造的に異なる。RIETIの整理によれば、EBPMの決定的要件は「その政策がなかりせば、どのようにその指標が推移したか」という反実仮想の考え方であり、対照群データを伴う比較設計が必須である。1,000万人目標はこの反実仮想を欠いたまま登録者数増加を政策効果と同一視する構造になっている

何が起きているのか

地方創生2.0が掲げた関係人口1,000万人目標の算出根拠は公開資料にない。国交省広義推計は既に2,263万人であり母集団の関係も不明

2025年6月13日、内閣官房 新しい地方経済・生活環境創生本部 の策定により 地方創生2.0基本構想 が閣議決定された。基本構想はふるさと住民登録制度を中核に据え、10年間で実人数1,000万人、延べでは1億人の関係人口創出を数値目標として明示した。ふるさと住民登録制度 は、居住地以外で継続的に関わる自治体に対し、住民がスマートフォンアプリで登録を申請し、自治体が登録証を発行する仕組みである。総務省は 2026年3月 にモデル事業の対象自治体募集を開始した。

本稿の主題は、この「1,000万人」という数字そのものである。地方創生2.0の方向性や全体像については姉妹コラム 「地方創生2.0関係人口1,000万人の構造分析」 で扱った。本稿は同じテーマを角度を変え、数値目標がそもそも (証拠に基づく政策立案)の要件を満たすかという観点から批評する。

問題の核心国土交通省の試算では「関係人口」は既に約2,263万人。どの定義を採用するかで1,000万人目標の達成は自明になる。
「関係人口」の定義曖昧性:誰が含まれ、誰が含まれないのか

数値の根拠を探すと、奇妙な事実に行き当たる。1,000万人という数字は基本構想本文にも、概要にも、施策集にも記載されているが、その算出根拠の記述はどこにもない。基本構想の議論の場である「新しい地方経済・生活環境創生会議」(座長 増田寛也 氏)の公開議事録を辿っても、「実人数×平均10自治体登録で延べ1億人」という想定は記述されているが、なぜ実人数が1,000万人なのかについての算出過程は確認できない。メディア報道の初出は 日経 2025年5月31日 の原案報道で、ここでも「10年で1,000万人」が既に登場しており、議論経緯は不明である。

数字の根拠が公開資料に明示されていないこと自体は、それだけで政策上の瑕疵とはならない。だが、ここに「広義の関係人口」と呼べるもう一つの数字を並べると、問題の輪郭が見えてくる。国土交通省「地域との関わりについてのアンケート」2024年推計では関係人口は約2,263万人、18歳以上の約22%に達する。訪問系約1,884万人、非訪問系約379万人で、最多類型は「趣味・消費型」、つまり旅行で訪れる層である。

国交省の広義推計2,263万人は自己申告ベースで関係人口の実態を捉えようとした数値であり、政府目標1,000万人はふるさと住民登録という制度的プロキシで関係人口を測定する数値である。両者は母集団が異なり、本来は単純比較できない。だが基本構想本文・概要・施策集には、この差分の説明がない。広義2,263万人がいるのに登録1,000万人を新たに作る必然性、そして登録者数が関係の実態と相関するという仮説の検証は、政策文書のどこにも記述されていない。

背景と文脈

東京圏転入超過は2024年に135,843人超過で11年連続未達。政府は1.0の効果検証なしに2.0を始動し、関係人口の定義も曖昧なままである

地方創生1.0の包括的効果検証の不在

数値目標の妥当性を問う前に、「そもそも前任の地方創生1.0で何が起きたのか」を確認する必要がある。まち・ひと・しごと創生法 に基づき2014年12月に閣議決定された第1期総合戦略から、第2期総合戦略(2020-2024年度)まで、累計約 1.5兆円 の予算が投入された10年だった。

その10年で最重要KPIに位置づけられたのが、「東京圏と地方の転入・転出均衡」である。当初目標は2020年だったが達成困難により2027年度に延長された。その2027年度を前にした 2024年の東京圏転入超過は135,843人、前年比+9,328人と拡大している。外国人を含む集計が始まった2014年以来11年連続の転入超過、日本人のみの集計では29年連続の東京圏一極集中である。最重要KPIは構造的に未達のまま、2.0の時代に入った。

地方創生2.0基本構想は、1.0に対する4つの反省を明記している。第一に「子育て支援や移住促進などが中心となり、地方公共団体間での人口の奪い合いにつながった」、第二に「若者や女性にとって魅力的で、働きやすく、暮らしやすい地域づくりに向けた取組が十分になされなかった」、第三に「出生率の地域比較が注目されたが、各地の出生数の大幅な減少に対して、より目を向けるべきだった」、第四に「地方公共団体が戦略や企画の立案の大部分を外部に委託し、当事者意識を持って主体的に取り組まなかった事例がある」。

ここで重要なのは、これらの反省点が「列挙」にとどまり、なぜ起きたのかの構造分析を伴っていない点である。日本総研の藤山光雄 氏は、「政府が地方創生1.0期の包括的な効果検証を実施していない」「基本構想で示された反省は反省点の列挙にとどまり、なぜ施策が機能しなかったかの構造分析が欠けている」と明示的に指摘した。SOMPOインスティチュート・プラス も2024年8月のレポートで、「各自治体がそれぞれに人口増加を目指してきたが、成果は『社会増』にとどまっており、『人口の奪い合い』になっている」と整理している。北海道の事例では、札幌市以外の自治体が札幌市に1万人以上転出超過する一方、東京圏への転出超過は3千人程度であった。地方間の人口移動が東京圏への流出を遥かに上回るという、政策効果と関係なく地理的に進行する現象が起きていたのである。

KPIそのものの運用にも課題がある。国立国会図書館の調査 によれば、2019年5月の政府検証では1.0の4つの基本目標のうち①地方の仕事創出と④暮らしの安心・地域連携は「おおむね目標達成に向けて施策が進展」とされた一方、②地方への新しい人の流れ、③若い世代の希望実現については「効果が十分に発現していないKPIあり」と評価された。自治体側でも、KPIの運用は安定していない。自治体問題研究所の論考 は、第1期総合戦略のKPIが基本目標①〜④に階層的に設定されていたが、第2期では「結婚、妊娠、子供・子育てに温かい社会の実現に向かっていると考える人の割合」と「地方と東京圏との転入・転出を均衡」へと収斂する形で大幅な見直しが行われたと指摘する。市民系メディアでは「観光客数→空き家活用件数→移住者数」と達成率に応じて目標が入れ替わる現象が指摘されており、KPIの当初設定と実態の乖離は地方創生1.0の通底課題となっていた。

関係人口の定義問題と1,000万人の母集団

関係人口という概念自体は、小田切徳美 氏(明治大学)の「特定の地域に継続的に多様な形で関わる人々」という定義に始まり、田中輝美 氏の著書 『関係人口をつくるー定住でも交流でもないローカルイノベーション』(木楽舎、2017年)で社会的に普及した。総務省は「移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域や地域の人々と多様に関わる者」と定義しており、関係の濃淡や継続性に応じてさまざまなグラデーションが想定されている。

ここで定義の振れ幅が問題になる。広義に取れば、SNSで地域アカウントをフォローする層、ふるさと納税の寄付者、観光で複数回訪れる層、二地域居住者、地域おこし協力隊の出身者など、極めて広い範囲が関係人口に含まれうる。狭義に取れば、地域住民との人格的な関係性を伴い、地域社会の意思決定や経済活動に何らかの形で参画する層に限られる。国交省2,263万人は前者に近く、政府目標1,000万人は後者を制度的に可視化する試みである。

指標数値根拠性格
国交省推計(広義)約2,263万人(18歳以上の約22%)自己申告アンケート既存の関係の実態
政府目標(登録ベース)10年で1,000万人ふるさと住民登録制度的プロキシ
想定延べ数10年で1億人実人数×平均10自治体計算上の延べ

この表で見えるのは、3つの数字が「同じ関係人口」という言葉でくくられているにもかかわらず、性格が全く違うことである。実態指標と制度指標の混在は、政策の進捗を「実人数1,000万人達成」と報じることで「関係人口政策が成功した」という印象を与える設計になっており、登録者数増加が関係の質的拡大と同一視されるリスクを内包する。

自治体側で起きていること : GLOCOM 473自治体調査

数値目標の妥当性を測るもう一つの視点は、政策を実装する自治体側の認識である。国際大学GLOCOM の伊藤将人氏が2025年7月に実施した全国自治体調査は、この点で示唆に富む。1,741市区町村中473自治体(回収率32.2%) を対象に、ふるさと住民登録制度への評価を尋ねた結果は次の通りである。

評価自治体数
評価する/どちらかといえば評価する313
評価しない/どちらかといえば評価しない145
中立・保留147

肯定が多数派ではあるものの、否定 145自治体 という規模は無視できない。GLOCOMの分析によれば、否定派の懸念は5つに分類される。第一に「制度設計・運用への要望」(説明不足、事務負担、柔軟性欠如)、第二に「財源措置・インセンティブの不足」、第三に「地域間競争と不平等の拡大」(都市部・人気自治体への登録集中)、第四に「制度そのものへの賛否」(「形式的になりそう」「手間の割に効果は薄い」)、第五に「政府からの説明・支援の要請」である。

さらに注目すべきは、既に関係人口促進の取り組みを実施している 310自治体 のうち、取り組みの成果について「肯定的」と回答したのは 15件のみ で、「中立・保留的」が110件に達している点である。既存の関係人口施策ですら成果実感が乏しい状態で、新たに1,000万人の登録目標を制度として被せる構造になっている。

自治体側の構造的批判を最も明確に表明したのは、島根県の丸山達也知事 である。2025年6月11日の定例会見 で、丸山知事は「我々が解決したいと思っていることとかけ離れた『おとぎ話』みたいな話をされても」「関係人口が定住人口につながらなければ意味を感じない」「緩い空気みたいなふわふわした人口を追いかけることは理解しがたい」「われわれが直面しているのは住む人、働く人が減り、離島の航路や路線バスが減便していくことにどう取り組むかだ」「怒りじゃなくて悲しみを覚える」と発言した。中山間地域・離島を抱える県の知事による、政策設計と現場感覚の乖離を直接表明した発言として注目に値する。

姉妹コラム「地方公務員の組織衰退」 で論じたように、地方の現場では行政事務を担う人員自体が縮小している。1,000万人の登録を捌き、地域との接続を実装する自治体側のキャパシティと、目標の規模が整合しているかという問いも、基本構想は正面から扱っていない。

構造を読む

EBPMは反実仮想と対照群データが必須だが1,000万人目標はこれらを欠く。丸山知事「おとぎ話」批判・GLOCOM否定145件が自治体の違和感を示す

EBPMとKPI管理は構造的に異なる

ここまで見てきた問題は、KPI設計の技術的な不備に見える。だが 経済産業研究所(RIETI) が整理しているように、問題はもっと根が深い。RIETIのコラムは と KPI 管理を構造的に異なる営みとして区別する。

KPIは政策の進捗・成果を簡素に把握する仕組みである。事前に目標値を設定し、事後にどの程度達成されたかを測る。EBPMは政策と成果の因果関係を解明する営みである。両者を区別する決定的なポイントは、「その政策がなかりせば、どのようにその指標が推移したか」という反実仮想(カウンターファクチュアル)の考え方である。EBPMは政策実施群と非実施群、あるいは政策前後で他の条件が一定の状況での比較によって、政策固有の効果を識別する。

項目KPI管理EBPM
主目的進捗・成果の簡素な把握政策と成果の因果関係解明
データ収集コスト安価が望ましい相応のコストを許容
対照群データ不要必須
評価基準事前目標達成度政策実施群と非実施群の比較
反実仮想不要必須

この区別を1,000万人目標に当てはめると、設計上の欠落が明らかになる。第一に、反実仮想の不在である。ふるさと住民登録制度がなかった場合、関係人口がどう推移したかについての予測がない。国交省広義推計が既に2,263万人であることを踏まえれば、自然増・SNS等による接点拡大・観光需要回復などの要因で、登録制度がなくても関係人口は変動する。登録制度導入後に登録者が増えても、それが政策効果なのか、自然増を制度上に取り込んだだけなのかを区別する設計になっていない。

第二に、対照群の不在である。ふるさと住民登録制度はモデル事業から全国展開へと段階的に進む見込みだが、自治体間でのランダム化や、導入時期の段階的設計(先行群・後行群比較)が想定されていない。これでは、登録者数の地域差が政策効果なのか、地域属性(観光資源・知名度・首都圏との距離等)の差なのかを切り分けられない。

第三に、登録という行為と関係の実態の同一視である。登録は「関係を持つ意思の表明」であって「関係の実態」ではない。鳥取県日野町のふるさと住民登録(2016年導入)で 約10年間で780人の登録実績 を持つ担当者は、「登録者にも熱量に違いがある。成果を測るには来町者の増加を見定めないといけない」と語っている。先行自治体の現場感覚は、登録者数が関係人口の実態を捉える指標として粗いことを示している。構想日本 は同じ東京新聞の記事内で「双方向のやりとりを可能にする仕組みを設け、地元住民も交え三角関係を築かねばならない」と指摘し、登録という単方向の制度設計の限界を述べた。

「成功事例集」依存と失敗事例の不在

EBPM設計の欠落は、政策学習サイクルにも影を落とす。地方創生1.0が量産したのは、上勝町(徳島)、神山町(徳島)、海士町(島根)、ニセコ町(北海道)、邑南町(島根)といった「成功事例」だった。内閣官房は「地方創生事例集」「地方創生ベストプラクティス」として全国に周知し、自治体は同様の取り組みをモデルケースとして参照した。

問題は、失敗事例集が存在しないことである。市民系メディアは、政治的リスク回避(失敗記録は議会追及に直結)、メディアの選別報道、行政文書の曖昧化(「改善の余地あり」という表現)の3要因を挙げて、地方創生における失敗の構造的記録不在を指摘している。「撤退できなかった地方創生」の代表事例として、青森市アウガ(185億円投資・累積赤字24億円超)、南アルプス市完熟農園(8億円投資・1年以内撤退)、夕張市観光施設群(350億円投資・客数160万人から30万人へ急減)が挙げられる。これらは個別事案として報じられたものの、政策学習として体系化されていない。

「1,000万人」目標は2025年6月閣議決定の総合戦略に明記されたが、算定根拠は公式文書に見当たらない。
地方創生1.0と2.0:KPI未達成と根拠不在の対比

「上勝町モデル」「海士町モデル」が普遍化される過程で、各地域の地理的・歴史的固有性、人的ネットワーク、偶然の要素が捨象された。2.0でも先行する「ふるさと住民登録」運用自治体(鳥取県日野町など)の事例が中心になりつつある。失敗の制度的記録が残らないまま、選択された成功事例だけが普遍化される構造は、1.0と2.0で同じである。1.0で達成困難となった4つの基本目標から、2.0でふるさと住民登録という単一の中核KPIに収斂したことは、「測りやすさ」を優先した設計とも読める。だが測りやすい指標が測るべき指標とは限らない。

国際比較から見える「数値目標型地方政策」の特異性

関係人口に直接対応する政策概念は他国に存在しないため、制度比較ではなく「中央政府が10年・全国一律の数値目標で地方政策を設計する」というメタ視点での比較が有効である。自治体国際化協会の比較資料 および 総務省の制度比較資料 から、概要を整理する。

イギリスは2011年のローカリズム法(Localism Act)で、住民組織に対しコミュニティ資産取得権・サービス提供挑戦権などを制度化した。地方政策の主軸は中央政府からの数値目標ではなく、コミュニティへの権限委譲である。フランスは1982年の地方分権法(Décentralisation)以降、コミューン・県・地域圏の三層構造で権限委譲を進めてきた。中央集権の伝統は強いが、相続・贈与の持戻期間が15年と長期であるなど、税制を通じた地理的固定の設計が日本と異なる。

両国に共通するのは、地方政策の中核が「権限の所在の再設計」にあり、「中央が10年で1,000万人」というような全国一律の数値目標ではない点である。日本のふるさと住民登録は、中央政府が10年・1,000万人という数値で全国一律の制度を設計し、自治体に実装させるモデルであり、国際的にはむしろ異例の設計と言える。「制度設計の主体は誰か」「目標の根拠は誰が示すか」という問いを、海外比較は浮かび上がらせる。

姉妹コラム「京都市空き家税の構造」 で論じた京都市の事例は、自治体側からの財源・制度設計の試みとして対照的である。中央が数値目標を設定して自治体に実装させるトップダウン型と、自治体が地域固有の課題に応じて制度を起こすボトムアップ型のどちらが「関係人口を増やす」目的に適合的かは、本来は実証的に検証されるべき問いである。

数値目標がEBPMたりうるか

ここまでの分析を踏まえると、「ふるさと住民1,000万人」は次の特徴を持つ。算出根拠が公開資料に明示されない、地方創生1.0の包括的効果検証の不在のもとで設定された、登録者数というプロキシ指標が関係の実態と同一視されている、反実仮想と対照群の設計を欠く、自治体側の批判(島根県知事「おとぎ話」、GLOCOM否定145自治体)が顕在化している、成功事例集依存の構造を1.0から踏襲している。

これらは「数値目標を設定すること」自体への批判ではない。数値目標は政策意思の表明として有用な場面もある。問題は、目標設定→介入設計→評価→学習というサイクルが、関係人口政策において機能しているかという点である。行政改革推進本部のEBPMガイドブック は「行政の『無謬性神話』からの脱却」を掲げ、政策の失敗を許容するEBPM文化を提唱した。だが1.0の包括的検証不在と2.0の数値根拠不在は、ガイドブックの理念が地方創生領域では機能していない実態を示している。

10年後、登録者数が1,000万人を超えるかどうかは、おそらく重要な問いではない。重要なのは、その10年の間に「登録者数増加が関係人口の実態と相関しているか」「ふるさと住民登録制度がなかった場合と比べて何が変わったか」「自治体間で施策の効果差が生じた場合、その差は何で説明できるか」を検証する仕組みが、最初から設計に組み込まれているかである。総務省の関係人口創出・拡大事業検証結果報告書 は2021年時点で平成30年度・令和元年度のモデル事業74件を検証したが、各事業の効果を地域経済効果に翻訳する手法は未確立だった。経済波及効果のような恣意性の高い指標が用いられがちで、反実仮想を伴う厳密な評価には至っていない。

「ふるさと住民1,000万人」は、地方創生1.0の総括が空白のまま設定された数値目標である。関係人口インフレ(数の水増し)と成功事例集依存の構造を1.0から踏襲するリスクを内包しており、このまま10年を走り抜けると、2034年に再び「反省点を列挙するが構造分析を欠く」基本構想3.0を迎えることになりかねない。数値目標がEBPMたりうるかという問いは、関係人口政策に限らず、日本の公共政策評価そのものへの問いである。


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参考文献

地方創生2.0基本構想(閣議決定)内閣官房 新しい地方経済・生活環境創生本部 (2025年6月)

地方創生2.0基本構想 概要内閣官房 新しい地方経済・生活環境創生本部 (2025年6月)

ふるさと住民登録制度概要総務省 (2025年)

ふるさと住民登録制度モデル事業の実施対象自治体の募集総務省 (2026年3月)

地域との関わりについてのアンケート 2024年国土交通省 (2024年)

住民基本台帳人口移動報告 2024年結果総務省統計局 (2025年1月)

ISSUE BRIEF 第1331号 地方創生のこれまでの取組と今後の在り方国立国会図書館 (2025年9月)

EBPM推進のカギとなる「KPI設定に関する誤解」の解消経済産業研究所 RIETI (2021年)

ふるさと住民登録制度に関する全国自治体調査 Opinion Paper No.35伊藤将人(国際大学GLOCOM) (2025年10月)

「地方創生2.0基本構想」で示された反省と新たな視点藤山光雄(日本総合研究所) (2025年)

地方間で人口を奪い合った10年SOMPOインスティチュート・プラス (2024年8月)

関係人口創出・拡大事業 検証結果報告書総務省 (2021年3月)

EBPMガイドブック 1.0行政改革推進本部 (2022年11月)

ふるさと住民制度は労力の無駄遣い 丸山知事『怒りではなく、悲しみ覚える』山陰中央新報 (2025年6月)

ふるさと住民『10年で登録1000万人』を掲げるが…数が目的化する危うさ東京新聞 (2025年)

参考書籍


関連ガイド

政策のEBPM対応と証拠に基づく事業設計に関心のある方は、以下のガイドも参照されたい。

読んだ後に考えてみよう

  1. 関係人口を「登録者数」というプロキシ指標で測ることは、関係の実態を捉えていると言えるだろうか。登録という行為は関係を生む手段なのか、関係の結果なのか
  2. 地方創生1.0の包括的効果検証なしに2.0を始動することは、政策学習サイクル(PDCA)として成立しているだろうか。失敗事例集が存在しない構造のまま、次の10年の数値目標を立てる意味はあるか
  3. 1,000万人という数字の算出根拠を市民が政府に問うとき、どの公開資料・議事録にアクセスできるべきだろうか。情報公開と政策検証可能性の関係を、関係人口政策はどう設計しているか

この記事の用語

EBPM
客観的なエビデンス(統計データ、研究結果等)に基づいて政策を立案・評価する手法。

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