福島県内の除染で生じた土壌等は、法律で2045年3月までに福島県外で最終処分を完了すると定められている。保管量は約1,400万立方メートル。2026年8月29日、福島県外での復興再生利用が仙台合同庁舎の花壇で始まり、さいたま新都心合同庁舎が続いた。使われた量は2か所あわせて約2立方メートルである。政府の基本方針とロードマップを読むと、最終処分場の候補地選定に着手するのは2030年頃とされている。期限と着手の距離を、政府自身の文書から読む。
ざっくり言うと
- 中間貯蔵施設に保管されている除去土壌等は約1,400万立方メートル(2025年6月末時点)である
- 2045年3月までの福島県外での最終処分は、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法に定められた国の責務である
- 福島県外で最初に復興再生利用されたのは、仙台とさいたまの合同庁舎の花壇で、量は2か所あわせて約2立方メートルである
何が起きているのか
福島県外での復興再生利用が、仙台とさいたまの合同庁舎の花壇で始まった
中間貯蔵開始後30年以内(2045年3月まで)。福島県内の除染で生じた土壌等を福島県外で最終処分し終える期限である。努力目標ではなく、法律に書かれた国の責務にあたる。
2026年8月29日、その県外処分に向けた取組の一つが動いた。仙台市青葉区の仙台合同庁舎で、除去土壌を使った花壇の造成が行われた。福島県内の実証事業を除けば、東京都外では初めてになる。さいたま新都心合同庁舎がこれに続いた。
使われた量は、2か所あわせて約2立方メートルである。
保管されている量は、約1,400万立方メートルある。
先に断っておくと、この2つの数字は同じ土俵にない。福島県内では飯舘村長泥地区などで実証事業が進んでおり、規模はこれと比べものにならない。2立方メートルは、 福島県外で、実証事業ではない形で使われた最初の量 である。この記事が扱うのは、県外での進み方になる。
背景と文脈
2045年3月という期限は法律に書かれた国の責務で、対象は約1,400万立方メートルある
期限を決めたのは法律である
まず、期限がどこから来ているのかを確かめておきたい。中間貯蔵施設は、最終処分までのあいだ土壌を管理する施設である。
中間貯蔵・環境安全事業株式会社法(平成15年法律第44号)上、「中間貯蔵開始後30年以内に福島県外での最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」旨が定められている。同じ文書は、その前段でこう書いている。地元の苦渋の判断により中間貯蔵施設が受け入れられたという経緯。
期限は、施設を受け入れた地元との約束として置かれている。
対象の量と、その分け方
量の内訳も公表されている。約1,400万m3(2025年6月末時点)。この全量が県外へ運ばれるわけではない。
中間貯蔵施設で保管されている土壌のうち、約4分の3は利用が可能とされ、公共工事等で使う道が用意されている。残る約4分の1が、減容を図ったうえで県外最終処分に回る。
つまり、再生利用は最終処分の代わりではない。 最終処分すべき量を減らすための工程である。
8,000ベクレルという線の引き方
再生利用に回せるかどうかの線は、放射能濃度で引かれている。
復興再生利用に当たっては、放射線の国際的な安全基準として定められた公衆の追加被ばく線量限度(年間 1mSv)を踏まえ、年間追加被ばく線量を 1mSv 以下(これを満たす放射能濃度として 8,000Bq/kg 以下)とすることとした。
この8,000という数字が何を守っているのかは、同じ文書の注に書かれている。モデル計算により、最も被ばく線量が高い施工中の作業者の年間追加被ばく線量が 1mSv 以下となるように定めており、覆土による遮へいを見込むと、周辺の年間追加被ばく線量は上部の覆土が 20cm の場合に 0.017mSv、50cm の場合に 0.00086mSvとされる。
基準を置いた根拠は外部からも点検されている。国際原子力機関(IAEA)の専門家会合が、環境省の取組を評価している。適切な管理のもとで、8,000Bq/kg 以下の再生土壌を使用することにより、線量基準を十分達成することが可能。2024年9月に公表された最終報告書の結論である。放射線審議会も2025年2月27日に、基準案は妥当だと答申した。
さいたまで使われた土壌の濃度は、報道によれば約4,000ベクレル毎キログラムだった。基準の半分にあたる。
構造を読む
期限までの残りと、候補地選定に着手する時期の距離が、政府文書から読める
期限は法律、着手は2030年頃
ここまでは、基準と手続きが積み上がってきた話である。問題は、その先の工程表にある。
2030年頃の目指すべき姿として県外最終処分シナリオ・候補地選定プロセスを具体化し、候補地の選定・調査を始めることとしている。
2030年頃に始めるのは、処分ではない。 場所を探す作業である。
基本方針の「終わりに」には、こうある。今後 20 年間の道筋を具体化していくことが必要である。20年の道筋を、これから具体化する段階だと自ら書いている。
3本柱のうち1本が、合意の調達である
基本方針は3本柱で組まれている。復興再生利用の推進、理解醸成・リスクコミュニケーション、県外最終処分に向けた取組の推進。
3分の1が、受け入れ先の納得を作る作業に充てられている。しかもその中身は、処分場の話ではない。復興再生利用に対する国民の幅広い理解醸成を図るという観点から、官邸での利用の検討を始めとして政府が率先して先行事例の創出等に取り組みと書かれている。
実際、その通りに進んだ。環境省のサイトには「除去土壌を用いた鉢植えの設置状況(2026年3月時点)」として、総理大臣官邸、環境省の大臣室・副大臣室・政務官室、復興庁、総務省・外務省・防衛省・文部科学省・経済産業省・国土交通省・財務省・法務省・農林水産省、原子力規制庁、そして自民党本部と公明党本部が並ぶ。
鉢植えである。その次の段が、仙台とさいたまの花壇だった。
数えられているのは場所であって、量ではない
ロードマップの書き方に、もう一つ特徴がある。霞が関の中央官庁9か所での利用について順次施工、分庁舎・地方支分部局・所管法人等への取組の拡大等を進める。
単位が「か所」である。立方メートルではない。
進捗の確認方法も同じ向きを向いている。これらの進捗の確認のため「全国 WEB アンケート調査」等を定期的に実施する。
測るのは理解度である。 基本方針の全文と、ロードマップを要約した復興庁の資料を読んだかぎり、約1,400万立方メートルがどれだけ減ったかを追う指標は出てこない。(ロードマップ本体は未確認)
理解を広げることと、量を減らすことは別の目標なので、前者が進んでも後者が進むとは限らない。それでも進捗として報告できるのが前者だけであれば、期限までの残り時間は指標に現れないまま過ぎていく。
場所を探す段になって効いてくるもの
リニア静岡の協定に、工事を止める条項が入った(このサイトの記事)で見たとおり、地元が受け入れの条件として最後に求めるのは、説明の量ではなく手続きである。止める権限が誰にあるか、どの条件で止まるか。合意はその形をとってはじめて文書になる。
除去土壌の場合、その手続きはまだ書かれていない。基本方針にあるのは、最終処分場の候補地の選定・調査に向け、最終処分場の候補地選定に当たって考慮すべき立地条件の整理を進めるという段階である。条件を整理する前なので、条件はまだ示されていない。
住民参加型政策形成プロセス設計(このサイトの記事)で整理したとおり、説明会を開くことと、決定に関与できることは違う。前者だけを重ねても、後者の手続きは生まれない。
推進会議の構成を見ると、この案件に政府がどれだけの重みを置いているかはわかる。議長は内閣官房長官、副議長は環境大臣と復興大臣、構成員は内閣総理大臣を除く全ての国務大臣である。全閣僚が入る会議は、そう多くない。
その会議が2024年12月に設置され、2025年5月に基本方針を決め、2025年8月にロードマップをまとめた。そして2026年8月、福島県外で最初の花壇ができた。 体制の大きさと、動いた量の差が、この案件のいまの姿である。
何を数えれば、次の判断ができるか
受け入れを打診される自治体が、判断の材料にできるものを考えておきたい。
1つは、 復興再生利用で実際に減った量 である。か所数ではなく立方メートルで、しかも累計で。この数字がなければ、自分のところで扱う量が全体のどこに位置するのかがわからない。
もう1つは、 県外最終処分に回る約1/4が、いま何立方メートルなのか である。再生利用が進めば減るはずの数字で、期限までに処分場が受けるべき量そのものにあたる。この数字が動いていなければ、増えているのは理解であって、減っているのは何もない。
廃校スモールコンセッションの構造分析(このサイトの記事)で扱ったとおり、制度が整っていることと案件が動くことのあいだには断層がある。基準もガイドラインも国際機関の評価も揃った。揃ったうえで、県外で動いた量が2立方メートルだった、というのが2026年8月の状態である。
何を成果として数えるかは、動き出す前に決めておく必要がある(アウトカム指標の設計(このサイトの記事))。候補地の選定が始まる2030年頃までに、量の指標が置かれるかどうかが分かれ目になる。
残る問い
期限は法律に書かれている。書かれていないのは、どこに運ぶかである。
場所が決まっていない期限は、誰の期限なのだろうか。
この記事で使った統計の出典
- 1環境省 中間貯蔵施設情報サイト「県外最終処分に向けた取組」(2026年) 出典を開く
- 2原子力災害対策本部「福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等の推進に関する体制の強化について」(令和6年12月20日) 出典を開く
- 3復興庁「除去土壌の福島県外最終処分に向けた復興再生利用等に関する取組」(2025年10月3日) 出典を開く
- 4福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議「福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等の推進に関する基本方針」(令和7年5月27日) 出典を開く
参考書籍
- 『核のごみをどうするか』(外部サイト、新しいタブで開きます)(今田高俊・寿楽浩太・中澤高師、岩波書店)。高レベル放射性廃棄物の地層処分をめぐって、立地の選定と合意形成がなぜ進まないのかを整理した本。処分するものは違うが、「期限は決まっているが場所が決まっていない」構造は共通している。
参考文献
福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等の推進に関する体制の強化について(令和6年12月20日) — 原子力災害対策本部 (2024). 内閣官房
福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等の推進に関する基本方針(令和7年5月27日) — 福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた再生利用等推進会議 (2025). 内閣官房
除去土壌の福島県外最終処分に向けた復興再生利用等に関する取組(2025年10月3日) — 復興庁 (2025). 復興庁
県外最終処分に向けた取組 — 環境省 (2026). 中間貯蔵施設情報サイト
復興再生利用について — 環境省 (2026). 中間貯蔵施設情報サイト
