文部科学省の学校教員統計調査で、2024年度に精神疾患で離職した公立小中高の教員が1,319人と過去最多になった。前回比369人増。国は給特法を改正し教職調整額を4%から10%へ段階的に引き上げるが、休職の要因で「長時間勤務」はわずか0.5%にとどまる。金銭の上乗せは、教員が心を病む根に届くのか。離職と欠員が連鎖する負のスパイラルと、対症療法か根治かという論点を読む。
ざっくり言うと
- 2024年度に精神疾患で離職した公立小中高の教員は1,319人で過去最多、前回比369人増となった
- 国は給特法を改正し教職調整額を4%から10%へ段階的に引き上げるが、休職の要因で長時間勤務はわずか0.5%にとどまる
- 離職が欠員を生み残る教員に負荷が集中する負のスパイラルが回り、採用倍率は2.9倍と過去最低に下がった
2024年度に精神疾患で離職した公立小中高の教員は1,319人で過去最多、休職は7,087人にのぼる。だが教育委員会が挙げる休職の要因で「長時間勤務」はわずか0.5%で、上位は指導内容・対人関係・事務だ。国は教職調整額を4%から10%へ引き上げるが、金銭の手当ては労働時間に向いており、心を病む要因とはずれがある。
何が起きているのか
精神疾患で離職した教員が過去最多1,319人。国は教職調整額を4%から10%へ引き上げるが、金銭は心を病む根に届くのか
精神疾患で教壇を去った教員が1,319人
精神疾患で教壇を去る教員が、過去最多になった。文部科学省の学校教員統計調査によれば、令和6年度間に精神疾患を理由に離職した公立学校の教員は小学校801人、中学校365人、高等学校153人だった。前回の令和3年度間は小学校569人、中学校277人、高等学校104人で、3校種を足すと950人から1,319人へ369人増えたことになる(合計は本記事の計算)。病気を理由とする離職者のうち精神疾患が占める割合は大きく、小学校では病気離職1,040人のうち801人、中学校では489人のうち365人である。なおこの数字は中間報告の値で、確定値の公表は2027年3月に予定されている。
9年で2.1倍になった
この数字は、急に跳ねたものではない。同じ調査の平成27年度間、つまり2015年度の精神疾患による離職は、小学校331人・中学校213人・高校75人の計619人だった。9年で2.1倍である。離職者に占める割合も、7.5%から8.5%へ上がった。
辞め方そのものも変わっている。公立小学校の離職者のうち定年以外の理由で辞めた人の割合は、2015年度の34.0%から2024年度の60.2%へ逆転した。定年まで勤める職業ではなくなりつつある、ということである。
国は教職調整額を4%から10%へ
国は待遇の改善に動いた。2025年に給特法を改正し、残業代の代わりに一律で上乗せする教職調整額を、4%から10%へ段階的に引き上げる。2026年1月から毎年1%ずつ、2031年に10%へ達する見込みだ。1971年の制定以来、教職調整額の水準が引き上げられるのは初めてである。だが、お金の上乗せは、教員が心を病む「根」に届くのか。
背景と文脈
精神疾患の休職は7,087人で高止まり。だが休職の要因で長時間勤務は0.5%にとどまり、政策が動かす労働時間の手当てとずれがある
離職の手前に、7,087人の休職がいる
心を病む教員は、離職の手前にもっと多くいる。文部科学省の人事行政状況調査によれば、2024年度に精神疾患で休職した公立学校の教員は7,087人にのぼる。母数は同年5月1日時点の教育職員92万2,776人で、在職者の0.77%にあたる。2015年度は5,009人・0.54%だったから、10年で人数も割合も上がっている。
ただし、前の年度からは減っている。2023年度の7,119人から32人の減少で、割合は0.77%のまま横ばいである。増え続けているのではなく、高いところで止まっている。休職の延長線上に、過去最多の離職がある。
「長時間勤務」は0.5%しかない
ここで見落とせない数字がある。教育委員会が挙げる休職の要因では、「長時間勤務(時間外在校等時間の状況、年次有給休暇の取得状況)」はわずか0.5%にとどまる。上位を占めるのは、児童生徒への指導内容26.5%、職場の対人関係23.2%、事務的業務12.7%である。教員を追い詰めているのは、時間の長さそのものというより、指導と人間関係と事務が幾重にも重なる負荷だ。ただし、これは教育委員会の認識であり、長時間労働が対人関係の疲弊や事務の過多を介して間接に効いている可能性を、消すものではない。この割合は「その他」と「教育委員会として把握していない」を除いて計算されている点も、読むときに要る。
対人関係を足すと、38.2%になる
要因の並びは、まとめ方を変えると別の顔になる。職場の対人関係23.2%に、個人的な対人関係(家族、プライベート関係)8.9%と、職場外の者との対人関係(地域住民、保護者等)6.1%を足すと38.2%になる。指導と事務を合わせた39.2%と、ほぼ並ぶ。誰かとの関係で消耗している教員が、4割近くいるということである。しかもその一部は、学校の外にいる相手との関係だ。
もうひとつ、「元々の精神疾患の悪化」が11.8%で4番目に来る。すでに精神疾患を抱えていた人が、悪化して休職に至った分類である。要因の1割がここに来るという事実は、待遇とも労働時間とも別の話を含んでいる。給特法改正が正面から動かすのは、労働時間に対する金銭の手当てである。ここに、ずれがある。
構造を読む
離職が欠員を生み残る教員に負荷が集中する負のスパイラル。採用倍率も過去最低で、対症療法か根治かが問われる
一人減ると、残った人が追い詰められる
教員が一人減ることは、残った教員をさらに追い詰める。誰かが休職・離職すれば、その担当は別の誰かが肩代わりする。校長が学級担任を兼ね、教頭が授業に入る。負荷が集中した教員が次に倒れ、また欠員が出る。この負のスパイラルが各地で回っている。
穴を埋める人のプールが、実際に枯れている
しかも、穴を埋める人材のプールが薄い。これは印象ではなく、採用の内訳に出ている。公立小学校の採用者を採用前の状況で分けると、非常勤講師などから正規採用された人は2015年度の6,335人(34.7%)から2024年度の3,534人(19.0%)へ減った。かわりに新卒の割合が45.1%から64.4%へ上がっている。欠員が出たときに頼る非常勤や臨時的任用の層が、そのまま正規に吸い上げられて薄くなった形である。2025年度の教員採用選考の競争率は2.9倍と過去最低、小学校は2.0倍まで下がった。倍率が下がるほど、欠員の穴埋めは難しくなる。なぜ教員が足りないのかは、別のコラム(このサイトの記事)で採用倍率・臨時的任用の枯渇・特別支援学級の急増という三つの要因から論じた。
「定額働かせ放題」と、10%の意味
給特法は、時間外勤務を「命じない」建前のもと、実際の残業に見合った割増賃金を払わず、教職調整額で一律に処理してきた。「定額働かせ放題」と呼ばれるゆえんだ。調整額を4%から10%へ上げることは、働きに報いる一歩ではある。だが、上限を超えて働く構造そのものを変えなければ、金銭は痛みを和らげても、痛みの原因は残る。改正では、業務量を管理し健康を確保する計画の策定も各教育委員会に義務づけられ、時間外在校等時間を令和11年度までに月平均30時間程度へ減らす目標が掲げられた。ただし、実際より短い虚偽の記録や、持ち帰り業務を増やしての帳尻合わせは禁じられている。同じ指針は、調査への回答や成績処理といった事務を教員以外へ移す業務の再配分も求めており、これは休職の要因に挙がる事務の負荷と重なる。数字の上での達成ではなく、指導と事務の総量を実際に減らせるか。測る対象を取り違えると、目標を満たしながら現場が悪くなることは起きる(成果指標の設計(このサイトの記事))。給特法改正の中身は地域差を扱ったコラム(このサイトの記事)でも詳しく取り上げた。
戻ってきた人が、また倒れている
もうひとつ、金銭では動かない層がいる。休職の要因の4番目に来る「元々の精神疾患の悪化」11.8%は、すでに精神疾患を抱えていた人が悪化した分類である。復職後の再発をどこまで含むかは、この調査からは読み取れない。それでも、治療を続けながら働いている教員が一定数いて、その悪化が要因の1割を占めることは分かる。休職者数が7,000人台で止まったまま離職が過去最多になっているのは、休職から戻る道と、そこから抜ける道の両方が細いことを示している。調整額を上げても、戻る先の仕事が同じなら、同じことが起きる。
金銭で報いることと、働き方を変えることは別
金銭で報いることと、働き方そのものを変えることは、別の作業だ。教職調整額の引き上げは前者に踏み込んだ。だが、心を病む要因が指導と人間関係と事務にある以上、後者に手が届かなければ、教壇を去る列は止まらない。過去最多の1,319人は、待遇の遅れを埋めれば消える数ではなく、仕事の中身をどう軽くするかという宿題として、まだ残っている。
この記事で使った統計の出典
- 1文部科学省 学校教員統計調査(令和7年度中間報告)(令和6年度間) 出典を開く
- 2文部科学省 学校教員統計調査(令和7年度中間報告)(令和3年度間) 出典を開く
- 3文部科学省 学校教員統計調査(令和7年度中間報告)(2015年度→2024年度) 出典を開く
- 4文部科学省 給特法改正 法律案要綱(2026年1月〜2031年) 出典を開く
- 5文部科学省 公立学校教職員の人事行政状況調査(令和6年度)(2024年度) 出典を開く
- 6文部科学省 公立学校教職員の人事行政状況調査(令和6年度)(2023年度→2024年度) 出典を開く
- 7文部科学省 公立学校教員採用選考試験の実施状況(令和7年度) 出典を開く
- 8文部科学省 教育職員の健康確保に関する指針改正のポイント(令和11年度目標) 出典を開く
参考書籍
- 『聖職と労働のあいだ 「教員の働き方改革」への法理論』(外部サイト、新しいタブで開きます)(高橋哲、岩波書店、2022年)。給特法の構造と矛盾、そして改正で問われる「労働時間」概念を、法理論から解いた書。
参考文献
学校教員統計調査(令和7年度中間報告) — 文部科学省 (2026). 文部科学省
公立学校教職員の人事行政状況調査について(令和6年度) — 文部科学省 (2025). 文部科学省
義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案 要綱 — 文部科学省 (2025). 文部科学省
教育職員の健康及び福祉の確保を図るための指針改正のポイント — 文部科学省 (2025). 文部科学省
令和7年度公立学校教員採用選考試験の実施状況 — 文部科学省 (2025). 文部科学省



