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一般社団法人 社会構想デザイン機構

学校のプールが減っていく — 老朽化対応の自治体格差が、泳力習得の格差に変わる

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ヨコタナオヤ
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全国の学校が持つ屋外の水泳プールは23,411箇所(スポーツ庁 令和6年度)で、1校あたりの数は小学校で0.87→0.83、中学校で0.65→0.63へと調査のたびに減っている。老朽化と猛暑への対応は更新・民間委託・座学化に分かれ、その分岐は自治体の財政力に強く左右される。公教育が担ってきた泳力習得の共通基盤が、家庭の負担能力へと移る構造を読み、何を公教育に残すかを問う。

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ざっくり言うと

  1. 全国の学校の屋外水泳プールは23,411箇所(令和6年度)で、1校あたりの数は小学校0.87→0.83、中学校0.65→0.63へと調査のたびに減り続けている
  2. 老朽化と猛暑への対応は更新・民間委託・座学化に分かれ、その選択は自治体の財政力に強く左右される
  3. 公教育が担ってきた泳力習得の共通基盤が、送迎や月謝を払える家庭の負担能力へと移り、自治体格差が家庭格差へ連鎖する
対応の型負担が向かう先
更新(屋内拠点校に集約)自治体が担う(習得機会は維持、対象校は限られる)
民間委託(スイミングスクール等)送迎と一部費用が保護者に回る
座学化・実技の縮小泳ぐ技能は家庭の習い事頼みになる

学校の屋外水泳プールは全国で23,411箇所(スポーツ庁 令和6年度)。老朽化への対応は自治体の財政力で分かれ、公教育が担ってきた泳力習得の共通基盤が、家庭の負担能力へと移っていく。座学だけでは、着衣泳などの実技での溺水予防は身につきにくい。

プール老朽化への3つの対応と、泳力習得の負担が向かう先

何が起きているのか

全国23,411箇所の学校の屋外プールは1校あたりで減り続け、老朽化と猛暑への対応が更新・民間委託・座学化に分かれている

小中学校のプールが、静かに姿を消しつつある。全国の学校が持つ屋外の水泳プールは23,411箇所で、体育館や運動場に次いで数の多い学校施設だ。前回の令和3年度調査からは600校あまり減った。1校あたりで見ても、屋外プールの数は小学校で0.87から0.83へ、中学校で0.65から0.63へと、調査のたびに減っている。

水泳は学習指導要領に位置づけられた教育内容だ。ただし同じ要領は、適切な水泳場の確保が難しい場合には実技を扱わない選択も認めており、その場合でも水の事故を防ぐ心得は教えることになっている。つまり座学への切り替えは、制度が初めから想定してきた逃げ道でもある。老朽化と記録的な暑さを背景に、プールを更新せず民間施設で授業を行う学校や、実技をやめて座学に切り替える学校が現れており、この動きはスポーツ庁も認識している。一見すると教育現場の柔軟な対応に見える。だが、その対応の分かれ方こそが問題である。

背景と文脈

改築の高額な費用と維持負担、猛暑、低い稼働率が重なり、プールを手放す判断は自治体の財政力に直結する

なぜプールを手放すのか。まず、更新の費用が重い。プールの改築には、大規模なもので1億円から数億円ともいわれる費用がかかり、加えて毎年の水の入れ替え、薬剤、清掃、水質管理、そして教員の負担がのしかかる。夏の数週間しか使わない設備にこの費用を払い続けられるかどうかは、自治体の財政に直結する。

そこに猛暑が重なった。屋外での水泳授業そのものが難しくなり、中止や座学への切り替えが増えた。暑さは対応を早める引き金になったが、根にあるのは、老朽化した設備を更新する予算を確保できるかという財政の問題だ。

しかも、学校のプールは地域にほとんど開かれていない。その学校の授業のためだけに存在し、夏の一時期を除けば使われない時間が長い。維持費に見合う稼働率とは言いにくく、財政の厳しい自治体ほど、この低稼働の設備を抱え続ける負担が重くのしかかる。

構造を読む

対応の分岐が泳力習得を家庭に押し戻す。自治体の財政格差が家庭の習得格差へ連鎖する構造を読み、公教育に残す共通基盤を問う

ここで見えてくるのは、プール老朽化への対応が、自治体の財政力に応じて三つに分かれることだ。財政に余裕があれば、屋内の拠点校にプールを集約して更新できる。委託費を払えるなら、民間のスイミングスクールに授業を託せる。どちらも難しければ、実技を縮小して座学に寄せることになる。

この分岐が、泳力の習得を家庭に押し戻す。更新できれば、習得の機会は公教育のなかに残る。民間委託になれば、送迎や一部の費用が保護者に回る。座学化まで進めば、着衣泳や浮き身といった、水の事故から身を守る実技は学校では身につかない。そうした技能は学校の外、つまり民間スイミングスクールに月謝を払える家庭でしか習えなくなる。公教育が担ってきた「誰もが泳げるようになる」という共通の基盤が、家庭の負担能力に置き換わっていく。

泳ぎは、生存に関わる技能でもある。水の事故から身を守る力を、家庭の経済力で左右してよいのか。プールの老朽化は全国共通の物理的な事実だが、その帰結は、住む自治体と家庭の懐で分かれる。ここにあるのは教育の格差というより、自治体の財政格差が家庭の格差へと連鎖する構造だ。

問うべきは、何を公教育の共通基盤として残すか、である。すべての学校にプールを維持することだけが答えとは限らない。拠点校への集約、民間との連携、地域施設の活用など、手立ては複数ある。だが、どの手立てを選ぶにせよ、泳力習得の機会を家庭の経済力から切り離すという一点を設計の軸に置かなければ、対応の分岐はそのまま子どもの格差になる。子どもが泳げるようになる機会だけは、どの自治体に生まれても等しく届く。その一点を、財政の都合の前に守れるかどうかが問われている。

参考書籍

  • 『教育格差 階層・地域・学歴』(松岡亮二、ちくま新書、2019年)。就学前から高校まで、生まれ育った家庭と地域で学力や進学が分かれる実態をデータで検証した書。

参考文献

我が国の体育・スポーツ施設(令和6年度 体育・スポーツ施設現況調査確報値の概要ほか)スポーツ庁 (2026). スポーツ庁

小学校学習指導要領解説(体育編ほか)文部科学省 (2017). 文部科学省

学校体育施設の有効活用について(地域スポーツの場づくりに関するセミナー資料)スポーツ庁 (2023). スポーツ庁

読んだ後に考えてみよう

  1. あなたの地域では、水泳の習得機会は学校で確保されているか、それとも家庭の習い事に依存しているか
  2. プールの更新・民間委託・座学化のうち、子どもの習得機会を最も損なわないのはどれか
  3. 何を公教育の共通基盤として残すかを、財政の都合ではなく子どもの機会から設計できているか

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