全国の学校が持つ屋外の水泳プールは23,411箇所(スポーツ庁 令和6年度)で、1校あたりの数は小学校で0.87→0.83、中学校で0.65→0.63へと調査のたびに減っている。建設費は1億2,000万円から2億6,900万円、年間の維持費は1校あたり約180万円。地域への開放率は6.9%で学校施設のなかで最も低い。老朽化と猛暑への対応は更新・民間委託・座学化に分かれ、その分岐は自治体の財政力に強く左右される。公教育が担ってきた泳力習得の共通基盤が、家庭の負担能力へと移る構造を読み、何を公教育に残すかを問う。
ざっくり言うと
- 全国の学校の屋外水泳プールは23,411箇所(令和6年度)で、1校あたりの数は小学校0.87→0.83、中学校0.65→0.63へと調査のたびに減り続けている
- 屋外プールの建設費は他自治体の事例で1億2,000万円から2億6,900万円、年間の維持費は1校あたり約180万円、大規模改修は約5,000万円かかる
- 地域への開放率は6.9%で、体育館の83.9%、屋外運動場の74.1%と比べて学校施設のなかで最も低い
- 老朽化と猛暑への対応は更新・民間委託・座学化に分かれ、その選択は自治体の財政力に強く左右される
- 公教育が担ってきた泳力習得の共通基盤が、送迎や月謝を払える家庭の負担能力へと移り、自治体格差が家庭格差へ連鎖する
学校の屋外水泳プールは全国で23,411箇所(スポーツ庁 令和6年度)。老朽化への対応は自治体の財政力で分かれ、公教育が担ってきた泳力習得の共通基盤が、家庭の負担能力へと移っていく。座学だけでは、着衣泳などの実技での溺水予防は身につきにくい。
何が起きているのか
全国23,411箇所の学校の屋外プールは1校あたりで減り続け、老朽化と猛暑への対応が更新・民間委託・座学化に分かれている
小中学校のプールが、静かに姿を消しつつある。全国の学校が持つ屋外の水泳プールは23,411箇所で、体育館(34,778箇所)と多目的運動場(31,405箇所)に次いで3番目に多い。学校が持つ体育・スポーツ施設全体のうち18.6%を占める。
減っているのは1校あたりの数
屋外プールは学校のほかに公共施設・民間施設・大学にもある。全部を合わせた総数は令和3年度の26,177箇所から25,384箇所へ、793箇所減った。学校と大学・高専に限れば、24,182箇所から23,553箇所へ、629箇所の減である。
1校あたりで見ると、減り方はより長い傾向として現れる。屋外プールの数は小学校で0.87から0.83へ、中学校で0.65から0.63へと、調査のたびに下がっている。
学習指導要領が用意していた逃げ道
水泳は学習指導要領に位置づけられた教育内容だ。ただし同じ要領は、適切な水泳場の確保が難しい場合には実技を扱わない選択も認めており、その場合でも水の事故を防ぐ心得は教えることになっている。つまり座学への切り替えは、制度が初めから想定してきた逃げ道でもある。老朽化と記録的な暑さを背景に、プールを更新せず民間施設で授業を行う学校や、実技をやめて座学に切り替える学校が現れており、この動きはスポーツ庁も認識している。一見すると教育現場の柔軟な対応に見える。だが、その対応の分かれ方こそが問題である。
背景と文脈
建設費1億2,000万円〜2億6,900万円、年間維持費約180万円、開放率6.9%が判断の背景にある
建設費は1億2,000万円から2億6,900万円
なぜプールを手放すのか。まず、更新の費用が重い。目黒区教育委員会が他自治体の事例を集めた資料によれば、久喜市立青葉小学校が平成28年に建てた平屋建ての屋外プールは建設費 約2億6,900万円。他の自治体が示した概算工事費は1億2,000万円から2億2,000万円の幅がある。目黒区自身は、屋外プールを設置する場合の建設費を2億円として検討している。
屋内の温水プールにすれば通年で使えるが、費用の桁が変わる。同じ資料は1平方メートルあたり50万円で試算し、800平方メートルの施設で建設費4億円としている。
年間の維持費は1校あたり約180万円
建てたあとも費用は続く。清掃の委託、循環浄化装置の点検、消毒液の購入と水質検査、水道代、修繕。目黒区が令和4年度の実績から積み上げた1校あたりの年間維持管理費は約180万円。さらに機能を改善する大規模改修には、他自治体の例から約5,000万円を見込んでいる。夏の数週間しか使わない設備にこれを払い続けられるかどうかは、自治体の財政に直結する。
猛暑は引き金であって根ではない
そこに猛暑が重なった。屋外での水泳授業そのものが難しくなり、中止や座学への切り替えが増えた。暑さは対応を早める引き金になったが、根にあるのは、老朽化した設備を更新する予算を確保できるかという財政の問題だ。
開放率6.9% — 学校施設のなかで最も低い
しかも、学校のプールは地域にほとんど開かれていない。これは印象ではなく、数字に出ている。令和5年度の実績で、屋外プールを地域に開放している公立学校は保有校17,866校のうち1,236校、開放率6.9%にとどまる。小学校で8.3%、中学校で4.3%、高等学校等で4.4%である。
同じ調査で、体育館の開放率は83.9%、屋外運動場は74.1%、武道場は46.9%、屋内プールでも20.8%ある。屋外プールは、調べられた学校施設のなかで最も開かれていない。 その学校の授業のためだけに存在し、夏の一時期を除けば使われない時間が長い。維持費に見合う稼働率とは言いにくく、財政の厳しい自治体ほど、この設備を抱え続ける負担が重くのしかかる。
4校に3校が最も小さい区分
大きさの分布も、集約のしやすさに関わる。学校が持つ屋外プールのうち74.0%が150〜399平方メートルの最も小さい区分に入る。小学校に限れば79.7%。1,000平方メートル以上は学校全体で4.3%しかない。競技用の水面を持つ施設ではなく、その学校の児童生徒が学ぶだけの小さな水面が、全国に散らばっている。
構造を読む
対応の分岐が泳力習得を家庭に押し戻す。自治体の財政格差が家庭の習得格差へ連鎖する構造を読み、公教育に残す共通基盤を問う
財政力で三つに分かれる
ここで見えてくるのは、プール老朽化への対応が、自治体の財政力に応じて三つに分かれることだ。財政に余裕があれば、屋内の拠点校にプールを集約して更新できる。委託費を払えるなら、民間のスイミングスクールに授業を託せる。どちらも難しければ、実技を縮小して座学に寄せることになる。
集約の受け皿は学校の外にある
ただし、集約という選択肢は見た目ほど広くない。学校が持つ屋内プールは全国で885箇所しかなく、屋外の23,411箇所に対して26分の1である。一方、民間スポーツ施設の屋内プールは2,958箇所で、学校の3倍以上ある。通年で使える水面は、すでに公教育の外側に多くある。民間委託が現実的な選択肢になるのは、この分布の帰結でもある。
自治体はすでに1,768箇所の屋内プールを持っている
三つ目の選択肢、地域施設の活用には、実は分厚い受け皿がある。公共スポーツ施設が持つ屋内プールは全国で1,768箇所で、学校の885箇所の2倍にあたる。屋外プールも1,693箇所ある。通年で使える水面は、自治体自身の手の中にもある。
ただし、公共施設を授業として使うには、移動時間を確保できる時間割と、移動の費用を誰が持つかの取り決めが要る。そこが決まらなければ、負担は結局、家庭に回る。制度が用意されていることと、それが届いていることを分けて考える必要があるのは、制度からの排除と未受給(このサイトの記事)で整理した論点と同じである。
泳力習得が家庭に押し戻される
この分岐が、泳力の習得を家庭に押し戻す。更新できれば、習得の機会は公教育のなかに残る。民間委託になれば、送迎や一部の費用が保護者に回る。座学化まで進めば、着衣泳や浮き身といった、水の事故から身を守る実技は学校では身につかない。そうした技能は学校の外、つまり民間スイミングスクールに月謝を払える家庭でしか習えなくなる。公教育が担ってきた「誰もが泳げるようになる」という共通の基盤が、家庭の負担能力に置き換わっていく。
泳ぎは、生存に関わる技能でもある。水の事故から身を守る力を、家庭の経済力で左右してよいのか。プールの老朽化は全国共通の物理的な事実だが、その帰結は、住む自治体と家庭の懐で分かれる。ここにあるのは教育の格差というより、自治体の財政格差が家庭の格差へと連鎖する構造だ。
何を公教育の共通基盤として残すか
問うべきは、何を公教育の共通基盤として残すか、である。すべての学校にプールを維持することだけが答えとは限らない。拠点校への集約、民間との連携、地域施設の活用など、手立ては複数ある。だが、どの手立てを選ぶにせよ、泳力習得の機会を家庭の経済力から切り離すという一点を設計の軸に置かなければ、対応の分岐はそのまま子どもの格差になる。子どもが泳げるようになる機会だけは、どの自治体に生まれても等しく届く。その一点を、財政の都合の前に守れるかどうかが問われている。
この記事で使った統計の出典
- 1スポーツ庁 令和6年度 体育・スポーツ施設現況調査 確報値 表2(令和6年度(2024年)) 出典を開く
- 2スポーツ庁 令和6年度 体育・スポーツ施設現況調査 確報値(令和6年度(2024年)) 出典を開く
- 3スポーツ庁 令和6年度 体育・スポーツ施設現況調査 確報値 表2(令和3年度→令和6年度) 出典を開く
- 4スポーツ庁 令和6年度 体育・スポーツ施設現況調査 確報値 表3(令和3年度→令和6年度) 出典を開く
- 5目黒区教育委員会 目黒区立小中学校におけるプール施設整備の考え方(令和5年3月) 出典を開く
- 6目黒区教育委員会 目黒区立小中学校におけるプール施設整備の考え方(令和4年度実績) 出典を開く
- 7スポーツ庁 令和6年度 体育・スポーツ施設現況調査 確報値 表9(令和5年度実績) 出典を開く
- 8スポーツ庁 令和6年度 体育・スポーツ施設現況調査 確報値 表6(令和6年度(2024年)) 出典を開く
参考書籍
- 『教育格差 階層・地域・学歴』(外部サイト、新しいタブで開きます)(松岡亮二、ちくま新書、2019年)。就学前から高校まで、生まれ育った家庭と地域で学力や進学が分かれる実態をデータで検証した書。
参考文献
我が国の体育・スポーツ施設(令和6年度 体育・スポーツ施設現況調査確報値の概要ほか) — スポーツ庁 (2026). スポーツ庁
目黒区立小中学校におけるプール施設整備の考え方 — 目黒区教育委員会 (2023). 目黒区
小学校学習指導要領解説(体育編ほか) — 文部科学省 (2017). 文部科学省
学校体育施設の有効活用について(地域スポーツの場づくりに関するセミナー資料) — スポーツ庁 (2023). スポーツ庁

