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一般社団法人 社会構想デザイン機構

熊本の車社会は、道路では解けない — 公共交通の負のスパイラルと、立地から逆算する交通

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ヨコタナオヤ(横田直也)
約6分で読めます

半導体産業が集まる熊本都市圏で、渋滞が深刻になっている。熊本都市圏パーソントリップ調査によれば、車の分担率は1997年の59.3%から2023年の67.3%へ上がり、公共交通は5.2%へ下がった。ただし移動の総量はむしろ2012年比0.85倍に減っており、渋滞は都市圏全体の交通量では説明が付かない。道路を増やしても渋滞は解けず、高速道路の無料化実験では交通量が約79%増えた。運転手不足から減便・利用減・不採算・撤退が循環する負のスパイラルを読み、道路の拡張ではなく居住立地と公共交通を逆算で結び直す論点を示す。

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ざっくり言うと

  1. 熊本都市圏の車の分担率は1997年59.3%、2012年64.4%、2023年67.3%と26年で8ポイント上がり、公共交通は5.9%から5.2%へ下がった
  2. 公共交通の落ち込みはバスに集中している。バスは4.1%から2.8%へ下がる一方、市電は0.7%から1.0%へ、鉄道は1.1%から1.5%へ上がった
  3. 移動の総量は2012年の275.3万トリップ/日から2023年は233.5万へ0.85倍に減り、外出率も88.5%から79.0%へ下がっている
  4. 道路を増やしても渋滞は解けず、高速道路の無料化実験では交通量が約79%増えて、使いやすさを上げれば需要も増えることが示された
  5. 公共交通は運転手不足から減便・利用減・不採算・撤退が循環する負のスパイラルに入り、車依存をさらに強めている
1運転手が足りなくなる
2便数を減らし、路線を廃止する
3使いにくくなり、利用者が減る
4採算が悪化する
5さらに便を減らし、撤退する
1に戻り、運転手不足がさらに進む(車依存が強まる)

熊本都市圏では車の分担率が64.4%から67.3%へ上がり、公共交通の分担率は5.9%から5.2%へ下がった。道路を増やしても渋滞は解けない。高速道路の無料化実験では料金を下げただけで交通量が約79%増えた。使いやすさを上げれば需要も増える。出口は、道路の拡張ではなく、居住立地と公共交通を逆算で結び直すことにある。

公共交通の負のスパイラル

何が起きているのか

半導体集積が進む熊本都市圏で渋滞が深刻化。車の分担率は26年で8ポイント上がったが、移動の総量はむしろ減っている

半導体産業が集まる熊本都市圏で、渋滞が深刻になっている。FIRST-HAND Local が伝える現場でも、車に頼る暮らしが年々深まっている様子が語られる。

車の分担率は26年で8ポイント上がった

熊本県と熊本市などがまとめた熊本都市圏パーソントリップ調査は、1997年・2012年・2023年の三時点を同じ物差しで比べている。代表交通手段のうち自動車が占める割合は、59.3%、64.4%、67.3%と上がり続けた。26年で8ポイントである。公共交通は5.9%、5.9%、5.2%と推移した。自転車は16.3%から9.4%へとほぼ半分になっている。

減っているのはバスである

公共交通の内訳を開くと、落ち込みが一様でないことが分かる。バスは4.1%、3.8%、2.8%と下がり続けた一方、市電は0.7%から1.0%へ、鉄道は1.1%から1.5%へ上がっている。公共交通全体が0.7ポイント下がったが、その内訳を見ればバスが1.3ポイント落ち、軌道系が0.7ポイント伸びた結果である。公共交通が一律に見放されたのではなく、路線バスという特定の形が痩せている。

移動の総量はむしろ減っている

もう一つ、見落とされやすい事実がある。都市圏の移動そのものは増えていない。総トリップ数は1997年の227.4万から2012年に275.3万まで伸びたあと、2023年は233.5万トリップ/日、2012年比0.85倍へ減った。外出率も83.2%、88.5%、79.0%と、2012年をはさんで山なりに動いている。

年齢で割ると、減り方は一様でない。15〜64歳のトリップは2012年比0.74倍、194.3万から144.2万へ落ちた。一方で65歳以上は1.13倍の62.5万、5〜14歳は1.04倍の26.8万で、どちらも減っていない。1997年と比べると、65歳以上のトリップは22.4万から62.5万へ2.8倍になった。働く世代が動かなくなり、高齢層の移動が積み上がった。

移動の総量が減っても渋滞が緩まないのは、この入れ替わりとも関わる。減ったのは通勤通学の時間帯に集中しやすい15〜64歳の移動であり、増えたのは日中に分散しやすい高齢層の移動である。総量の減り方と、時間帯ごとの詰まり方は、同じ向きに動くとは限らない。

都市圏をまたぐ移動も減っている。都市圏の内側で完結する移動は2012年比0.88倍にとどまる一方、都市圏をまたぐ流出入は0.60倍まで落ちた。移動は都市圏の内側へ縮んでいる。

一つの数字を見出しに据えるときに何が落ちるかは、統計リテラシー入門(このサイトの記事)で整理した論点そのものである。分担率だけを見れば車依存は深まっており、総量だけを見れば移動は減っている。どちらも同じ調査の同じ表に載っている。

ここで注意がいる。公表された分担率と総トリップ数を掛け合わせると、自動車が担うトリップは2012年の約177万から2023年は約157万へ、実数では減る計算になる。つまり渋滞の悪化は、都市圏全体の交通量が増えたからでは説明が付かない。分担率が上がったことと、渋滞がひどくなったことは、別々に説明を要する。

道路を増やしても渋滞が減らない

対策は打たれている。熊本都市圏では、渋滞の緩和に向けて道路の整備が続けられてきた。それでも渋滞は減らない。現場では、道路を増やしても渋滞は減らない、という声が語られる。半導体工場の進出が、20年の周期を見込んで設計してきたインフラの想定を超える需要を、特定の場所と時間帯に集中して生んだからだ。都市圏の総量が減っていても、どこかに集まれば道路は詰まる。

背景と文脈

道路を広げて使いやすくするほど交通量も増え、公共交通は運転手不足から減便・利用減・不採算・撤退の負のスパイラルに入っている

使いやすさを上げれば需要も増える

道路を増やしても渋滞が減らないのは、熊本だけの話ではない。道路を広げて通りやすくすると、これまで運転を控えていた人まで車を使い始め、交通量そのものが増える。こうした動きは、需要を呼び込む向きに働く。たとえば国が行った高速道路の無料化実験では、料金という障壁を下げただけで、対象区間の交通量が実験前の1日8,600台から15,400台へ、約79%増えた。無料化は料金を、道路の拡張は所要時間を下げる。手立ては違うが、車の使いやすさを上げれば需要も増えるという点は同じだ。だとすれば道路の拡張も、渋滞を解くどころか、新たな交通を呼び込みかねない。

運ぶ手そのものが足りない

一方で、その受け皿になるはずの公共交通は痩せ細っている。運転手が足りなくなり、便を減らし、路線を廃止する。使いにくくなって利用者が減り、採算が悪化し、さらに便を減らす。この負のスパイラルが各地で回っている。バスの運転手は、2021年の11万6千人から2030年に9万3千人へ減り、必要人員12万9千人に対して3万6千人が不足すると試算されている。運ぶ手が減れば、公共交通はさらに縮む。熊本の分担率でバスだけが落ち続けているのは、この全国的な縮みが地域の数字に出た形でもある。

構造を読む

全国に約2,500の交通空白がある。出口は道路拡張でなく、公共交通を軸に居住立地を逆算で設計し直すことにある

渋滞と交通空白は同じ根から出ている

車がなければ暮らせない場所が広がるほど、公共交通は成り立たなくなる。国は、路線バスなどが届かない地域を「交通空白」と呼び、全国に約2,500の交通空白があると認めた。渋滞と交通空白は、車依存という同じ根から出た、表と裏である。

立地から逆算する動きは始まっている

だとすれば、打つ手は道路をさらに広げることではない。使いやすさを上げれば需要が増える以上、道路の拡張は追いかけっこになる。必要なのは、公共交通が成り立つ形から居住の立地を逆算し、住まいと交通を結び直すことだ。その動きは始まっている。国交省によれば、コンパクトなまちづくりの立地適正化計画を作った527都市のうち、424自治体が地域公共交通計画も併せて策定し、住まいの立地と交通を一体で考え始めた。

軌道系が伸びているという熊本の数字は、この方向に一つの手がかりを与える。市電と鉄道は、走る場所が固定されている。沿線に住まいと用事が集まれば使われるし、集まらなければ使われない。バスのように路線をたたんで撤退することもしにくい。立地と交通を一体で設計するという話は、抽象的な理念ではなく、すでに分担率の動きとして現れている。

分かれ道はどこにあるか

車がなければ暮らせない場所に住まいを増やし続けるのか、それとも公共交通が成り立つ形から立地を設計し直すのか。分かれ道はそこにある。道路を増やすたびに車が増え、公共交通が痩せ、交通空白が広がる。この追いかけっこを止めるには、交通を後から足すのではなく、どこに人が住むかを交通から逆算する発想がいる。

渋滞は、道路の足りなさではなく、暮らしと交通の設計のずれから生まれている。熊本の数字が示しているのは、都市圏全体では移動が減っているのに、特定の場所と時間に交通が集まって詰まっている、というずれだ。そのずれを正面から組み直せるかどうかに、地域の移動を守れるかがかかっている。

この記事で使った統計の出典

  1. 1熊本県 熊本都市圏パーソントリップ調査 調査結果の概要(1997年→2012年→2023年) 出典を開く
  2. 2熊本県 熊本都市圏パーソントリップ調査 調査結果の概要(1997年→2023年) 出典を開く
  3. 3熊本県 熊本都市圏パーソントリップ調査 調査結果の概要(2012年→2023年) 出典を開く
  4. 4熊本県 熊本都市圏パーソントリップ調査 調査結果の概要(2012年比) 出典を開く
  5. 5国土交通省 高速道路無料化社会実験の状況について(2010年) 出典を開く
  6. 6公益社団法人日本バス協会(国土交通省審議会提出資料)(2021年→2030年試算) 出典を開く
  7. 7国土交通省 地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部改正法案(閣議決定資料)(2026年3月) 出典を開く
  8. 8国土交通省 立地適正化計画と地域公共交通計画の連携(2023年7月末) 出典を開く

参考書籍

参考文献

熊本都市圏パーソントリップ調査 調査結果の概要熊本県 (2024). 熊本県

熊本都市圏パーソントリップ調査(令和5年)の実施について熊本市 (2023). 熊本市

高速道路無料化社会実験の状況について国土交通省 (2010). 国土交通省

バス事業の現状と課題(国土交通省審議会提出資料)公益社団法人日本バス協会 (2023). 国土交通省 交通政策審議会

地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律案(交通空白の解消)国土交通省 (2026). 国土交通省

立地適正化計画と地域公共交通計画の連携状況国土交通省 (2023). 国土交通省

訂正履歴

  1. バス運転者の推計を「年度」から出典どおりの「年」に直し、必要人員も併記しました。

    訂正前
    2021年度の約11.6万人から2030年度に約9.3万人へ減り、約3.6万人が不足する
    訂正後
    2021年の11万6千人から2030年に9万3千人へ減り、必要人員12万9千人に対して3万6千人が不足する

    誤った理由 日本バス協会の図は横軸を2017〜2030の「年」で示しており、年度ではありません。数値そのもの(116 / 93 / 36千人)は図と一致していました。不足の意味が分かるよう、比較対象である必要人員12万9千人を加えています。

  2. 熊本都市圏の交通手段分担率を、出典が示す3回の調査すべての値に改めました。

    訂正前
    車を使う割合は64.4%から67.3%へ上がり、公共交通の分担率は5.9%から5.2%へ下がった
    訂正後
    59.3%、64.4%、67.3%/5.9%、5.9%、5.2%/自転車は16.3%から9.4%へ/徒歩は4.1%、3.8%、2.8%

    誤った理由 3回の調査のうち中間の回を飛ばし、最初と最後だけを結んでいました。公共交通は中間回で横ばいだったため、変化の見え方が違います。

読んだ後に考えてみよう

  1. あなたの地域では、道路を増やすことと公共交通を維持することの、どちらに予算と設計の重心が置かれているか
  2. 車がなければ暮らせない場所に住まいを増やし続けることは、将来の交通と財政にどんな負担を残すか
  3. 居住の立地を、公共交通が成り立つ形から逆算して設計し直せるか

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